五月十三日 日曜日 きっちり朝イチ

 B市某所、一般的には森下邸と呼ばれる、こんな田舎町には似合わぬ豪華な家の一室にて、第一回合同祭第?回運営会議が行われていた。
 筈だった。
 これまで回を重ねて来たこの会議、はっきり言ってほぼ全て成田斉志による服従話、人はそれをマシンガン命令トークと呼んだ、が展開されていただけだった。反論は一切許されず、初回以降発言もほぼ不可能。会議とは名ばかりだったこの会議はやはり今回も名ばかりの会議だった。なぜなら本日の会議は合同祭が主題ではなかった。主題は行事ではなく人物で、その名は斉藤梅子、というA高の女生徒らしかった。
 この場にいる全員が彼女の名を知ってはいる、ある程度事情も察している。しかし本日の会議、とても後日後々の為の会議議事録に記載出来るものではなかった。何故ならその内容は単なる惚気話だった。
 これを言った、いや、マシンガン惚気トークを炸裂させたのは間違いなく堅物硬派、だった、じゃなかったっけ、と誰もが首を捻った成田斉志。
 そんなわけで今回は、その場にいた誰もが黙っちゃいなかった。心の中で、なにが運営会議だこの野郎、朝っぱらから呼び付けやがって、公私混同も甚だしいぞとツッコミを入れながら。

五月十三日 日曜日 午後

 我が不明のこととは言え……今日の約束、午後でよかった。午前中……意識ありませんでした……やっぱり躯、ちょっときつい。けどその……逢いたかった。
 ブラ、返してくれませんでした。なんとか星人って言ったからって。かわりにこんど下着一式を買ってくれるそうです……ちょっとサイズが落ちたから……なんとか星人め……エプロンとかも買いたいな、とか言っていたけど、わたし料理出来ないんだけど……。きっと成田くんが自分で使う分のことでしょう、ええ、この際いやな予感は置いときます。
 成田くんは躯中痣だらけだった。顔のも、ガーゼとか貼っていないだけだったし。二階から転げ落ちたらでかいドーベルマンが二匹いて取っ組み合いと話し合いの末勝利した、とかよく分からない言い訳を学校の先生にして、無理矢理納得させたそう。どうしてそれで納得するかな先生達……。わたしは勿論、平屋に住むひとのそんな言い分なんて納得出来なかったからちゃんと質問したのだけど、間違いなく二階でドーベルマン二匹だそう。いいやつらだ、とかこれまたよく分からないことを言っていた。
 日曜午後に女友達二人と会います、と気合いと勇気を込めて成田くんにちゃんと報告した。そうしたら、いいよ、って。穏やかそうに言っていた。

 そんなわけで午後二時、明美の家の二階。ここへ来るのは二度目。
 お世話かけっぱなしの明美。全然連絡していなかったマコ。当然わたしは立場が弱いわけで……その割に、会うと実にのほほんな会話から始まった。
「明美ありがとう、なんか本当にいつもお世話になっていて」
「いいさ別にー」
「ごめんねマコ、全然連絡取らないで。あの、このあいだは嬉しかった」
「いいよ別にー」
 二人とも、とってもにっこり笑うので、あの日曜にみっちり話とか、告り話の結果とかは、なし崩しで済むのかなー、なんて甘い考えを持っていた。
 けど、三時のおやつと相成りまして。
 宴もたけなわという感じになって……いろいろ……その油断して……。
 そんなわたしに明美がさくっと切り出した。
「実はさあ、あたし運営会議で成田と派手に喧嘩しちゃってェ~~。あいつどうだった?」
「えっ、あの体の痣、明美が……」
 あれっ??
 なんか……二人のお目々が今、にやっと……
「ふっ……」
 ……なにがそんなにおかしい、の……
「はーーーーーーーーーーーっはっはっはっは! 斉藤梅子語るに落ちた! そう? 痣!? 体に?? そんなのあるのかよ!」
 ……へっ……???……
「あたしは喧嘩したと言っただけで、なにも殴り合いしたなんて言っちゃいない!」
 ……あ……
「少なくともあたしが見た限りは~~? 確かに痣、面には出来ていたけどねえ! か・ら・だ・のォ~~~~~~~?? あたしが知るか!!」
 ……れ……
「素っ裸でも、見なきゃ、……くっくっく……体に痣が浮いているかなんざ……分かるわけァないだろ!!! 今衣替え前だ!」
 ……あー……れーー……
「そもそもいつの運営会議だとも……く、口喧嘩だけとかも……考えていないんだもんなあ……くっ……がーーーーーっはっはっは!!」
 ずるいよー……明美さーん……
「つまり!」
「あんたは!」
『成田斉志くんと深~~いお付き合いをしているワケですね~~~~!?』
 友達~~~~ってなんだーーっけ、なんだーっけ……

 マコと明美。高校生活で初めて得た友人達はわたしが昇天しているのを尻目に好き放題述べくった。
「いっやーーーあっはっはっはっはー、一発でゲロするんだもんなあ」
「ウメコは楽でいいよねえ」
「楽っていういか分かり易過ぎっていうか……っくっくっくっく」
「真っ赤になってノビちゃっているよ、全くひとが大変だっていうのにさあ」
 へ?
「マ、マコ? 大変ってなにが!?」
「で、どうバージンを奪われちゃったのかな~~?」
 二人はわたしが再び意識を手放すのを横目に、またしても好き放題言い合っていた。
「成田もやるよねえ……どー見ても堅物って、面しといてさあ……」
「も、しっぽりって、……感じじゃない? 何発ヤりまくっているんだか」
「見なよこの初心い反応……がーっはっはっは!!」
 他にもなにか言っていましたが割愛です。省きます。中略です。なんでそんなの一々言われなきゃいけないのー。そ、そーよ!
「あ、あのその、せ、詮索はいけないんだぞっ」
「なにさウメコあたしとD高戻ったときひとのこと散々ぴーちくぱーちく当てずっぽ言ったくせに」
 へ。
「えーなんだよそれ! そういうの嫌いとかって言っていたじゃんー!?」
「とーんでもないとんでもない、ひとの名前無理やり訊き出してがーがーがーがーよくもまあまあそこまで適当八百並べ立てられるなって感心する程喋りまくったよ勝手な想像!!」
 や、あのーそのあれは、ははは話の間を持たせたかったというかなんというか……
「じゃ遠慮は無しだ。起きなウメコ、たっぷりゲロして貰おうじゃないか。まさかこんなもので済むと思うなよ」
 たっぷりゲロさせられました。そんなものは全略です。
「ま。よく分かったよウメコちゃん。あんたと成田が、あんた流に言えば? う~~~~~~~~~んと!? 深ーーーーーーーーーくて、とーーーーーーーーーっても入りこめない程!? 愛し合っているっちゅうのがねえ!」
「し、週に一度、逢う? 土曜? あっはっは、だから今日日曜なワケねあたしら女は。あ、しかも午後だよ明美。さては寝ていたな? 午前中。夕べの疲れを取っていたな?」
「お願い……」
『ナニかなァ~~らぶらぶウメコちゃァ~~ん?』
「み、みんなには……言わないで……」
「ほお。言わないで。そぉ。それがお願いするやつの態度?」
 うっ。
「そういうときはどうするのか、まさかウメコが知らない筈ないよねえ。あたしD高で全員に向かってアタマ下げたっけなー、あんたに言われて」
 うっっ。
 ここで、じゃあどぉすれば……なんて言った日には、なにをされるか分からない……そんなひと、もう作りたくないーー……
 わたしはどうしようもないので、両手を畳に付けて頭を下げた。
「……お願いします、明美様。マコ様。どうかみんなにはこのこと、内緒にして下さいませ。斉藤梅子一生のお願いです……」
『がーーーーーーっはっはっは!』
 わたしがそんなに笑ったら絶対腹筋が持たないぞ、というくらいの爆笑はこの後長い間続きました。その間ずーっと手をついたままでした。わたし。
「し、しかしまあ……あんたつい最近まで友達ひとりだけって言っていたじゃん」
「よかったねぇ彼氏出来て」
「え」
「なに。もう茶化しゃしないけど、とりあえず彼氏だろ」
「アタマよくてカッコよくてすごいひと、だっけ。まあそれは聞いた話だけでも充分知っているよ。なんか文句あんの? オトコにさ」
「や、あの」
「なにさ」
「そのー……」
「言わないの? ウメコ。さっきの蒸し返して上げてもいいけど」
「いやあのそのっっ」
「じゃなんだよ」
「か、……れしとか、おとことか別に……そんな……こと」
「じゃなんなんだよ。まさかいきなり亭主ですとか言い出すんじゃないだろうな」
「そこまで話進んでいるわけないよねウメコ」
「その……そういうこと……。彼氏がどうとか……言われたことない」
『は?』
「わたし……な、成田くん、の……なんだか分からない」
『は??』
 思えば付き合ってください、とか。彼女になってください、とか。そういう話出たことない。というよりも、それをとんでもなく飛び越した状況にあるようなないような……。
 などと思っていると二人とも盛大なタメ息をついた。
『ウメコ。電話しな』
「え」
「成田にだ!」
「今すぐだ!」
「……えー……」
「えーじゃない! 蒸し返されたいかッ!!」
「はっハイッただ今!!」
 うう、なんでなんでなんで今日はこんな展開にーー……いくらわたしが毎度お騒がせのバカッタレーだからって……。と嘆きつつもイヤイヤ電話した。うう、勉強の邪魔だけはしたくないとゆーのにー……
 成田くんはワンコールもせずに出た。
「あ、あの。成田くん」
「うわー見た今の、すげぇ速攻で出たぜ、やつ」
「見た見た。とんっでもないバカップル」
 うう。そんなこと言うなー。バカはわたしだけだぞマコ。
「どうした? 梅子」
 あう。声が優しい。ああ一服の清涼剤……
「あああああああの、あの勉強の邪魔してごめんなさい、いい今その、ととと友達のところに、居るんだけど……」
「自分のオトコになにを遠慮しているんだ! どもっているんじゃないよ!」
「友達じゃねえ、親友だろ!!」
「それで、親友の家でなにがあった梅子」
 き、聴こえています電話の向こうに。声でかいです明美とマコ。
「ああのあのあのあのあの」
「おいウメコのオトコ! 話は全てウメコから聞いた!」
「ウメコ泣いているぞ! 自分があんたのなんだか分からないって!! ちゃんと付き合ってんのかよそれでも!」
 ひーえー泣いていないってばー、そんなはっきり言わないでよー!
「……梅子。俺からすぐに掛け直す、一旦電話を切る」
「ハ、ハイ」
 わたしは成田くんの呆れたような口調の指示にそれこそ涙ちょちょ切れながら従いまして、一旦電話を切った。するとすぐに成田くんから掛かって来て、それに出て、言われた通りボタンを操作すると……携帯電話がスピーカーみたいになった。成田くんの声がここにいるみんなに聞こえる。
「俺は成田斉志」
「佐々木明美!」
「中野真子!」
 明美とマコは堂々とふんぞり返って名乗った。その居直りっぷりがスバラシイ……。
「梅子。それに佐々木、中野。よく聞け。梅子はな」
 ……なんだろう……
「俺のだ」
 脱、力。
「俺は梅子のだ。きっちり結婚する」
 いまわたしは現実を拒否しています。
「おい成田! ウメコ撃沈してんぞ! てめぇホントに高校生か! もっと普通のことを言え!」
「誰がそんなの皆に言えるか! カレシかオトコぐらいにしとけ! 一々ウメコを気絶させんな、あんたのオンナの性格くらい把握しろ!」
「梅子。聴いているな?」
 ちょっと……だけ……。
「俺はもう二度と梅子の厭がることはしない。梅子照れ屋だもんな、まあその割に凄いこと言」
「わーぎゃーぎゃーダメーーーーーーーー!!!」
「なにを言ったんだウメコ!!」
「成田が凄いって言うってどんなん!?」
 わたしの耳は都合よく出来ているんです。今はなにも聞こえません。電話の向こうのひとはなにも喋っていないんです。そうに決まっています。
「佐々木、中野。残念だったな、いくら梅子の親友でもそれは言えん。俺と梅子だけの秘密だ」
 そーんなことを言ったらー……わたしはこの場でもーーーっとゲロさせられちゃうんですけどー……
「よぉし分かったあたしも女だ、黙ってウメコに後で訊く」
「もう勘弁して下さいって言うまでしばいてあげる。だから成田、もうちょっとトーン落としてまともなこと言いなよ、ウメコ困っているよ」
「お前達の方がまともじゃないような気がするが」
 だからー、火に油を注ぐー、とかいう諺をー……
「まあいい。厭々妥協しよう。梅子、いいか」
「……ハイ……」
「梅子は誰がなんと言おうと俺ので俺は問答無用で梅子のだが照れ隠しの為に対外的な呼称を、というなら仕方がない。俺の彼女、ということにしておけ。俺も梅子の彼氏ということにしておく」
「……ハイ……アリガトウゴザイマス……」
「ただし分かっているだろうな梅子。結納は八月三十一日だ。間違ってもどこかへ行って浮気するな」
「ゆいのぉお~~~~~~!?」
「マ、マジ結婚するんだ! やるじゃんウメコ!!」
「それまでの、仮だ。安心しろ」
 わーたしはーーー、貝にー、なりたいーーーー……

 後悔。
 人生でこれほどまでにこの言葉の意味を知った日はありません。
 明美は勿論マコも成田くんとは前から、とは言っても合同の話が出た直後だそうですが知り合いだそうです。付き合っていることも、だから前から知っていたそうです。わたしは嵌められたのです。
 気絶とは絶望に等しいことなのね。これ程までにそう思ったことはありません。
 わたしは、体中の水分がなくなる思いをさせられた見返りに、なんとか婚約の話とか、深い仲がどうとか、そもそも成田くんと付き合っているという話そのものを黙ってもらうことに成功しました。一縷の望みです。よくやった自分。
 けれどわたしの脳味噌の出来から言えばこれが限度だったのです。
 ええ、当事者たる成田くんとの電話は、これ以上なにを言われるかと思ってあれで切ってしまったのです。学校では澄ましておいてあげるというあの言葉を額面通りに受けとめて、明美やマコにしたようにはっきりきっぱり口止めしなかったのです。だから後にもの凄いことを成田くんこそ言うことになるのですが。
 わたしがそれをそのとき聞くことはなかった。

五月十三日 日曜日 夕刻 携帯電話にて

 置いとく大親友同士の会話だった。
「佐々木」
 掛けて来たのは斉志。
「なんだよ煩せえな、このあいだからイチイチ」
 受けているのが明美。
「中野に言わなかったのか」
「誰に何を言えってんだゲス野郎。あれでマコ、自分がウメコの一番の親友と思っているんだ。思い込みは激しい口は悪い、イカれた行動力だけはあたしよりある。あんなことを知った日にゃ今頃あんたの家一帯は燃えているぞ。
 いいか成田。あのことあたしが知っているってのはウメコにも言わない。だがな、ウメコがあんたを嫌いと言ったら速攻で別れろ。その時は今度こそ容赦しない」
「それはない。安心しろ」
「ホントかねぇ?」

五月十三日 日曜日 夜 携帯電話にて

 置いとく大親友同士の会話だった。
「どうだったアケ!」
 掛けて来たのが遼太郎。
「引っ掛かったに決まってんだろ!?」
 受けているのが明美。
「やっぱ!?」
「あたし、成田と喧嘩したんだ、やつはどうだった? ってだけ訊いたのさ、まず」
「マジ蹴殴り倒したなんて言わないで、な」
「そう。したらウメコのやつ、あああの体の痣明美がァ? なんて言うんだぜ!?」
「がーっはっはっは!」
「たったこれ一発でゲロしたさ! バカだよな、もし痣が出来たって、そんなの当人から“痣が体中にあるって言われた”とかにすればいいじゃん? 素っ裸見てなくったって分かるって! ま・もっともマジ体中に出来ていただろうけどさ!」
「俺も殴ったからな。しかし間違ったって斉の野郎、ボク蹴殴られちゃって痣いっぱい浮いちゃっているんですぅ、なーーーんて言うか!」
「そう! そういうこと考えてもいないでやんの! いや傑作だったね!」
「単純だ!」
「アホだ!」
「梅の字だ!」
『ぎゃーーーっはっはっは!』
 ナミダまで流して笑い合う置いとく大親友は全員筋力に自信があるので、腹筋だろうがなんだろうが使いまくっても減りはしない。
「それで? 他には?」
「あー、馴れ初めとかな。メーワク掛けやがってこん畜生と思っていたどころか……ホレあんたも知っているんだろ、成田ちゃんが命令トーク中にお席を外して、ってな下り。目の前に突然王子様が現れたがどうの言いやがったぜあのアホが……あーハラむず痒くなってきた……」
「そんな予想内の事態は後でもいい。肝心のゲロ内容は」
「体位はどれが好きとか咥えた感想は、とかか?」
「おーそれだ!!!」
「んなもん聞いたって言うわきゃねえだろ野郎によ!!」
「ケッ、明美ちゃんのケチ」
「バーカ。いくらあたしだってな、訊いていいこと言っていいこと、そうでないことの区別くらい付いてらァ」
「ということは、例の殺し文句は訊けなかったのか」
「顔を真っ赤にして“アイシテルなんて言ってしまった”だと」
「覚えていねェのかよ」
「らしいわ」
「らしいというかなんというか……例の件は?」
「はっきりきっぱり削ぎ落として喋った」
「スッパリか」
「思いっきりな。土曜日はいつも逢うってことにしているんだけど? このあいだは自分がバカ言って怒らせて思わず泣いちゃって? けど仲直り出来たから昨日逢いに行っちゃった。だとさあのアホ」
「らし過ぎらァ……つまり梅の字もマジで斉の野郎に惚れている、と」
「ああ、マジでウメコ成田に惚れているね」
「当事者二人が言うんならしょうがねェな」
「確かにそうだが……納得はいかない」
「それは俺もだ。けどよアケ、お前も考えている通り第三者の介入はここまでだ」
「ああ、ウメコ最後にゃ干涸びていたからな。茶化すのはここまでにするさ。土曜はあたしも遠慮する。ああそうだ、成田と付き合っているって話、誰にもするな、だとよ」
「はァー、どこまで梅の字アンポンタンなんだか。斉がそんなんで済ますと思っているのかねェ」
「ま、哀しいかな地力の差というか」
「とは言え、まァ……どっこいかもな」
「かもな。ただしあたしはウメコの味方だ」
「だろうな」
「あんたを敵に回したかないね」
「そいつァお高く買われたことで……安心しろ、間違っても梅の字をあんな奴には近付けん。じゃあなアケ、クソして寝ろ」
「おう! ゲロはもういいからな!」

五月十三日 日曜日 夜 携帯電話にて

 親友同士の会話だった。
「あ、明美、やっと繋がった」
 掛けているのが梅子。
「どうしたよウメコ。まだ喋り足りない?」
 受けているのはまたまた明美。
「いいいいいやぁああああそんなんじゃなくて、マコが大変だって言っていたのに訊くの忘れていた、ねえ今マコの家に電話したら、お客さまのお掛けになった電話番号は現在使われておりませんなんて出たんだよ」
「ばーか。“あんたにゲロさせられて訊けなかったじゃねえか、前から電話はもちろん忘れずにしていたけど出なかった、マコの家へ行くのはまずいっていうし、連絡取れたあんたなら事情知っているんだろ”くらい言えよ、親友だと言ったろあたしら。ガンと訊きな」
「うわ……なんで……その……」
 なんでそこまで自分の言いたいことが分かるのだと言いたいらしいが、悲しいかな地力の差。口上のドへたくそな梅子ではそこまでアタマが回らない。大体アタマは元から回らない。
「そんなに遠慮していると……親しいやつにほど痛い目見るよ」
「……」
「マコの件。当事者が言うまで待ちな」
「え……」
「マコが自分自身からあんたに言って来るまで待ちな。マコ、あんたの電話番号を知っているんだろ」
「うん」
「ならちゃんと掛けて来る」
「……うん、分かった。待つ」