April Fool's Day

「さぁや。お願いだ。今日くらいは俺を捨てない、と言って」
「あのね……」
 清子は困った。
「今日くらいいいだろ」
「だから……」
 繋がりながら、頭を抱えたい気分だった。体位上、無理だが。
「さぁやにモテたくて出社して、何時間も逢えなくて、やっとの想いで帰っても、恐ろしさに震えてドアの前に立ち、決意して開けるとさぁやがいる。やっと逢えた、それでも」
「ちょっと待って」
 それ以上お説を拝していると、どんだけ恐妻かっつーの、ってな話になるので清子は遮った。
「普通、今日っていう日は冗談で、“捨ててやるー”とか、言っちゃっても、って日なんだけどな……」
 とは言わなかった。言えば冗談どころか、である。
「確かに。私は結婚前、酷いことを言ったりやったりしました。それは認めます。今更謝罪しません。しかしながら結婚後はきっぱり心を入れ替え、言い捨てることはせず、投げやりな性格も少々は改めているでしょう。その努力を認めては下さいませんでしょうか」
 とも言わなかった。言いたかったが。
 なんと言えばいいだろう。言い方を考えろとはよく言うが、考える時間が必要だ。だがこの男、その時間を与えるという発想すらなく気がつきゃズッコンバッコンだ。なにせ今現在がそうである。
「今日くらいは、……ッ、言って……さぁや……!」
「だから、……もう!!」

 数時間経過後。なんとかなだめすかし、コーヒーを淹れて上げるとか適当なことを言って居間に連れ出すことに成功。つとめてゆっくり飲みながら、考える時間を確保した清子。
「じゃ忠弘。私に、“さぁやのバカ”って言ってみて」
 忠弘は断固拒否した。
「“お前、料理ヘタだな”とか」
 断固拒否。
「思ってもいないでしょ?」
「無論」
 忠弘は仏頂面。
「だったら妻だって思っていないの! それを言えって言われたって、いくらエイプリルフールでも無理なの、一発で分かって!」
 渋々即答した。
「……分かった」
「あのね。もうちょっと、楽しい話題ない?」
「……捨てない、というのが最大の話題だ」
 最大、つまり年がら年中の話題である。
「そんなことしません。でもねえ、よくあるでしょ? 新婚夫婦が甘えながらムードたっぷりに“お前〜、こいつぅ〜”とかって。あれはやりたいな。どう?」
 清子が、あるようでないようなお約束の台詞を、身振り手振りで感情表現豊かに演じてみせた。アヤしい小指で真っ裸な忠弘のチクビにエロくのの字を書いてみたりして。
「イイ……かも」
「かも要らないの……どう?」
 熱く艶っぽい瞳はさらに滾って。下は見ちゃいないが確実に沸騰しているだろう。
「だったら……」
「ン……」
 吸い寄せられる二人。もう後は……
「それがエイプリルフールか」
「え」
 様相が違って来た。
「そうか。さぁや。んな燃えるシチュエーションは嘘だと言いたいのか」
「ちょっと、ち、違うってば!」
 もうとっくに今日が四月馬鹿の日だなんて忘れたのに。
 しかし忠弘は甘いムードから一転、またも禍々しいオーラを噴出させている。お怒りだ。鎮めなきゃ、谷が(違
「もう! じゃ今日、もう致したくないってこと!?」
「やはり捨てたいということか!」
「もう、こうなったら実力行使!」
 いつもの逆、清子が忠弘を襲って、しかしすぐに体勢逆転、結局休みも貰えず致されまくった。つまりは忠弘の営業トークに丸め込まれたということだが、んなもん日付は関係ないので、もういいやと投げやりに想う間もなく啼かされ続けた。