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 二週間後の朝一番に、会社に辞表を出した。その時は、社内も街も国中が、なんとかトーナメントに進出したとかで、過ぎた人に夢中だった。誰も仕事なんてしていなかった。きっと学生さんもそうだろう。
 そんな時に出された辞表に、上司はしぶい顔をした。私はこの会社に恩がある。こんなご時世、いくら給料が上がらなかろうと生涯この会社に恩返しをしなくてはならない身だ。それを分かっていてどうして。そういう表情。
 私は、一身上の都合とだけしか言わなかった。上司は、次は決めてあるのかとだけ訊いて来た。決めていないと答えると、上司はなお一層曇った顔をした。
 私は、私だけしか出来ない仕事を私一人でしていたわけでもなんでもない。誰にでも出来る仕事を、おこぼれに預かっていただけだ。正に会社にぶらさがり。退職にあたっても、申し送りの必要さえない。社内にこれという友人もいない。辞めると言って、受理されればその日が退職日。よく今までいられたものだ。
 上司は席からしばらく私を見上げると、分かった、とだけ言って辞表を机に仕舞った。視線をそらさず冷静でいる私に、翻意は無理だと思ったという。男性経験のない私は、見つめられるのには弱かったが、お陰ですっかり免疫が出来た。性根も座った。
 今までありがとうございました、私物は全て即座に持ち帰りますので、制服はクリーニングして返送します……そんな事務的なやりとりはすぐおわる。送別会など必要なし。お手軽な私は、午前十時半にはすでに退社出来ていた。

 十日後、給料日の夕方にアパートを引き払う。敷金のやりとり、あれこれやも経験済み。自分から動いたことは身に付く、役に立つ。ただ今回は次の住所が未定だったので、すでに元となった大家にいい目では見られなかった。
 家財持ちもの全てを廃棄、銀行も何もかも全て解約、有り金も全部はたいたから、もうこの大都会にはいられない。ここから、可能な限り遠くへ。
 南へ行くことにした。路上で生活するにしても、こうすれば凍死はまぬがれるじゃない? 笑えない未来の予想をして夜行列車に乗り込む。今でもあるのね、こういうの。
 これで今晩の宿は確保した。でも、次からは全くの未定だ。お金などすぐ底をつく。まあいいわと腹をくくった。想い出はあるもの。

 ここは南国、ちょっと大きい南の島。火の国よ。
 あれからここへ辿り着いて、一生分の幸運を使い果たして奉公先をなんとか見つけた。住み込みでいいですって! ああ神さま仏さま、毎朝必ず仏壇へ線香を上げます! これだと仏さまね。
 南の島、とだけ敢えて呼ぶここは、どれだけ“ド”を付けても足りないイナカだった。ビバ田舎よ、素晴らしいわ。なにせ電波が入らないのよ、テレビも携帯電話も! 探し求めていた理想宮とはまさにこのこと。三日三晩空腹でどこで寝たかも定かじゃなくて、おトイレもあんなことまでした私の目の前にこんな幸福が待ち構えていようとは!
 森羅万象全てに感謝すべき私の朝は早い。日が昇るより前に起きる。なにせ外と家のしきりと来たら、全部木で出来た戸か障子かガラス戸しかない。朝焼けで充分目を覚ませる。
 そこから朝の支度を。薪も割るわよ、コケッコーさんも捕まえるわ! さすがに火は起こさないけど。ほっ。
 私を拾ってくれた御大尽は、七十歳を過ぎたおじいさんだった。耳と体の不自由なつれあいのおばあさんと、大草原の中にぽつんと一軒家に二人で生活している。手伝いをしてくれるのなら、お金も出せなくて構わないのなら住んでもいい。そう言ってくれた。
 構わないなんてもんじゃないわ! なんと!! お食事まで出るというのよ!!!
 正確に言えばそこの畑で栽培している食物を私が採って、私が料理して、おじいさんとおばあさんに食べさせた後おこぼれに預かる、のだけれどこの際細かいことはどうでもいいわ。食住が保証された生活を送れるのよ!!
 衣食住の衣についてもよくしてもらった。おばあさんは物持ちで、昔からの衣服を大切に取っていた。私はありがたく全部いただいた。だって農作業にばっちりな服ばかりなんだもの!!
 天にまします我らが神よ。感謝します、アーメン。と言いながら木魚を打った。
 おばあさんの服に着替えて、よっこらしょと畑に出る。段々と明るくなる空に守られて土と一緒になる。いいことだわ。今はもう秋を過ぎて、食物も採りおえ、これでひと冬を過ごす。雪はちらつくことすらないという。
 日暮れ前におじいさん、おばあさんにお風呂に入ってもらい、日暮れとともに夕食をおえると、あとは就寝。電気代がどうという前に、とても体になじむサイクルなのよ。ああ人は太陽とともにあるのだわ。太陽信仰があったのも、月食を恐れたのもうなずける。
 私の体は疼きを鮮明に覚えていたあの頃、まるで全然眠れなかった。いまは違う。とてもぐっすりとよく眠れる。明日も早い。
 おじいさんに拾われたあの時、私はアスファルトの上で転がっていた。あんなのはいやだった。ここならいい。世俗の全てと関わらないとまではいかなくとも、まれに来る村の人も郵便配達員も皆顔見知り。新聞配達員さんは来ない。ここで死ねるならいいと思った。

 日が昇りつつある朝焼けの刻。寝室で、明るさを増す空とともに目を覚ますと、真ん前に勇ちゃんがいた。
「××××××××っっっっっ!!」
 私はひええええと叫んだつもりだったけど、実際はとても言葉には出来ないほど情けないもので判別不明。ものすごく驚いた。心臓って忙しいのね、壊れる時もあれば飛び出るときもあるなんて。よく生きているわ。
 でも、ちょっと待ちなさい。もういい歳なんだから、ちょっと落ち着いて。ここにこんな端正な顔が、がっしりしたいい体があるわけないわ。
 壊れて飛び出る心臓をごっくんと飲み込んで、震える手でつかんだ。ほっぺをむにょっと。
 つまめなかった。余分なおにくなんかどこにもなかった。まあ、こういうおなかが欲しいわ……。
 でも、ちょっと待って。つまめはしなかったけどさわれたわ。これって夢じゃないの?
「ああそうか、夢だったんだわ」
 声に出してほっとしたら、すぐ目の前にある端正なお顔がこう言った。
「夢だったよ。空子さんを貰うのが」
 端正なお顔は熱い瞳をたたえて言った。それはもっと近付いて、長いまつげで覆われて、私もつられて目を瞑った。逞しい体が覆いかぶさって来て抱き締められる。温かくて火照っていて、舌はあの日よりも激しかった。

 私の心臓を奪って行った舌が離れると、勇ちゃんの口からよだれがぷつっと切れた。さっきいっぱいごっくんした。心臓を取られちゃったから、これは夢でもなんでもない。もう抵抗は出来なかった。その気もない。
「よく寝ていたね、空子さん」
 ぽけっと見上げる私にかけぶとんを掛けてくれた勇ちゃんは、立ち上がると服を着た。あの時のように全裸ではなかった。
「まだ眠い? もう少し寝る? いいよ、空子さん。ゆっくりしていて」
「どこへ行くの……」
 勇ちゃんの行動はどう見ても、さあこれからどこかへ行きますよ、というものだった。ひとりにされるのかと想うといやだった。我ながらさみしそうに、少しすねて言ってしまった。
 すると勇ちゃんは長い脚をこっちへ振り向け、戻って来てくれた。それから私にゆっくり近付き、くちびるに優しいキスをして、髪を撫でてこう言った。
「この家の人にあいさつをして来る。空子さんを連れて帰ります、って」
 視界いっぱいに勇ちゃんが映る。優しい瞳。熱い息。
「どうしてここが分かったの……」
「ここの人、俺の先生なんだ。高校の時の。俺、空子さんの写真を持っていて、それを見せたことがあって、それで」
 それで拾ってくれたんだ、正体不明な筈の私を。そうか、どうりで……
「上手い話なんて……あるわけないのね……」
 手で目を覆った。ただ目を瞑るだけではキスをねだっているようなものだ。
「あるよ。空子さんは俺の知り合いのところにいてくれた。そうじゃなかったら、まだ捜し出せていない」
「いつから知っていたの……」
「勝って、帰って来てから。俺もカラダ、疲れていたし、それ全部取っ払ってから逢おうと想って」
「疲れているのね……」
 そうよね、よく分からないけれど、とても大変だったのよ、この人は。
「私でなくともいい筈よ。勇ちゃんは若いから、もっと世間を知ればきっと……」
「その続きは家でしよう。朝飯はここで取る。籍を入れて、それから帰ろう」
 勇ちゃんはそれきり、私から離れて部屋を出て行ってしまった。夢じゃない現実は、いつも逃げ出してしまいたくなる。けどもうだめだ。勝って来たとはっきり言った。
 もうだめなんだ……

 深呼吸をして、目を覆った手をどける。もうあんなに陽が、こんなに明るくなってしまっている。いけない、寝坊をした。
 身を起こして、いつも準備してある服を手に取ってようやっと気がついた。私、全裸だ。何も着ていない。それどころか、アソコに余韻……
 なんてこと。今頃ようやっと分かるなんて。こんな、たっぷり嬲られてしまっている。気付いてカっと熱くなるソコにおそるおそる手をのばすと、全然濡れていない。
 全部嘗められて……
 どうして起きなかったのか。情けなくて情けなくてとてもみじめだった。これでどうやって居間に顔を出せというの?
 ここは山の中、周囲は全て顔見知り。着の身着のまま逃げ出しても無駄なことはよく分かっている。あんな啖呵まで切ってしまった。行くしかない。私の義務だ。それだけは果たさなくては。

 義務だけで支度をした。顔を洗って歯を磨いて、仏様にお線香を上げてから朝ご飯の支度を。居間へ行くと勇ちゃんも、おじいさんもおばあさんまでいた。
 三人にぺこりと頭を下げ、まずは仏前へ。木魚は打ったが、今日はアーメンなんて浮かれて言う気にはならなかった。浮かれていたからばちが当たったんだ。
 ここは何とか切り抜けて、勇ちゃんだけお帰りいただかなくては。おじいさんとおばあさんのお世話をしなくてはならないのよ、おばあさんはほとんど動けないのよ、と言えば納得して貰える、かどうかは分からない。とにかく説得しなくては。
 振り向いて、三人が座るちゃぶ台に私も座った。さあこれからが正念場よ。もう浮かれてお祈りなんかしないから、お願い神さま。
「今から朝ご飯をつくりますから、ちょっと待っていて下さいね。勇ちゃん、嘘言って申し訳ないけど」
 両手を付いて謝ろうとする私の目の前に、すっと一枚の紙が差し出された。婚姻届だった。
「さ、これ書いて空子さん。朝飯の支度俺も手伝うよ」
 勇ちゃんは私の言葉など聞きもせず、すでに高尾勇児と書き入れていた。
「俺は二十歳になったから後見人はいらないけど、せっかくだからこの人達にお願いした。空子さん、今井って書くのはこれが最後だ。あとは高尾空子って言ったり書いたりするんだよ」
 紙とペンを私に突きつけ、勇ちゃんはにこっと笑った。

「勇ちゃん」
「薪なら割っておいた。鶏も捕まえておいたよ。いっぱい食べるから、俺の分もちゃんと」
「勇ちゃん。私は、おじいさんとおばあさんのお世話をしなくてはならないのよ。それで生きているの。生かされているの。勇ちゃんにはもっといい人がたくさんいるわ。世間をもっとよく見て、それからでも遅くはないわ」
「空子さんが欲しくて今まで生きていた。結婚して、約束だ」
 劣勢だった。味方だと思っていたおじいさんもおばあさんも、約束を何とか反古にしようとする私にきつい視線を浴びせていた。こんなのは、まるで勇ちゃんに会ったあの時以来だった。
 特におばあさんの視線が痛かった。おばあさんは耳が遠いし体も不自由だけれど、それ以外は何ともない。今、口を開けばどういう叱責の言葉が飛んで来るかは目に見えている。よく分かっている。卑怯だと、そう言われてしまう。
 ノーと言えばこの家を失い、イエスと言えば勇ちゃんにとんだ荷物を背負わせてしまう。八方塞がりだ。
「さっき空子さんを味見した。とても美味かったよ。続きは家でしよう」
「勇ちゃん!!」
 なんて恥ずかしいことを言うのだろう、こんな、ひとの前で。そんな目で見ないで。モノ欲しげな目で、私の……アソコを見ないで。
「やっぱり分かった? 疼いてるだろ、俺もだ」
 そんな目で見ないでよ!
「続き、ここでしようか」
「!!」
 とても勇ちゃんをにらみきれなくて下を向いた。ここでなんて、……ここでなんて!
「おっと……睨みが入った。空子さん、刺激が強いことあんまりしてくれるなって、先輩夫婦が言っている。俺も空子さんの可愛い声、恩師といえど聞かせる気はないんだ。ここはちょっと筒抜け過ぎる」
「勇ちゃん!!」
 とても顔なんか上げられない。下を向いたまま叫んだ。消えてしまいたいくらいだった。
「空子さんがおばあさんを気に掛けているのは分かるよ。俺にしたってじいさまは恩師だ、こんな電波も入らない所にいさせたくない」
 顔は上げられないけれど、耳はそばだてた。それは、私も気にしていること。テレビも携帯電話もないなんて、ワーイと喜んでいいのは私だけだ。このお二人にとっていいことではない。
「ところがすごい頑固でね。わざとこんな遠い所へ隠居した、誰にもここに住んでいるとさえ言わず。お陰で教え子で実際ここへ来たのは多分俺だけだ」
 そうなんだ……
「空子さんがここへ辿り着く前から、おばあさんは体が悪かった。それでもじいさまは世話をしていた。空子さんがいなくとも、これからもそう出来る」
 それは知っているわ。それでも雇ってくれたと思っていた。
「ここがいいというんだ。連れ合いと一緒に死にたいって。空子さん、ここまで言うんだ、お邪魔しちゃだめだよ。行こう」
 それも知っていた。この二人は、熱い抱擁などなくとも心底愛し合っている。ただ、すこし体が動かないだけ。文字どおりの連れ合いなのよ。
「書いて、空子さん。約束だ」
 勇ちゃんは、私のあごをクイと上げて目を開けるように促した。現実を見なさいって。
 その通りにした私の目の前には、現実の塊たる婚姻届と、慈しむような二対の瞳があった。世話になった人達の前で嘘は吐けなかった。
 私が今井空子と書き入れた後。勇ちゃんは、懐から紫色の小箱を取り出してふたを開けた。予想通り、指輪だった。大きさの違うシンプルな銀色がふたつ。小さいのを取り出した勇ちゃんは、あの日のように私の左手薬指に填めた。
「捨てた?」
 大きな方を自分で填めながら、勇ちゃんは言った。私は首を横に振った。すると勇ちゃんは、やっぱりと言った。
「持って来て。ペンダントにしよう」
 勇ちゃんは私にあの婚約指輪を取りに行かせた。逃げることは出来なかった。ここで姿をくらましたら、私の生きる場所はきっともうない。
 言われた通り持って来ると、手持ちの奇麗なくさりに通してペンダントにして、私の首に掛けてくれた。似合うねと、胸元を見つめられた。どっちの指輪ももう、外すことはなかった。
 おじいさんとおばあさんは、朝ご飯はいいからもう行きなさいと言った。これ以上見せつけられてはかなわないと、ちゃめっけたっぷりに言ってくれたのは、おばあさんの方だった。

 勇ちゃんの運転するレンタカーで、閑散が自慢の村役場へ行く。届けを出すと、窓口の人はハイ受理しました、とだけ言った。これだけで、私はたった今から高尾空子になった。
「これで空子さんは俺のモノだ」
 勇ちゃんは嬉しそうに嬉しそうに、モノ欲しげに私を見た。胸元への視線を外さず、舌なめずりまでして。
「すごい美味しかった……空子」
 私は真っ赤になってそっぽを向くしかなかった。

「ホテルへ行こうか」
 車の中で、勇ちゃんはそう言った。ふたりきりの密室で、ずっと言葉でなぶられて、アソコがもうああなってしまった私の耳には刺激が強過ぎた。さっきから真っ赤だというのに、もっと真っ赤になってしまう。これ以上どうすればいいというのよ、もう!
「朝飯食べにだよ。まさか飯も食えずに追い出されるとは思わなかった、空子さんもだろ」
 それには頷いた。
 私は、指輪以外の荷物を全部あの家に置いて来た。着替えの服もお財布も全部だ。勇ちゃん曰く、逃走防止だそう。その通り過ぎて反論出来なかった。
「ちゃんと身支度整えた方がいいよ、びしょ濡れだろ空子さん」
「勇ちゃん!!」
 恥ずかしくてしょうがない。さっきからこんなやりとりなのだ。
「俺も我慢出来ないな……やっぱりヤっとく?」
「勇ちゃんってば!!」

 おトイレに入って。入念に身支度をして! ……このショーツもう穿きたくない……
 いやいや座った、ホテル一階のレストランの席。勇ちゃんは、ホテルマンがいなくなったのを見計らってこう言った。
「空子さんのさ。パンティの替えだけ持ち出していたんだ。欲しい?」
 なんっっっっっっっっってことを言うのよ!!
 と、大声で言いたかったけれど。いくらイナカでもいけないわ。
「どうしてそういうことを言うのかしら……」
 真っ赤になってそっぽを向いて、小声で言った。
「欲しくない? じゃ捨てとくよ」
「いやよ! もう……」
 しょうがないから、またしても目を瞑って言った。もうぐちょぐちょ、お願い助けて……
「欲しい?」
「……欲しいわよ! もう……」
 涙が出て来ちゃったわよ。
「じゃ、そうする。よく覚えていて空子さん。俺は空子さんが欲しいと言ったら何でもするよ。何でも」
 勇ちゃんは、いわくありげにこう言った。後に私は欲しい欲しいとはしたない狂態を見せ続けることになるのだけれど、今の私にはまるで想像出来なかった。

 ホテルで食事後。……それ以外なにもしませんでした! さっきのレンタカーに乗り込んだ。走り出してしばらくは無言。いつ、替えをくれるのかなと思っていたら。
「はい、空子さん」
 勇ちゃんは突然、あろうことか運転中に、助手席に座る私の目の前でショーツをぴらぴらと見せつけた。私ははっしとそれを奪うと思わずわめいた。
「なんっっっっっってことをするのよ!!」
「ありがとうは?」
 うっ。これは私が勇ちゃんに散々言った言葉なのよね、ちゃんと感謝の意を表しなさいって。
「あ。あ。ありがとう。でも前を向いてね、運転してね」
 そりゃあ、こんな行けども行けども山の中じゃ、誰も見てやしなけど。
「するよ運転。さ、空子さん。穿いて」
「……何を?」
 質問の意味が分からなくて訊き返した。
「俺がやったパンティを。今ここで。脚を高々と上げて穿き替えて」
 言っている意味が分からなかった。
「空子さん。カーセックスって知っている?」
 言っている意味を理解したくなかった。
「知っているんだ。じゃあ、ここでしよう」

「ひどいわ勇ちゃん」
「ひどいのは空子さんだ」
 カーなんとかなんてしなかったわよ。するもんですか。
 あの後も散々言葉で嬲られて、ほんとにのっぴきならない状態になってしまって、しまいにはスカートにも、車のシートにもしみをつくる勢いだった。行けども行けども山道だから、しばらくトイレもない。
 しょうがなく……勇ちゃんに、アソコを嘗めてもらった。散々嬌声を上げた上で……
 今は下に、……ショーツの下に! ハンカチを敷いている。情けない……
「生殺しって知っていてあんなことをさせるんだろ。何が本番は家に着いたらだ、どれだけ時間掛かるか知っているくせに!」
「知らないわよ!!」
 これは嘘。どちらも知っている。思えば啖呵を切ったあのホテルでも生殺しだった。
「あの、啖呵の時の生殺しよりひどい。俺はもう我慢しないからな!」
 うっ。
「空子さん、しばらく歩けないよ。その腰使い物にならなくしてやる」
 ううっ。
「なにが世間を広く見ろだ、俺の純情を散々弄んで」
「そんなことしていないわ」
「しているよ。数えて十年、ずーーーーーっとだ!! 悪いけど優しくは出来ない。もうだめって言ったって聞かないからな」
 うう……
「休むのは今の内だ。眠った方がいいよ空子さん。空子さんが何度イっても叩き起こしてぶち込んでヤる」
「あの勇ちゃん……」
 なにか、さっきから言葉が……
「なに」
「ちょっと、言葉遣いが……」
「悪いって? 空子さん、俺はね。間違っても文部科学省御推薦の優良児なんかじゃない」
 ゆ、優良児じゃない、健康優良児。勇ちゃんはね、丈夫なのよとっても。
「大の健全な大人の男だ。それが密室で、さっき籍を入れたばっかの惚れた女と二人きりで、舌も挿れるなはないだろ!」
 うう、劣勢だわ。ドアと仲良しになって張り付いているしかなかった。
「全然こっちを見てくれない、話は逸らす、指も挿れるなと来た。ひどいのは空子さんだ」
 そんなことを言ったって……
「疼いて濡れているのは空子さんだけじゃない、俺もだ。それがなにもして貰えないなんて……」
 ついに車は停まってしまった。これはもう、私が何かしなければおさまりがつかない。ソロソロと運転席側を盗み見ると、勇ちゃんはハンドルに突っ伏してしまっていた。これは、何かしてあげないと運転再開とはいかないだろう。
「あ。あの」
 話し掛けても、勇ちゃんはぴくりとも動いてくれなかった。つい、ソロソロと手をのばす。何となく、膝上の脚のところに手を置いた。
「あの……」
「俺も嘗めて欲しい」
 え。
「俺も。さっき俺が空子さんにしたように嘗めて欲しい。してよ」
 ……え。
「してくれないと運転しない」
「そんな風に言わなくてもいいじゃない、するから……機嫌を直して」
 自分の言っている意味が全く分かっていなかった。
「嫌かもしれないけど」
 勇ちゃんは、途端に顔をぱっと上げると、腰を上げて穿いているものを脱ぎ出した。え、え、あのその、目のやり場が。
「さっき俺が空子さんにやったみたいにして」
 そんな、だって、ソレ……
「もう、生殺しなんて絶対にするな。空子」
 目の前の屹立したソレを、吸い込まれるように凝視した。以前もあった。分かっている、あんなひどい生殺しなんてない。
「どう、すればいいの……」
 詳しいことはわからないけど、顔は寄せた。だって、つらそうなんだもの。
「そのまま……口を開けて」
 言う通りにした。すごく大きい、脈打ってる……
 嘗めたかった。そうしたくてその通りにした。
「……っ」
 勇ちゃんの声。勇ちゃんも高い、こんな声を出すことがあるのね……
 同じ声を出したことがある。そういう時、どういう気持ちになっているか知っている。どうされたいのかも。だからもっと聞きたくて、ちゅばちゅばと嘗めた。
「いい、空子……そのまま……歯はだめ、俺が痛い、そう、……もっと……」
 もっとと言われたので、はしたなくそうした。
「濡れて……来ただろ、後で俺も嘗める……同じように」
 そう言われて、もっとはしたなくなった。知らず手を添えていた。だってそうして欲しいんだもの。舌を、指を挿れて欲しいんだもの。
 コレを挿れて欲しいんだもの。
「スゴ……っい、空子……したことあるのかフェラ……」
 さいごは、何を言っているのか分からなかった。とにかく、して欲しいことを、勇ちゃんがして欲しいと思っていることを、ソレから伝わって来る想い通りにそうした。ちゅばちゅばと嘗めて吸う。ヌルヌルのソレ、先だけじゃなくて下にも、舌を絡める。
「あるんだな……何人にした」
 勇ちゃんの熱い声が怒っていた。だから想わず口を離して反論した。
「何のこと、こんなの初めてよ、怒らないで、恐いのいや……」
 口からだらんとアレを垂らしながら言った。ほんとにもう濡れていた。
「ごめん、空子さん、恐いのしないよ。濡れているね、ものすごく」
 こくこくと頷いた。して欲しいの。
「じゃスカートを脱いで……それからパンティだ。おしり、ナマで見せて。可愛く振って。俺にしながら」
 こくこく頷いて、全部言う通りにした。スカートを外して、それからずるりと下着をおろす。
「すごいよ空子さん……それも、もうだめだ。糸を引いているよ……滝みたいだ」
「だって……」
 車の中だから、完全には脱げない。この方がいやらしいとも分かっている。だからその通りに、スカートも下着もひざのところで留めた。
「うん、分かってる。そのまま来て……そうだ」
 さっきは片手だったけど、体を勇ちゃんに預けて、今度は両手で勇ちゃんに触れる。そう、コレが欲しい。
「挿れて欲しいところを振って……」
 言われなくとも、欲しい欲しいと蠢くおしりをさらに振った。よく見えるように突き上げて。口いっぱいにソレを含む。
「もう……挿れていいよな、舌も指も、空子がしゃぶっているコレも……おしりで答えて」
 応えなんかとうの昔にしていた。ひどいありさまだった。滝とはよくいったもので、もうこのシートに伝っている。
「もうヤバい……空子が濡れるなら俺もだ、俺は……いきなり射精る。全部飲んで……」
 おしりはずっと答えていた。もっともっと、うんとしゃぶると、ひどく卑猥な音がして、勇ちゃんの声もひどくいやらしくて、とっても興奮して乳首が勃って、アソコが疼いて、されたくて、そうこうしているうちに口のナカのコレが、どくんといって、ああ心臓みたいと想ったら、とんでもないものが喉の奥を直撃した。
「うっ……く!!」
 飲みきれなくて、ごほんごほんとむせてしまって、目にも入って、とてもつらかった。

 はなでも飲んでしまったらしくて、かなりつらかった。勇ちゃんが心配そうに大丈夫かと言ってくれている。大丈夫、と返事をすることも出来なかった。今の私はスカートもショーツをおろしていて、滝のアソコが丸見えで、精液を口いっぱいにあびて苦しがっているという、卑猥そのものの狂態だった。
 なんとか落ち着くと、勇ちゃんが背中をさすってくれた。ああ、すこし楽だわ。
「ごめん、ごめん空子さん……苦い? まずい? もう嫌だ?」
 勇ちゃんがとてもすまなさそうに言う。
「そ、……ごほっ」
 そんなことはないわと返事をしたかったのだけれど、初めて飲む食感だったからちょっと言いづらい。これ、まだ喉にまとわりつくわ。すごいべたべたしているのね。
「分かった、もういいよ、無理をさせた」
 いやだわ、もうさせてくれないの?
「む……ごほっ、んっ、ん」
 だめだわ、まだ息が整わない。
 早く喋りたくて口元をおさえ、首を振る私。それを勇ちゃんは辛そうだと受け取ったらしい。事実私の目元は涙でにじんでいて、まゆげも思いっきりハの字を描いて苦悶の表情を浮かべてはいたけれど、むせると誰だってそうなるでしょう?
「分かった、ごめん、もうしなくていい」
 勇ちゃんは、そんなさみしいことを言って、私をシートにもたれかけさせた。私のくつを脱がせて、さっきみたいに脚を上げさせて、ひざを抱え込むように座らせる。でも、さっきと違って舌ではなくハンカチで垂れ伝わったモノを拭いた。私のアソコも、表面だけ。ナカを、なにもしてくれないで。
「い、いやよ!」
 こんなのいや。さっきみたいに舌で嘗めて。あんなふうにゆびでして。
 私の体はもう、想い出を求めていた。ううん、もっと。それ以上。
「……これもいや!?」
 そう想っていたのに、勇ちゃんはまるで絶望したような表情を浮かべた。
 違うと言った。はしたないことを言ってしまった。
「違うの、ハンカチで拭かれるのがいや。さっきみたいにして。嘗めて、嘗めてくれるって言ったじゃない……」
 涙がぽろぽろ。泣いてしまった。
 勇ちゃんはハンカチを持つ手を止め、それをどこかに置いた。それで、熱い瞳で言ってくれた。
「分かった、嘗めるよ。けどそれだけじゃもう我慢出来ない、さいごまでする、いいよな」
「ここで? 狭いわ、痛そう、いや……」
 そう言ったのに、勇ちゃんは首を振った。
「生殺しはもういやだ」
「お家で、お願い……」
 涙ぼろぼろでお願いすると、勇ちゃんは苦悶の表情を浮かべた。
「まだ何時間も掛かる、もう待てない、痛くしない、ヤらせて、空子!!」
 いやよと言いたかったのに口を塞がれた。下のくちを、勇ちゃんを待ちわびるソコにゆびを、いきなり二本。文字どおり、ずぶりと挿れられた。
「ああぁんっっっ!!」
「もっと奥に届くの上げる」
 ぐっちゃぐちゃに掻き回された。体がすぐに想い出す。勇ちゃんのゆびはあの時よりもさらに暴れた。すぐに襞をゆびでいじる。水音が派手に上がる。前後にぐちゅちゅ、望み通りに暴れてくれる。
 なのに、絶対に届くはずの奥にゆびをしてくれない。その奥に、その奥に欲しい。もんどり打って狂態を晒した。嬌声をあげ、涙を上からも下からも垂らした。
「欲しい?」
「欲しいわ!!」
 声を限りに叫んだ。もう、もう奥に欲しい。ここがどこだろうとよかった。どうなってもよかった。
「もうどうなってもいい、勇ちゃん、欲しいのお!!」
 すると勇ちゃんは私のスカートとショーツを無理矢理はぎ取った。それから私の両脇のしたに手をやって、体をがしっと捕まえて運転席側に抱き寄せて、勇ちゃんと真正面に向き合う形にした。ここは狭いから、私と勇ちゃんがひとつ席にいるためには、脚をさっきより卑猥なM字にガバァと開かなくてはならない。私をこんな体位にした勇ちゃんは、下半身の屹立したソレ、天を向くソレと、よだれを垂れ流す私の、じゅくじゅく濡れそぼるアソコにずぶりと結合させた。
「あぁああああああン!!!」
 腰をわし掴みにされ、ソコから勇ちゃんがずぶりずぶりと割り挿って来た。ぶちぶち、みりみり音がした。勇ちゃんが私の体をみしみしと裂く。熱い、熱い、灼けてしまう!
「空子!! 空子も動いて!!」
「あぁんッッ!!」
 待ちわびる奥まで一気に突き挿れられた。ああ、ああ、犯されたんだ、やっと!
 勇ちゃんはそれからも一瞬だって止まらない。私の腰を持って上下にズコバコぬちゃぬちゃ、ぐちゅぐちゅに姦された。車がぎしぎしぎしぎし言っていた。もっと、もっと奥を突いて欲しくて勇ちゃんに言われるまま、車の天井に頭をぶつける勢いで腰を上下に動かした。勇ちゃんのソレと私のアソコがガンガンぶつかりあう。奥まで、こんな太くて熱いモノがもっと奥まで当たってくれる。
「もっとしてぇえええええ!!」
 もっと、もっといやらしいことをして欲しかった、えっちなこと、すけべなことをして欲しかった。全部口に出して言ってしまった。すると勇ちゃんはすぐ応えてくれた。私の上半身の服をはぎ取って、ブラもはぎ取ってくれて、乳首を血が出るほどつまんで咬んでくれた。おっぱいをもぎとられるまでわし掴みしてくれた。そう、そうされたかったの、嬲られるだけじゃ足りないの。
 それすら言った。勇ちゃんは、言う時だけ私の舌を空けてくれた。あとはもう全部犯された。口の奥も、アソコも体が全部勇ちゃんだらけになって、もっと欲しくて、奥に欲しくて、熱くて太くて堅くてたくましくて、ずっと前からされたかっとことを全部してもらって、ほんとにほんとに、体もこころも勇ちゃんでいっぱいになった。