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 勇ちゃんは、毛布にくるまれた私と一緒にソファに座って、話したいことがいっぱいあると言った。
「ここが俺と空子さんの家。この間買った。マンションなんだ、最上階」
 ずいぶんと庶民には遠い話をいきなりするのね……いくら私でも、マンションの最上階はとても高くて、ぽんと買えるものじゃないくらい分かるわよう。
「空子さんの啖呵のおかげで勝ったから、そのボーナスで。別に、ローンなんかない。金のことは今後一切気にしなくていい。空子さんはそういうのをすごく気にするの知っているけれども、稼ぎはちゃんとある」
 私の勤務時代の年収に較べて、二桁は多いと言われたわ。そう、そうなの……涙がちょちょ切れること言わないでちょうだい……
 私は泣きながら、勇ちゃんに渡されたお食事のメニューからお昼ごはんを選んでいる。
「じーさまのところでセックスしてから丸一日経っている。空子さんはよく眠っていたよ。寝ながらフェラしていた。ものすごいドすけべだ」
 まあ誰かしらそんなはしたないこと。お昼どれにしよう、たくさん品があって迷っちゃうわ。
 お値段が書かれていないのはなぜかと訊くと、書いてあるメニューだと空子さんは安いのしか選ばないからだと言われちゃった。その通りなのよね。
「勇ちゃん、これがいいわ。和食」
「分かった」
 私が一汁三菜焼き魚のメニューを選ぶと、勇ちゃんは玄関へ行ってドアホンを上げ、ボタンをピポパと押していた。ソファに戻って来て、私を抱き上げて膝に乗せる。勇ちゃんがお家にいない時おなかが減ったらこういうふうに食事を頼むように、ですって。
「いろいろ訊きたいこと、あるだろ。いっぱい」
 勇ちゃんを見上げる私の表情で、言いたいことは分かるみたい。だってルームサービスみたいだし、食事を頼むって、勇ちゃんいつもそうしていたのかしら。
「ルームサービスみたいにホテルマンが部屋の中まで入って来ない。ここは特殊なマンションなんだ。よく聞いて、大事だから」
 勇ちゃんは、ついばむようなキスを私にしてくれた。それから、よく諭すようにゆっくり説明してくれた。
 ここは、いわゆる有名人御用達のマンションだそうよ。プライベートまで侵害される人達が、それに辟易してここを選び、多額のお金を払って住んでいる。だから、入居者にはとても多くの制約がある。なによりまず、住人に対する詮索はご法度。写真撮影は大厳禁。マンション内にカメラの類いは持ち込み禁止。事前に写真はおろか指紋まで登録した、相当な理由のある人でなければ立ち入り不可能、知人と称してマスコミ関係者を連れ込まれたら困るから。どれひとつとっても違反したら最後、勇ちゃんだろうと私だろうとその場で強制退居、お部屋は没収という厳しい取り決め。
「空子さんにプロポーズした時、出来ればここでしたかったけど、そういうわけで出来なかった。俺でさえどう言ってもだめなんだ。だからこそここを選んだ」
 勇ちゃんは、私が芸能関係をどれだけ知っているかは分からないけど、テレビで観た有名人をここで見かけても、間違っても指さして興味深げにしげしげと見ないで、それも取り決め違反だからと言った。逆を言えば私も勇ちゃんも、そうはされないから安心してと。
「ここの住人は総じて忙しい。だから、あんなに多い種類の食事が用意されていて、部屋で取れるサービスがある。どの家にも食事を受け取る設備があるんだ、郵便受けみたいに」
 その、郵便受けならぬ食事受け(?)に食べた後の食器を返しておけばいいらしいわ。食事を持って来る人と顔を突き合わせることもない。
「最上階に家はここだけだ。エレベーターも専用、俺と空子さん以外入って来たら銃殺ものだけど、ありえないから気にしなくていい」
 そういうもの? さらっとすごいことを言っているような気がするのは気のせい?
「マンション内にデパートもどきがある。飯とセックスの後に連れて行く」
 そう。お昼だけじゃないのね。もどきって何かしら。デパートって何かしら。
「質問は?」
 勇ちゃんは、言いながらずっとキスしておっぱいを揉みしだいていた。あの私、おなかがへっているのよ。
「勇ちゃんずっと店屋ものを食べていたの? 空子お食事をつくってあげたい」
 さっきちらっと台所を見たけれど、とても広そうだったわ。腕がなるのよね、うずうずするのよ。
 でもその前に。ここが家というのなら、ご飯をつくれない勇ちゃんはずっと店屋ものを食べていたなんて不健康なことしていたの?
「空子を嫁さんにしてから一緒に住もうと思っていた。ここで飯を食うのは初めてだ。空子の飯は喉から手が出るほど食いたいよ」
 玄関の方から、ぴんぽんと音がした。
「あれは玄関のチャイムじゃない。あんな風に音が聞こえるのは飯が来た時だけだ、間違っても扉を開けるな。俺ならちゃんとロックを開けて入る、玄関を開けられるのは俺と空子だけだ」
 勇ちゃんはそう言って、私を横に置いて玄関の方へ向かって食事を取りに行った。
 おふとんをソファのはしっこに掛けて、勇ちゃんとお昼を待つ。でもどうしよう、さっきからいっぱいされちゃっているから濡れちゃった。
 勇ちゃんが、お昼の二膳を持って来ながら言った。
「気になる? ぐちゅぐちゅ」
 やっぱり分かるわよね、そりゃそうよね……
 真っ赤になりながら頷いた。もう、腰とかアソコがもじもじしていた。
「ちょっと待って、パンティを持って来る。しこたま揃えておいたんだ、下着も服も」
 こういう時しこたまって言うものなのかしら。そういう風に育てた覚えはなくってよ、勇ちゃん。

 こういう時のお約束。に、なってしまったクンニをされる。舌までしかだめなんですって、指を挿れると空子はヨがってサカってご開張してアソコを自分から見せつけてごはんもそこそこにいやらしいことをするからって。ええその通りよ。開き直ったわよ。
 お陰でアソコが不満たらたらにお食事を取るはめになってしまった。性欲がずっくんずっくん疼いて、ごはんどころじゃない。
「こういうのを生殺しっていうんだ。分かった?」
「よく分かりました。もうしません」
 なにも私のスカートをずりおろして、パンティもふとももまでずりおろして、ナマの状態でソファに座らせることないでしょう、勇ちゃん。膝は少し開けて、なんて言わないでよ。アソコばっかり覗かないで。これぞほんとの生殺しよ。
「こういう時のためにソファを本革にしておいたんだ。いいよいくら濡れまくっても、シミにはならない」
 得意げに言うのよ、もう。私だって自分の濡れたしげみが見えるのよ。ずりおろされたパンティを見ながらごはんをいただくハメになるなんて。
「俺、台所周り全滅だろ。工事のやつに言って見た目の恰好をつけただけで、あの通り全然なにもないんだ。空子さんが見繕って揃えてよ」
 そう、そうなのよ。お台所は広いけれど、それはぽーーーーっかり何もないからより広く見えるの。キッチンの恰好はついているけれど、フライパンやボールなんかの小物が戸の中に置いてあるなんてあり得なさそう。だって冷蔵庫すら見当たらないのよ!
「かなり掛かるわよ、勇ちゃん」
 あんなに装備が揃っていないと、お金がとっても。どれくらい掛かるかしら、独身用ってわけにはいかないから、全部倍はかかると見なくちゃいけないわ。勇ちゃんの食欲はかなりのものだし。
「時間? いいよ、付き合う。ああ、セックスの時間が減るって? じゃ小分けにして買おう、荷物持ちする」
 全然視点が違うのね。よく分かったわ。
 もぐもぐ食べることにした。ちょっとこれ美味しいわ。どうしよう、こんなのを先に食べちゃって、空子のまずいねなんて言われたくない。
「勇ちゃん、デパートとやらには本屋さんとかもあるのかしら」
 これはちゃんと料理のご本を揃えなければ。あ、どうしよう。おさいふ置いて来ちゃったわ。
「どうだったかな。エロ本? だめだよ空子さん、間違っても男を悦ばせるハウツー本なんて買っちゃ」
 もぐもぐとお昼を堪能する。ああ美味しいわ。
「全部俺が教える。今までのなんて忘れるんだ」
 今までって、なにかしら。

 勇ちゃんは私の三倍はあるお膳を、私と同時にぺろりと平らげた。見ていて気持ちがいいのよね、勇ちゃんの食べっぷり。
 立ち上がって食器を洗おうとする私を制して、お膳二つを玄関の方へ持って行った。洗わなくていいのって訊いたら、洗剤もふきんもない、ですって。これは早く揃えなくては。
 でも、でも今は。
 玄関から戻って来た勇ちゃんが、なにをしたいのかなんてよく分かっている。だってそれは空子も想っていることだもの。さっきからもう、待ちくたびれているんだもの。
 熱い瞳をたたえた色っぽい勇ちゃんが、私を抱き上げてお姫さま抱っこをする。私は勇ちゃんの首に腕を回す。その格好といったら、スカートはずり落ちて、パンティはふとももに引っかかって、アソコからは糸がぬるぬる。
「いやらしいな空子は」
「そうよ……」
 行く先はもちろん寝室。きっと空子がこれからずっと、卑猥でみだらなことをする処。

 体もこころもじくじくじんじん疼いていた。性欲にとろけたいやらしいアソコが熱くて足りない。欲しい、欲しい欲しい、太くて硬くて奥まで届くえっちなアレ。
「してぇ……」
「何を?」
 私は腰をいやらしくよじった。脱がされてなにも着ていない体。
「いじわる……」
「ちゃんと言うんだ。言ったことだけをする」
 勇ちゃんは私に、いやらしいことを口に出させるのがことのほか好き。……想った通りのことを言った。
「えっちなことして」
 もう、分かっているくせに。もじもじしちゃうわ。
「具体的には?」
 勇ちゃんもはだか。とても逞しい。その体の真ん中にピンと勃つ欲しいモノを凝視する。
「もう……いじわる」
「ちゃんと言う。でなきゃ生殺しするぞ」
「いや!!」
 もう、いじわるなんだから、もう。
「ほら、空子」
 ベッドの上で、上半身だけ身を起こした勇ちゃんは、初めてしてくれたあの時のように私をかき寄せて、膝に乗せて向かい合うようにした。
 初めてがああだったし、もうされたくてしょうがなかったから、何も言われなくとも膝を高々と上げ、脚をM字にいやらしく開き、勇ちゃんの首に腕を回した。勇ちゃんは私の腰をゆるく持っていてくれる。
「……セックスして」
 こう言わないと駄目なの。してくれないのよ。勇ちゃんひどいの。ひどいところも好きなの。
「どんな風に?」
 からだが、こころが勇ちゃんにされたいって叫んでいる。もう待てない。
「最初みたいにして。勇児のおチンポ、空子のおマンコに奥まで挿れて」
 恥ずかしくても言わなきゃだめなの、言えばしてくれるの……。
「指は? 要らない?」
「欲しいわ!!」
 欲しい指は、ごつごつしていて太い指は、私のおしりを撫で回していた。焦らすように。
「ゆび! 勇児のゆび、舌も、空子のおマンコに全部挿れて!! ぐちゃぐちゃにしてぇ!!」
「マンコだけ?」
「ちがう!! おっぱいもおくちもぜんぶ!! いっぱいつまんで、ちゃんと上からぎゅってして!! 体中全部キスして、めちゃくちゃにしてえええええ!!!」
「じゃ、それだけする」
「やああああん!!!」
 勇ちゃんはひどいの。そこがスキ。

 それだけされた後。それだけと言ってもすごいのよ、だって勇ちゃんのおチンポ、空子のおマンコに挿っているんだもの。私、勇ちゃんに後ろからされちゃって、挿れられたまま抱き締められている。私が咥えて離さないの。ないといや。
「空子。正直に言って」
 だから、勇ちゃんの顔は見えなかった。
「なあに?」
 こういうのを至福の時っていうんだわ。女の幸せ。
 こんなおかめさんに生まれた時から、そんなのないって想っていた。こんなハンサムさんにドキっとしたあの時から、そうなればどんなにいいかって想っていた。叶うのね、夢って。
 そんな、とろんとした夢に浸る私と違って、勇ちゃんはとてもどろどろした気持ちでいたそうよ。そうだと言ってはくれなかったけれど。
「……その。ずばり訊くけど……何人」
「なんにんってなあに」
 回されたたくましい腕の、おっきな手に私の手を添える。とってもスキ。
「いやその……言いたくないなら、いい。忘れさせる」
 なんのことかしら。
「言いたくないって、なあに? 空子、何でも答えるわ。あ、でも、苦手なことはあるし……」
 勇ちゃんのお仕事が特に苦手なのよね。私がこうで、勇ちゃんが台所周り。ほんとにビタ一滴血が繋がっていないんだわ。それでよかったけど。
「苦手って……今までの男性経験?」
 ここでようやっと、勇ちゃんがなにを訊きたいのかおぼろげに分かって来た。
「はっきり言えば……今までの男と俺のどっちがいい……」
 これは、恥ずかしいから言わせないで、ではだめのようね。言わなきゃだめなのね……。
「恥ずかしいけど、言うわ」
 あきれないで聞いてちょうだいよね。もう。
 勇ちゃんは回した手に力を込めた。心臓が壊れそうになって血圧がものすごく上がったんだそうよ。よく分かるわ、そういうの。勇ちゃんと一緒にいるといつもそうよ。
「空子はお友達すらいません! 誰かと付き合ったこともないわ、バージンです! ……みんな勇ちゃんに上げたわ……」
 そしたら勇ちゃんは、首筋に熱い熱い舌を絡めてくれて、それから、それから、……えっちなこと言わなくってもされちゃった。いっぱい。

 お夕飯も店屋物だった。とてもお買い物に行ける腰じゃなかったもの。空子立てない。
「飯後のセックスだ。空子、犯るよ」
 どうしてそんなに元気なの……。
 空子はあれからえっちなことを言う余裕すらなかった。あんあんひんひんしか出来なくって、してとか欲しいとか言う前に全部ぜんぶ満たされちゃって、もういいですって想ってもとってもとってもぐっちゅぐちゅ。
「正直に言ってくれたから俺も言う。そりゃ俺は健全な大の男だ、しないでいるなんて無理だ、初めてじゃない。けどどれも一回こっきりだ、空子さん似の選んだだけだ。全員空子さんじゃなかったからすぐに別れた。空子さんを痛くしたり、空子さんより早くイくわけにいかないだろ。単に練習していただけだ。一晩中なんてしたこともない。空子のすけべなマンコで開眼した」
 際限というものがないらしいの。空子のせいだというのよ、そんなの私が言いたいせりふよ……
「空子はドすけべ過ぎるから、誰かいる、殺してやると思ったけど……よかった、ほっとした」
 ときに言葉が過激になるのよね。
 勇ちゃんは、ほっとしながら私をベッドに持って行く。なお、ごはんを食べる時は必ずあの格好で、ですって。空子さん溜まって燃えるだろ。ですって。そうよどうせ、もう……。
「勇ちゃん、空子立てないわ。たぶん無理だと想うの」
「そう。犯る」
「勇ちゃん。空子の言うこと聞いてって、ずっと前からいつも言っているでしょう? ……ぁああん!!」
 おマンコにゆびをズぶりと挿れられた。まだベッドの上じゃない、寝室へ行く途中。抱え直されて抱き締められた。空子はいつものM字で抱き着いて、ひざの下を抱えられた。そこを、おしりの側からずっぽり。足が床についていない空子の重みでゆびが奥まで突き刺さる。
「性器が弱点なんて分かりやす過ぎるよ、空子は」
「ぁあん! ぁあん!! そんなの、そんなの!!」
 両手のゆびを挿れられた。ずっくんずっくん突き上げられる。体ごと上下にゆさゆさ揺られる。
「四本も呑んで……もう弛んでいるな。ちゃんと締めて、空子」
 私のマンコは勇ちゃんのゆびを四本ものみ込んでいた。弛んだだらしないマンコは、ただ貪欲にもっと太いのを奥まで求めていた。

 次の日の朝。気がついたら本革シートのソファの上、勇ちゃんの膝の上だった。後ろから抱き締められておっぱいを弄ばれている。格好はいつもの通りよ、もう……。
「おはよう、空子さん。ちょっと犯り過ぎた?」
 そう。ちょっとって言うのねアレを。下半身の重過ぎる私には、とってもを超えているとしか想えないのだけれど。
「全然動けない? うん、そう言ったろ。このすけべな腰を使い物にならなくして犯るって」
 にっこり笑って言わないで。動けないのよ、どうすればいいのよ、嬉しそうにしないでよ。
「俺の仕事のこと。追々言うけど、今はこれだけ。体が資本なんだ、毎日必ずトレーニングをする。ここではしない、空子がすけべ過ぎて腰だけ鍛えてしまう」
 私の腰も鍛えられるのかしら。だとすれば、いずれこれはなくなるのかしら。そうあって欲しいわ。はっきり言うけどつらいわ。
「とにかく今日は夕方帰る。動けそうなら台所周りの買い物をしよう。それまで寝てて。ひたすら寝てて。俺がいないのに寝ぼけてフェラチオの真似事しないように」
 勇ちゃんがいないならしないわよう……
「昼飯、頼む気力も取りに行く腰もないだろ。つまめるもの取っておいた、ベッドサイドに置いておく。昼に起きたらでいいから食べて」
 起きられないわ。ひたすら寝てるわ。
「じゃ行くよ。空子は腹じゃなくてマンコを出して寝るから、ちゃんと上下をきちんと着て寝る」
 コドモに返った気がするわ。お着替えをさせて貰っているのよ。パジャマのボタンまで留めて貰って、さらにはおトイレに連れて行ってもらったの。こんなの初めてよ。ふたまでかぱっと開けてもらって……出たわ、奥の全部。すっごい量……。
 それでも、この腰がなおるわけじゃない。よれよれでふたを閉めて、おトイレの外で待つ勇ちゃんに合図。空子はねこみたいに両脇を抱え持たれて洗面所に行って手を洗う。すぐにだっこされて、寝室に連れて行かれておふとんをかぶせてもらって、ぽんぽんなんてされちゃって、行ってきますのキスを落とされた。これが甘い新婚生活っていうんですって。そう、甘いの。
 違うんじゃい? 痛いっていわない? つらいっていわない? 重いっていわない? 動けないっていわない?
 この質問に答えてくれる人はひとりしかいなくって、その人はお仕事だから、空子は眠った。疲労困憊で。
 これが甘い新婚生活っていうんですって。そう、そうなの。知らなかったわ。

 夕方は勇ちゃんにゆり起こされた。よだれを垂らしながらおしりを丸出しにして、勇ちゃん勇ちゃんって寝言を言っていたんですって。そう、そうなの。そういうのは口に出して言わないものじゃなくって。
「このベッドで尻を出されるとは想わなかった」
 クイーンサイズなのよこのベッド。おふとんと言っても、そのかけぶとんはホテルみたいな、床にとどこうというおおきなもの。それをどうにか足で蹴っ飛ばした空子の寝相はおしり丸出し。慣れないからよ。そうに決まっているわ。
「空子はヤることなすこと皆すけべだ」
 そうみたい。反論出来ないわ。
「この調子じゃデパートに一人で買い物なんて無理だな、マンコ丸出しで歩かれそうだ」
 反論出来ないわ。コドモのお使いよりひどい気がする。
「俺は仕事で最悪一ヶ月以上家を空けることがあるんだけどな……」
 どうしよう。自信がないわ。

 今日の夕ご飯も店屋物。立ってお買い物なんて空子の体が無理。勇ちゃんは明日明後日いないというし、この分だと空子がお料理出来るのはいつになるものやら。
「買い物は三日後に行こう。今日は犯り溜めする」
 空子はいつ自力で動けるのかしら。
「いいよ今晩は。全部俺が犯る」
 そう。じゃ空子はM字もよつんばいも仰向けもしなくていいのね。自分では。
「指で広げてはやるんだ。フェラは無意識でもするからいいよな」
 いいってことにするわ。
「ねえ勇ちゃん。その分だと、空子はご飯どうなるのかしら」
 玄関まで歩けるか、お食事にありつけるか自信がないわ。
「ああ、そうか」
 よかった。少しは考えてくれるのね。

 翌朝。空子は自分で箸も持てなかった。
「寝てて」
「はい」
 他に対策はないわ。もう腰がどうのじゃないもの。
 勇ちゃんに朝ご飯すら食べさせてもらいながら、空子は一人になったらおトイレどうしよう、という切実な問題を口に出せないでいた。
「明日の朝はどう? 這ってでも歩けそう?」
 歩くしかないようね、這ってでも。
「こうなったら入院する? ああ空子さん、ぐあい悪くなったらほら、部屋の壁にある電気のスイッチの下、あのボタンを押して。ナースコールなんだ、そういう時は女医と看護婦がここへ来る」
 そんなものまであるそうなの。至れり尽くせりね、ここ。
 入院をすると、決まった時間にごはんが出て来るのだそうよ。歩かなくても食べられるのだそうよ。お風呂やおトイレのお世話も受けられるんだそう。入院しようかしら。自信がないわ。
「丸出ししない自信はある?」
「なんて言えばいいの?」
 少しは自信を持って空子さん、ですって。

 空子は丸出ししない自信を持つことにした。だって動けないんだもの。ものすごいんだもの。腰なんか鍛えるどころか動かないんだもの。おトイレが切実なんだもの!!
 さいごの理由は言わないで、お世話になりますとだけ言った。勇ちゃんは、マンション階下の医務エリアに空子を連れて行ってくれた。そしてお医者さまに、やんごとない新婚な理由で妻を動けなくしたので二日間みっちり面倒を看て下さい、と、ちょっととってもものすごくストレートに言った。
 ねえ勇ちゃん、ちょっとくらい照れて。どうしてそこまで言うの。やんごとないまででいいじゃない。空子真っ赤になっちゃったわよ……

 最上階のお部屋みたいに豪華な個室でお世話になることになった。もっとも、このマンションに相部屋、大部屋などはないそうよ。だてで高いお金を払っているんじゃないそうよ。
 お世話してくれた看護師さんはひと回り歳上の女性の方で、決して詮索されしたりはしなかった。顔をじろじろ見られたり、そういういやなことはされなかった。それどころか、ほんとにほんとに至れり尽くせり。夜にしか起きられなくって、申し訳なくてナースコールのボタンなんて押せなかったら、見回りとかでお部屋に来てくれたの。おわびをすると、お仕事ですから、とただそれだけ言って、お食事を運んで来てくれた。感動したわ……でもね。
 翌朝、もよおしてしまって。恥ずかしくて真っ赤になって言ったら、しびんなんてものが出て来てしまったの……
 這ってでもおトイレに行きます、お願いしますとおねだりした。
 看護師さんは偉かったわ。空子の意を汲んでくれて、おトイレまでの道のりを誰にも見られないよう確保してくれたのよ。ありがたくって涙が出たわ。