反抗期

「反抗期というものをやってみたい」
 夫の要望だ。子供時代がなかった忠弘。なるほど、いいだろう。
「いいよ」
「随分あっさりだな」
「だって弟いるもん」
 四歳近く離れているので、清子だって思春期反抗期真っ盛りだったのに、抑え役に回らなくてはならなくて、思えばわずか数年で反抗期は終わった。
「そうか。ところで反抗期とは具体的に、どう反抗するものだろう」
 そういえば、忠弘は大学に入って人と交わるようになってからも、誰かに反抗したのだろうか。
「そうだなあ。例えば学校で、授業をさぼる。下校しても寄り道して、遅い時間に帰って来る。心配して、でもとりあえずご飯だよって言うと、もう食べた、とかぶっきらぼうに言って、お風呂にだけは入って部屋にこもっちゃう、とか」
 すると忠弘の表情は途端に曇った。
「……学校はいい所なのに。さぁやといちゃいちゃして、さぁやといちゃいちゃ下校したい。すぐ家に帰って致したい。もう食った? 俺にさぁやの手料理を食わせない気か。ぶっきらぼう? 独りで部屋にこもる?
 ……さぁやは俺の出来ないことばかり言う」
 例えばと言ったのを聞いていないどころか、途中で話が違っている。
「……他にはなにが反抗期だ」
 ご機嫌ななめだ。大丈夫かなあ、例え話なのだが。
「いけないお友達といけない道に突っ走っちゃうとか」
「友達は皆いいやつらばかりだ。地獄以外、いけない道などない」
 話が食い違っている。
「えー、っと……」
 だったらと思いついたことがある。だが言っていいものかどうか。しかしこれぞ反抗期なので、清子は遠慮しいしい小声で、
「親の言うことに耳を貸さない、とか……」
「……出来ない……」
 親すらいない、家族を渇望した男になにを言うかと、忠弘は滂沱した。
「えっと、ね……」
 やはり言うんじゃなかった。しかし将来はお互い親になる、知っていて貰わなくてはと。
「……分かった。俺には反抗期は」
 無理だ、と言わせたくなくて、清子は咄嗟についてっきり、こんなことを言ってしまった。
「あるよ!」
 忠弘はぽかんとした。
「……なにがだ?」
「えっとね。……致す時、私がどんなに“駄目”とか“無理”とか言っても忠弘、聞いてくれないでしょう? 反抗期っていうのは」
 言いつけを守らないことだと言おうとしたら、忠弘は途端に表情を輝かせた。相も変わらず感情を極端に振り切る男。
「そうか! 俺も反抗出来るんだな!」
 んなもんで喜ぶな。
「俺でも反抗期をやれる……! さすがさぁやだ。早速致そう」
 なにをガッツポーズしている。
「あのね……」
 結局こうなるのか、と想いつつ、清子は散々鳴かされた。本気でもう駄目と言っても聞きゃしない。
「言うんじゃなかった……」
「そうかさぁや、まだまだイき足らないか!」
 嬉々として激しく腰を振る夫。
「ほんと……に、もう……だめ……え!」
「もっと言え!!」
 勝った負けたと騒いでみても、恋の勝負は惚れたが負け。