四月十六日 月曜 朝 A高

 合同祭第二回要綱は宣言通り管内五校全生徒に朝イチで回って来ていた。
 遅刻ギリギリの梅子などは朝は読めず、一限目授業中に内職して見ている。

 参加競技が各自決定されている。
 一枚目はひとりづつの予定表だった。全体会合の集合時・場所。誰がどこへ。三千弱の人数ひとりにつき一枚である。各校の、組ではなくクラス別、着席順になって配付されていたので、各クラスの週番が生徒会室に寄って用紙を受け取りそのまま考えず配付するだけでいい手際のよさ。
 希望を書いた紙には、多少の競合はこちらで調整します、とすでに事前にうたわれていることもあって誰からも文句は出なかった。栄誉あるリレー選手だけは、一覧として名前付きで載っていた。

 二枚目には、今後の予定が記されてある。全体予行練習は二回だけ。一度目は希望競技をより細かく、A・B・C……とチームに分ける。制服にて顔見せとなる。二度目は実際校庭・体育館等にジャージで出て予行練習。どちらもA高だけに全生徒を集めず、B高にも分かれる。これで半日は授業を潰さなければならないし移動もある。生徒側と先生側、金銭おのおのギリギリの妥協点だった。全員が一同に会するのは本番、五月三十一日朝。A高校庭でとなる。
 皆、その壮観さを期待した。そしてその壇上に立つのは合同祭発案者、D高生徒会長、佐々木明美。あのとき誰もが聞いた彼女の声を、今度ははじめて全員が携帯越しではなく肉声で同時に聞くことになる。

四月十六日 月曜 午前中 A高

 明美と一晩中一緒にいて、たくさん話してすっきりして。みんなとカラオケ、楽しんで。お手伝いしてほっとした。気持ちはもう大分落ち着いている。
 もし今日また来たとしても、ちゃんと言える。最後にあんなことを言わなければと思ったけれど、言ってしまったものは取り消せない。それに、そう、友達なんだからなにも気構えることなんてない。
 一限目おわりの休憩時間。むしろ待ってすらいたのだけど来なかった。二限目も、三限目も。
 お昼も来なかったことで確信した。きっと納得したんだろう。
 明美は執行部会議と言っていた。勉強もあるだろうし、忙しいと思う。こんな丁寧な資料が本当にすぐ出て来たし。
 気付いたのかも知れない。週末二日の休みの間に。間違いだったって。そして隣に本来、いるべきひとに。
 だったらもう、それでよかった。

四月十六日 月曜 放課後

 最初の水曜日は大遅刻、木曜日は取っ組み合い、金曜日はさくっと帰らされてしまった部活。これは処分のうちのひとつだけど、イヤイヤさせられている、なんかじゃない。イヤイヤ全員参加だった中学の部活。いまはそうじゃない。正式名称も分からないけど、入部拒否を逃れただけで果たしていまわたしって部員かどうかも分からないけど。
 西川は絶対とんでもない腕前に違いない。
 だからこそ、ちゃんと部活をやりたかった。

 授業がおわるとすぐ鞄に教科書ノート筆記用具その他をしまう。前の人と阿っちゃんにじゃあね、とあいさつをしてすぐさま向かうは新校舎。ノックして失礼しますと一言。引き戸を開けるとそこには確かに西川がいた。
 けど、モニターに向かってはいなかった。椅子に座ってもいない。立ち上がっていて、こっちを見ていた。その腕を組んだ高い視線から見下ろされ、
「俺は忙しい。テメェ帰れ。真っ直ぐ帰れ。クソして寝ろ」
 ……開口一発言うのがそれか西川! この、この気合をどうしてくれる!
「そういえば先輩達は?」
「えーあーいーうー、……、とにかく帰れ!!」
「西川センパイ、冷たい」
「気色悪ィからセンパイ止めい。帰っておベンキョでもしていろ。週末全国模試だなァ、テメェ自信あるのか?」
 うっ、痛いところを。……この手の話題は避けるが吉。
「……に、西川、こ、これから生徒会室?」
 合同になにか関係あるらしいひとだというのは分かったけど、資料は今日の朝一番で出ていた。さらにまた、なにかあるんだろうか。
「いや、ここで作業」
 作業! どんなのか知らないけど、西川の腕前を見られる絶好のチャンス。逃がしてなるものかっ。
「それならいいでしょう。邪魔はしません。早めに帰る。それともなに、西川、わたしの健全な部活動を邪魔する気?」
「ってンめェってやつァ……」
「はい。部活、する。わたし邪魔しない」
 ふーんだ、腕前を盗めればそれでいいんだもーんだ。
 西川はもうなにも言わなかった。イヤイヤというふうでもなんでもなく、すぐにモニター画面に向かうともうここに、わたしなんかがいるという素振りも見せず気にも留めず作業を開始する。
 マシンを起動中、鞄を部室の中央にある小さなテーブル上に置き、そのへんにあった丸い背もたれもない椅子を引っ張って、西川の背後、だとモニターが見えないので入り口近く、西川の右ななめ後ろあたりに座った。
 初めて、視る。
 西川の意識にあるのは既にモニターの向こうだけだった。
 ──いつかこうなりたい。

四月十六日 月曜 日暮れ前

 今日の斉志と遼太郎の距離は結構あった。とは言っても本来携帯電話での会話は二人の間に距離があるものだ。
「斉ちゃん。元気?」
「……」
「あー、状況を報告する。お前のはついさっき帰した、チャリなんだろ通学手段。住所・地形・距離から言って真っ直ぐ帰りゃ日暮れ前に余裕たっぷりでご帰宅だ。様子はというと、まーはっきり言ってフツー、別段変わったところはない。以上」
「……」
「なにか言ってくれると嬉しいなボク」
「すぐ帰せって言った」
「……。すまんと言った」
「言っていない。梅子、……もう大丈夫なんだろ。俺、行くからな」
「駄目だ。明日は帰らせるからとにかく駄目」
「……いいなお前は。梅子と直に会って喋って」
「こンのイヤミ節野郎が……」