四月十四日 土曜日 朝 ウメコ自宅

 もう時間は朝だった。太陽、黄色くは見えなかった。なんだか緑なような青なような。
「おハヨーござんす横島センパイ佐々木明美であります。毎度車回してもらって悪いんスけど、ちぃっと今日は別な場所へ来て貰えませんかね。ナニ、タカコとあすみはもう乗っている、と。へえ、それでいいです。ひとつヨロシク」
 明美はわたしの部屋に来て座ったあの位置のまま、携帯でどこかへ連絡していた。それをパチンと折って懐へしまうといつもの颯爽風味で向き合った。
「ウメコ。今からさ、あんたも知っているタカコと、もう一人、あすみっていうのが来る。あんた知っていたっけ?」
「うん。タカコから聞いた」
「そう。ところでさあ、あんた今日はどうするの? もう寝るか、今週大変だったもんなあ、入学早々」
「うー、それは……明美こそでしょ、ごめんね。一晩中付き合わせちゃって」
「なにを言っているんだハラ痒くなるよ。それでェ? ああ、訊くからにはあたしから話す。今日、あたしは十時に夕べ言った森下女史の所へ行って合同の運営・役員会議、執行部会だ。ま、どこかのやつのことだから結果だけ見ることになるだろうけどこれも一応オシゴトさ」
「そうなんだ……。ホント忙しいのに、ありがとう明美。あのね、わたしはほら、明美言うところのタムロの連中、さんと遊ぶの」
「おーそうか、あたしも出たいとこだが悪いな。ついでに言うとタカコもあすみも会議に出るんだよ。だから執行部会議。各校生徒会の連中が全員初めて揃うんだ。というわけで抜けらないが、代わりにあんたへ置きみやげをしておこう」
「え?」
「その泣きはらした顔じゃ遊びってわけにゃいかないだろ」
「……あ。そ、そうだね……」
「で、あすみの出番だ。あいつぁ化粧とか得意でね、いつもそれ系の道具一式を持っているのさ。そうして貰いな」
「……そう、なの?」
「ああ、今時化粧もやっていないのかよってあたしなんざ言われるクチだが苦手でね。あんたは?」
「……考えたこともない」
「そうか。まあその辺は置いて、とにかく今日はやって貰いな。大丈夫、腕は確かだ。連中によろしくな」
「うん。明美、ほんとにありがと」
「どーいたしまして、そんなわけじゃないけどウメコ。メシ! フロ!」
「は、ハイッただ今!」
 明美はわたしの両親へ異常に明るく挨拶すると、勝手知ったる我が家とばかりにどんがりちゃぶ台の一角へ座り当然のように朝ご飯をかっくらう。それは当然いいんだけど。なにせ忙しい中一晩中泣きと愚痴に付き合って貰ったし。食事をおえてお風呂に入って貰う。ふんふーん、などと鼻歌までも明るかった。明美の休日の過ごし方がなんとなく分かるなあ……。そりゃ明美には遠慮とかいう言葉は似合わないと思うけど。
 着替えは、というと明美は準備万端で我が家へ来ていたらしく、昨日とは違う服にもう着替えていた。
「やー、よく来てくれたなー、明美ちゃんー」
「まあまあ、他にもお友達が来るの? じゃあお茶を準備しようね。二人かい明美ちゃん」
「頼んまーす」
 ほんとに明美の家って感じな我が家の庭に、随分立派な車が留まった。明美が言うところの車みたい。
「お邪魔します! はじめまして野中貴子ス! っパヨ! ウメコ、明美!」
「失礼しまーす! はじめまして中井あすみです! よっウメコ、明美!」
「まーまー、よく来たねえ、ありがとうねえ」
「梅子、おまえ本当に友達いっぱい出来て……。母ちゃん嬉しいよ。あ、野中さん、中井さん。どうぞどうぞ、さあ上がってお茶でも飲んで」
「タカコでいいス!」
「あすみっス!」
「タカコ、あすみ」
 明美が二人になにやら訊いていた。
「運ちゃんにゃもう伝言済み」
「こっちも準備万端、任しとき」
 タカコと中井さんは、わたしにはよく分からない答えを明美に返していた。
「ウメコ、直で会うのは初めてだよな。こいつが中井あすみ」
 中井さん、というひとが一歩前へ出た。
「さ、ウメコの部屋へ行こ。そこで今更自己紹介だ」
「え、う、うん」
 この三人は仲、というよりもチームワークのよさ、みたいなものを感じる。タカコと明美は母ちゃんにすすめられるまま茶の間でお茶を。そして今初めて顔を合わせる中井あすみさん、を伴って、わたしは自室へ向かった。

「へーここがウメコの部屋。結構散らかっていないね」
「あ、ありがとう……」
「ナニ他人行儀に言っているんだか。さて自己紹介だ。あたしは中井あすみ、D高一年、一中出身。明美とタカコは小学校から、あたしが中学校からプラスで三人組、いつもつるんでいるのさ。あ、あすみでいいから」
「うん。わたし、斉藤梅子。A高一年。ウメコでいい。えっと、よろしく」
「よし。じゃ早速ウメコ、目を瞑りな。明美から聞いたろ? 動かないように。いいからほら早く」
 とにかく言われた通りにしたらなにか前髪をバンドのようなもので上げられた。
 わたしは一晩中泣いていた。明美の言う通り、こんな顔がさらに腫れぼったくなってて、さっき顔を洗ったとき、あっちゃーって思ったもの。
 少しねばっとした感じの液体を顔全体に塗られる。よく顔に馴染ませている。液体が乾くまでそうして。今度はまた別なのを塗られて、顔全体に。それから白粉と分かるものをぱたぱたと。多分、口紅。あとは目に……よく分からない。
「さ、出来たよ。落とす時はお母さんに聞きな」
「……うん」
「化粧、ウメコあんまりやらない?」
「うん」
「若いからそれもいいさ。でも、今日みたいな時とか、してみたい時があったらいつでも言いな。あたしの携帯番号を言うから。そうそう、聞いたけどウメコって番号を一発で覚えるって?」
「う、うん」
「こういうことなら詮索にならないだろ?」
「……うん」
「じゃ、住所も言うぞー。A市の……」
 番号も住所も覚えたけど、わたしの視線は鏡にずっと向いていた。びっくりした。目の周りの腫れぼったいのは消えているし、勿論けばけばしくなんかない。むしろ、化粧をしているのにしていない、そんな感覚。
 わたしはこんなの初めてやったから実感ないけど、……こんなふうに、ちゃんとしたのにそうだと余計な感覚を抱かせない、って、うんと上手ってことなんじゃないだろうか。
「あ、あの! ありがとねあすみ!」
「どういたしまして。マジ言ってよ、いつでも。さ、行こう。明美もタカコも待っている」
「うん」

 それからあすみ、タカコ、明美とわたし、母ちゃんの女五人が姦しく少々お喋りを。合同の組は四人とも白だった。それから、もう時間だからと三人は車で会議があるというB市へ向かった。わたしも、母ちゃんに行ってきますと言って、一番駅近くのショッピングモールへ自転車で向かった。

四月十四日 土曜日 A市内

 タムロ場所へ向かうともうみんな集まっていて、これからカラオケ行くぞー、とのこと。今日は運動部の相馬くん、忙しいというマコ、さっきの三人はいないけど、他はみんないた。
「さ、行こうウメコ。名前を気にする連合同士仲良くつるもうぜ!」
 朝子さんである。四中出身、二番駅近くに住むひとで、さっぱりした気っ風のいいおねえさん肌のひと。
 カラオケ屋さんは待ち合わせ場所の近所にあって、そこへ行くまでもみんなでワイワイ話しながら。初めて入る場所。わー、なにかカウンターがある。竹宮くんと木村くんがお店のひとと応対。なんだか慣れているみたい。
 そこから更にエレベーターで上へ。個室、みたいなお部屋に入る。そこにはテレビ、並んだ机、それを取り囲む長椅子。朝子さんに、ほらウメコ、奥に座る! と言われたので遠慮なくずずいと奥の椅子に座った。わたしの左へは朝子さんが座ったけど、右の隣には男子が座った。
 それで、あ、いけないと思ったら。
「なにをやってんのウメコ」
「え、あの、あのわたし」
 左隣へ座った朝子さんに小声で説明すると、
「あんたねえ、じゃこのあいだ店にあんた来たときなにしたさ」
 へ。
「あんたあの連中と初めて会ったって言ったじゃん? なのにガンガン喋るわバンゴ交換するわ野郎共に囲まれるわ。今更なにさ」
 ……。
「大体ねえ、カラオケなんていうもんはヨコに野郎だろうが誰だろうが座るんだよトーゼン。あんたのまわりだけぽっかり席浮かしたいか? 違うべ?」
「……うん」
「大体こいつらそんなことカンケーないよ! いいやつらばっかだろ?」
「うん」
「そんじゃあ楽しむべ。明美もそう言っていたよな!」
「うん!」
 それから、もうとにかくよく分からないけど朝子さんの言う通り、明美の考えている通り。うーんと楽しんだ。うたをみんなの前でうたうなんて恥ずかしかったけど、最初は声が小さかったけど。なにをやっているんだ斉藤、D高へ来たときのデカい声はどうした、とか、あの度胸はどこ行った、とか、三百人以上前に啖呵切るよりは簡単だろとか男の子に突っ込まれ、そうだそうだと女の子にも言われ、我ながらそういえばそうだ、と思っていろいろ吹っ切れた。ゆうべ泣きまくって、それで随分すっきりしていたし。
 だからうんとうんと楽しんだ。

 うたわないときは、拍手を入れつつみんなと合同の話をした。どの組だー、とか。希望競技はどれだー、とか。お楽しみ競技ってなにかな、とか。この中でリレーに出ると言ったらやっぱり慶ちゃんだろうとか。
 まだ確定していない競技はともかく、組ははっきり分かっていたので全員の組は分かった。わたしと同じ白は明美・タカコ・あすみ・竹宮くん・木村くん、慶ちゃん。朝子さんを始め別になっちゃったひととは残念ではあるけど、うん、面白そう。
 うたは木村くんと竹宮くんがもうプロ並だったなあ。わたしは、……当然へた、です。選択教科は美術だし。とは言っても、こういうふうにひとまえでうたうのが厭だった、というだけなのだけど。へただから、自分からカラオケ、行こうとは思わないけど、こうやってみんなとなら、いいかなと思う。

四月十四日 土曜日 十時 和子宅 執行部勢揃い

「さてと。出たねえ相変わらず早速」
 A高生徒会長三年、横島茂の目の前には遼太郎と斉志が昨日のうちに作成済みの各全校生徒希望競技一覧があった。当然全て決定事項、覆るなど有り得ない。
「いやあ、白男子のリレーは全員一年か」
 これはE高生徒会長、二年。渡辺和彦。
「これだけのタイム差だとそうね」
 同じくE高二年、副会長の藤代りう。
「遼太郎に杉本君、そして成田。まあ……暇ね」
 B高生徒会長、二年。森下和子。
「そんなんでいいのかよー」
 D高生徒会長、一年。佐々木明美。
「いいんじゃない? 三年が三人並んだわけじゃなし」
 最後にC高生徒会長、三年。前野勇。
 自己申告のタイム順より問答無用で決定された男女別リレー。合同祭最終種目の花形は、出場選手は各組男も女もそれぞれ三名。原則として各学年から一人づつ、となっている。公平を期する為である。それぞれに補欠が各一人選ばれている。
「まあいいや。面白ければそれでいいんだ。前野の言う通りズルでもなし、文句は出るまい」
 横島は言ったが明美はまだ不満そう。なお明美は女子の部のリレーにのみ参加する。
「さあってところで……」
 資料を手に取り読む、斉志以外のメンバーを見渡したのは横島。
「出るものが出たから、あとはいつものごとくちょっとは問題点を洗い出して少しは具体的対策を立てたいところなんだけど」
「なにも……指摘出来るところはないわ。毎度のことながら、ね」
 問答無用で完璧に出来上がっていたファイルを夜送信された和子。それを解析して再利用可能な生データを取ることすら出来なかった。未明までチェックしていたがなにも言うことは出来なかった。
「そのようだね」
 横島が苦笑した。
 部屋の真ん中に、この家の主・和子を差し置いて当然のように座る斉志。さも当然と言った体だ。夕べ共に作業をした遼太郎はここにはいない。
 誰も文句の付けようのない資料を前に、この場に居合わせた全員は、もはや一般生徒の立場に戻ってただ食い入るように見つめるだけだった。
 和子が、溜め息とともに言った。
「資料の体裁まで整えてまあ……あとはいつものようにこのまま印刷に回すだけ、ね。それを各校ごと、クラスごとに配布すればいいだけに仕上げるくらいはしましょう。明日は全員休みね。今週はみな、お疲れさま」
 あとは、量は多いが単純な作業をすれば良かった。役員がそれぞれ、和子より役割分担を振り分けられて散って行く。
「それにしても……」
 彼女の自宅の広い居間には運営メンバーのみが残って、疲れを癒すかのように紅茶を飲んでいた。斉志はもう用はないとばかりに自宅へ戻っている。
「面倒くさがり屋の成田が……よくリレーへ出る気になったこと」
 これには横島が推論で答えた。
「余程格好をつけたい相手がいるようだ」
「そう……ね」
 明美に渡辺と藤代、前野はまだ資料に目を通し切れていない。横島と和子だけが声を発する。
「それにしても……」
「成田はよほどいい友達を持っている、と?」
「昨日は……成田にしては失態ね。お散歩とは……ねえ」
 和子は資料をつまみ上げる。
 その言葉に、この場に残った他の四人は一様に顔を上げた。
「おや? 森下女史。主導権を取られたからって、まさか僻んでいるのかな?」
「まあ……成田はよほどいい先輩をお持ちのようね、とでも言って欲しい?」
「ええ。いくらでも」
 四人は密かにこれを狐と狸の化かし合い、と思っていた。和子は二年、横島は三年なのであるが、全く先輩後輩の別ないメンツではある。
「まあ、お二人さん。いいじゃないか、ブツは出たんだし。速いのに越したことはない、そうでしょう」
 前野である。なかなか命知らずなやつ。苦労を背負うのが似合うかも知れない。
「まあ……そうね」
「そうですよ森下女史。俺達もう帰りますから、後のことは任せます。りう、行こう」
「ええ和彦。けど、その前に」
 その時、この場の全員がたった一人に詰め寄った。
「待ちなさい」「待ちたまえ」「待って」「待った」「待っててね、今お茶のおかわり持ってくるから」
 順に和子・横島・藤代りう、渡辺和彦、前野勇の同時発言を食らった人物は佐々木明美と言い、現在残ったメンバーの内二人目の夜通し徹夜人間にして、やば・逃げなきゃと思っていた人物であった。

 無駄な行動を一切好まぬ斉志が運営の打ち合わせをすっぽかし。やる必要のないクジ引きの場へ顔を出し、出なくてもいい会合に出て。平然と資料を完璧に出す。そんな堅物の本人を落とせるとは誰も思っていない。よってターゲット兼犠牲の小羊は明美と決定された。
 ──今日、横島からヘタに車を回してもらうなんて楽をしたのがやばかった。ウメコの家まで車を回させた、というのはバレバレだったに違いない。
「あらン、先輩達ー。お目々が怖いでチュよ」
 逃げ腰の明美であったが、開き直ってブった。
「そういう貴方のお目々は真っ赤ね佐々木さん……あーなーたーは私と違って? 熟睡出来ている筈だわ?」
 和子である。余程夕べの入力競争に負けたのが悔しかったらしい。どう考えてもそこまで時間を切って急がなくてもいいのにな、と明美は思っていたのだが。
 ──そりゃあたしはそういう細かいことなんか出来ないけどさ。まァプライドの高いネーちゃんだこと。
「佐々木さんが夕べから今朝にかけての行動は、もうみんな分かっているよ」
 渡辺。隣にいつも藤代を伴う、ひとのいい兄ちゃんと思っていたが……。
「この件には、どう考えても我々、つまり運営や役員とは異なる、第三者が介在していると考えざるを得ない。その人物と、君は一晩を共にしていた。そうだね?」
 横島……。A高生徒会長のくせに全権を成田に押し付け背後で茶をしばいているような人物。どう考えても二癖はある。こちらが狸か、あちらが狐か。
「さ、どうぞ。お茶受け、これでいい?」
 前野。勇なぞという名が泣いている。人脈の広い成田ですら知らなかったやつだが、聞けば上に姉、下に妹の三人きょうだい。小さな頃から姉妹のメシをつくり洗濯(パンツ込)に部屋の掃除、靴の上げ下げまでする生活の苦労人。海千山千の運営メンバー中にあっては良心的存在。
 などと明美は思いつつ出された菓子はほおばる。
「ま。みなさんがナニを考えているかは、分かっているつもり~? ですけどねえ」
 藤代を含めた五人は、ぐっと明美に詰め寄った。
「そいつ~、詮索されんのキライなやつなんですわ。ま、あたしが言えるのは」
 ふんふん!?
「この合同祭。そいつがいなきゃあたし、考え付かなかったってことだけっすワ」
『それが斉藤梅子さん?』
「え」
「佐々木さん……」
「ちょーっと待った森下女史以下五名! あたしのこたァ、明美と呼んでくれやせんかね」
「まあ……ありがちな名前」和子。
「うるさいよ!!」明美。
「それで明美さん。僕達は聞いちゃったんだ。A高に初めて行ったあの日、坂を登り切った出入り口でひとりの女生徒と逢った成田がポロっと口にしたその名前をね」渡辺。
「ウメコ、と言っていたわ」藤代。
「その名ならあの騒動のときの……すぐそう思ったわ。けれど念の為と思って全て調べても……管内五校でその名前の人物など他にはいなかったわ」和子。
「成田が? あいつ、そんなことをペラペラ喋るよーなヤツじゃあ……」明美。
「喋ったんじゃなかったな。ついうっかり声に出ちゃったというか、いや」前野。
「その途端、他人が目に入らなくなった?」渡辺。
「他になにも見えていなかったのよ。恋しているひとの声だったわ」藤代。
「コイぃ~~~~~~~~???? あの、あの命令野郎が、ぁぁぁぁぁ???」明美。
「まあ……知らなかったの?」和子。
「や・知っていましたけど」明美。
 わざわざ思い出さぬまでもない、なにせ知りたいのは自分の方だ。
「そうっスか~~。あたしゃ、あの時ひとの携帯をひっ掴んで電話していたとき、名前を呟いたので知ったんですけどね。そんなことがあったんだ……って。あたしゃ知らないぜそんなこたァ」
「君はそれこそ成田に命令されて、ふてくされて行列の最後尾にいたじゃないか」渡辺。
「だから……聞くものも聞けなかったのよ」和子。
「そう言われりゃそんなこともあったなあ。懐かしい……」明美。
「今週の話だよ明美さん。あ、これお代り」前野。
「あいよ」明美。
「あなたが性格通り……ざっくばらんに内容を話してくれるとは思っていないけれど?」和子。
「なんかウラミでもあるんスかあたしに」明美。
「友人なんでしょう? 斉藤さんとあなたは」藤代。
「えーもうダチっつーかなんつーか。ええやつでっせー。自分のこたァなにひとつ考えていなくてねえ」明美。
「例のD高殴り込み事件だね。どうしてC高には来てくれないのか不思議でならないんだよ」前野。
「別に巡業やっているんじゃないんだから」明美。
「そこで……ありがちな明美さん?」和子。
「アンタねえ……」明美。
「わたし達に彼女を……紹介して下さらない?」和子。
「え」明美。
「明美さんの口を割らせても、大して面白くないんじゃないかな、と思ってね」横島。
「タヌキ……」明美。
「A高も来週土曜日は全国模試……なら速い方がいいものね。土曜放課後、運営会議を。場所はA高生徒会室。時間は、A高に最も遠い私が到着するその時。皆、よろしい?」和子。
「連れて来てね、彼女を」横島。
「彼女は恋する乙女か、はたまた無関係な他人か」渡辺。
「恋する乙女に賭けたいわ、和彦」藤代。
「そうだね、りう」渡辺。
「いやーあの……あたしと当人の意見を無視して話をすすめられても……」
 明美が通うD高は、全国模試には参加しない。休みの土曜に他校へ制服で来いと言われても困るだけである。
「明美さんが一番話を知りたいって顔をしているけれど?」横島。
「ま、そうだけどさ……」明美。
 前野は、明美の前の皿がもう空だったのが気になった。

四月十五日 日曜 梅子

 本日は熊谷先生に言われた吹奏楽部のお手伝い。けど少し気がまぎれた。熊谷先生に感謝されて、ちょと落ち着く。バツを受けてほっとするなんて、ね。