五月一日 火曜日 朝

 ゴールデンウィークの谷間。なんとか普通に歩けるようにはなった、と思う。けど、躯、だるい……。
 朝はなんとか起きて、ご飯を食べる時。ふと黒電話が目に入る。最近あんまりこっちを使っていないなあ……。
 なんだか、忘れているような。あんまり、とろけた二日間だったから。
 とろけた二日間。
 そうなれたのは……。
「わーーーーーーーっっ!!!」
 朝っぱらから大声を出して父ちゃん母ちゃんに叱られる。わ、忘れていた。なんてわたしのバカ!!
 もう焦って焦って急いで黒電話へかじりつく。結局携帯のボタンを指でこわごわ押すよりジーコロジーコロ、ダイヤルを回す方が早かったりして。
 携帯でない電話番号へ。
 そういうひとはもう、僅かしかいない。すごくお世話になった……マコ。

 背中を押してくれて。わたしの、わけの分からない、我を忘れたもの言いでも分かってくれて。わたしがどうすべきか、相手の名前も全然分からないのに、教えてくれて。伝えてくれて。
 ……捨てなくてよかった。

 けど、電話に出ない。
 ツー、ツー、って、それだけ。
 やっぱり、なのかな……。

 もう時間がなかったので、学校へ。ちょっと、……なのでバスに乗った。自転車よりは余裕のある交通手段を使って学校へ行く途中、無い頭で考えた。
 まず、マコの家へは来ないでくれと言われてある。住所は絶対言えない、と。
「あんな真っ赤な他人なんかにウメコを会わせたくない」
 他人とは、下宿先のひと達のこと。だから電話も、実は掛けづらい。マコは番号をしぶしぶ、というより嫌がりながら教えてくれた。
「出られない時があるかも知んない。ここへ掛ける時は、絶対番号非通知にして」
 そんなことまで言っていた。マコは住んでいるところを家、とは言わない。
 よくあの時繋がったな……。
 どうしよう、マコに連絡取りたい。どうしよう……。
 お陰でちゃんと告白出来たよ、って言いたかったのに。
 明日もう一度電話しよう。けど朝のタイミングが駄目なら、あの繋がった時間帯がいいかな。帰ったらもう一度電話しよう。

五月一日 火曜日 三限目終了後

 運動部は昼も部活がある。だから三限目、渡り廊下を通って、右へ折れる。一年D組へ。
 環を呼んで、一緒に廊下へ出た。
 恥ずかしかったけど。好きな人が出来ました、って小声で言った。
「……そ、う……」
「うん、ありがとう環。これもみんな環のお陰」
「……そんなことないわ!」
「ある! 環が一年間、ずっと勉強を教えてくれたからこの学校に入れたんだもの! 感謝、してもし足りない」
「梅子。その人も梅子のこと、そうだって?」
「う、うん」
 環はわたしに合わせて、小声で言ってくれた。もし誰かがそばで聞いていても、分からないように言ってくれた。
「おめでとう梅子! よかった、本当によかった!」
 環が喜んでくれた。嬉しい、よかった、環がおめでとうって言ってくれた。ほっとした。
 環と成田くんは噂になったひと。わたしも、その誤解してしまったし……。けどもう似合いがどうとか関係ない、当人がそう言ったんじゃないから。当人の環がこんなに喜んでくれる。
 よかった。

 じゃあ、お互いクラスで頑張ろう、そう言って誕生日プレゼントを渡した。今日は環の誕生日だから。
 ちゃんと直接逢って言って渡したかったから。……よかった。

 放課後の部活。西川は、先日とは違って背中が集中していた。今までで一番の。
 ただ、魅入るようにモニターを見つめた。

 家へ帰ってから、マコに、このあいだ繋がった時間帯に電話したけど、出なかった。

五月二日 水曜日

 朝、マコにまた電話したけど、やっぱり出ない。
 マコの家庭環境は聞いたけど友達関係は……明美に訊いていいものなのかな……。

五月三日 木曜日

 朝ご飯を食べた後九時に家を出て、二番駅までバスで。成田くんに駅まで迎えに来てもらう。今日、十六歳になるひとに。
 もう、手は繋がない。左手首と──薬指。

 誕生日プレゼントとして、うんと長いリボンを買った。これがいい、梅子。とお店で言っていた成田くん。けどお金は成田くんが払って……それはわたしが買うのでは。
「俺は梅子を貰う。金で買えるものじゃなくて梅子を貰う」
 ……。
「梅子は俺に永久就職するから。そうしたらもう梅子お金使わないで済むから。それまで待っていて」
 そうですか……。

 ええ巻かれましたよ躯にわたしの、すっぽんぽんの躯にリボン! そして戴かれてしまいました……。戴きますとか言っていました。それで手首足首縛られました。痕が付いた、……なんて嬉しそうに言うなァ!
 ちなみに昨日の五月二日は西川の誕生日で、たった一日違いなのに未だにこの時期は「俺が歳上」「平日のくせに」という低レベルの会話が交わされるそうです。ついて行けません。
 わたしの誕生日は八月三十一日。学生みんなの苦悩な日。
「その日は俺が戴かれるから梅子が奪って」
 ……だそうです。どうしろと……。
「今日から四日連続だ梅子。愉しみだな……なにする?」
 服を出してくれないひとが言う台詞ではありません。