17

「喫茶店に行くのはいいとして、一杯引っ掛けるくらいはしましょう。でもそこで解散じゃないわよ。それはいいわね?」
 椎名は知っているが、その喫茶店は二十四時間営業ではない。また、そこで夕食を摂るつもりもない。お重で済ませた昼飯より更に豪勢豪華に清子をもてなす予定だ。
「うん。じゃ、続きを話すね」
 さてなにを話していたか。頭を整理する。
「えっと……そうそう」
 もうお笑い天国はおわったな。
「コーヒーを淹れて上げるから、いい豆を買って来て、カップも揃えてって忠弘に言ったら、その日の夜に揃えられちゃった。カップはともかく、豆は実は、その日本一のお店のだったの」
 しおりが反応した。
「へーえ。それでそこに行きたい、ってワケね」
「うん」
 プライドをへし折られたわけではないにせよ、清子がそうと取られそうなことを言うとは思わなかったしおり。納得とともに、某め、たまにはやるな。と口にせず思った。
「それでね。忠弘ってば気が早くて、私がうんともすんとも言ってないのに婚約指輪と結婚指輪を填めてやる、なんて話して。豆とカップを揃えられたらいいよなんて、つい言っちゃったの。でも当日中に持って来られちゃって、いくら意地張り続行な私でも行かざるを得なかった」
 椎名としおりは初めて清子と対面した時、左手薬指も視界に入れていた。そんなもんをしといて好きじゃないとは一体何事か、と思うとともに、ダイヤモンドではない婚約指輪ということは、と、その辺りも考慮していた。
「それで、その頃、私の眼鏡が壊れちゃったの」
 あっさり次の話題に移るところからして、清子に指輪の知識はほとんどないと見抜く二人。
 清子は鼻の付け根辺りを指差す。今までここに、必ず嫌な重みを感じていたのにね。そんな仕草で。
「重くて古くて、ずり落ちちゃってそれ踏んづけちゃって。呆然としてたら忠弘が帰って来たの。一週間も眼鏡なしなんてどうしようって困ってたら、惚れた女を助けられなくてなにが男だって言われた」
 分かってた? そういう視線を椎名に向けると、意を得たといわんばかりに、
「やっぱりね。そのくらい言っていたと思ってたわ。だからわざとああ言ったのよ、自信持って言ったのに一本取られたけど」
 清子の想像以上に、完璧に忠弘の過去を調査していた椎名。だからこそ、知っていたからこそ出来た隙。鮮やかに突かれ、気持ちよく認めた。
「うん。それでね。
 うんともすんとも言ってないのに、ぎゅう抱き締められて片腕で簡単に体持ち上げられたの。すっごい逞しくて温かくて、きゃーきゃー心の中で言ってもうどっきどき」
 想い出して、両手を美乳の上にあてて目を閉じ、酒以外でポっとほほを染める清子。それを見る二人は思う、はいはいご馳走さま、いいから本題を早く。
「それで、未来の夫を信じてとか言われて眼鏡屋に連れて行かれた。すぐに作って貰った。さすがにお礼しなきゃならなかった。婚約指輪を填めるのは当然、それ以外のお礼してって言われて。後先考えず、引っ越すって言っちゃった」
 あれが同棲の切っ掛けだった。あの時は本当に、おゼニのことしか頭になかった。
「この頃はまだ、忠弘があそこまで愛情多過だなんて想わなかった。私が好きと言わなければ、指一本触れないは当然、寝室にも絶対来ないって思い込んでた。実際は勿論、違ったけど」
 しおりが嬉々として突っ込んだ。
「そうよぉ、そこが訊きたいんだけど? ちょおっと前振りで激しく笑わせ過ぎじゃない?」
 二人の最初からの目的は、ちゃんと最初から分かっている。
 さっさと本題言いなさいよ。
「うん、でももうちょっと続くの。
 この頃から、えっちしてやる、その気満々って言葉をぽろぽろ聞いた。夫は俺だ、それ以外は殺してやる。俺の女だ。ちょっと眼鏡のフレームが欲しいって言ったら欲しいにだけ反応されて体が沸騰したって……要するにアレが勃ったってことで……寝室に行って襲ってやる、挿れまくってやる、眠らせない、惚れた女と一つ屋根の下にいて、なにもしない男などいない。さやから堅苦しい言葉遣いが抜けた、それだけで抜ける」
 そうそう、そういうのを聞きたかったのよ。二人はやっと本性丸出しの笑みを浮かべた。
 分かってますよと清子、
「まだなにも言ってないのに随分暴走されちゃって。でも忠弘、……って。はいはいアノ時は更に暴走しまくりですよ。でもね!
 あの頃の私はそんな、心も体も気持ちの準備なんて出来てなかったから、またしても大っ嫌いって言っちゃった」
 清子はまたしても、二人を盛大に笑わせた。
「指輪の件で、宝飾店に行ったの。私はそんなとこ入ったことなかったけど、アクセサリーには単純に興味があった。いくつか候補を見せられて、ついてっきり選んじゃった」
 途端、ぎゃーっはっはっはと大声で抱腹絶倒する二人。椅子から転げ落ちそう。こういう姿を見ていると、失礼ながらこの人達でも、若い頃があったんだなあ……
 と言ったら殺されるので、清子は冷静そうにワインを飲んだ。
「ちょっと清子、あなたお笑いの素質あり過ぎよ。あたし一生分笑っちゃったわよ?」
「うん、一生分笑わせた。実は自信あった」
 哀れ忠弘。
「やっぱりうちの会社に来ない? 清子さん」
 椎名は本気で勧誘した。頭の中で、目の前の若者になら任せられる業務が次々と浮かんで来る。
「うーん……でもお笑い課はないと思うし……」
 話がずれている。
「作ってもよくてよ。あなたが課長でどう?」
「そしたら忠弘をコキ使おうかな」
 哀れな男がいない場で、しばし二人を笑わせて。
「それで、この指輪なんだけど」
 していない二人に左手のそれをよく見せる。超高級バー、赤い痣付きハミチチをちょっとだけ隠すショートドレス、逸品のワインに煌めく石がよく映えた。
「すーーーーっごく、気に入った。忠弘はもう性欲全開で、これを填めたらその日に襲われちゃう、って分かっていたような気がするんだけど、それすら頭から飛んでずっと指輪ばっかり気にした。後から想えば私のこの態度が、忠弘を煽りまくったってことなんだろうけど。とにかく気に入ったの。
 ところで、これ外したくないんだけど、どうやって結婚指輪ってするの?」
 椎名が答える。
「残念ながら外さざるを得ないわよ? どっちもする人など見たことも聞いたこともないでしょう?」
「……やっぱり……どうしよ。外したくないなあ」
 見せた時に翻した手を戻し、飽くことなく変化する輝きを見つめる清子に、しおりが答えた。
「いい案はあるけど、山本某に訊きなさいね。きっといい答えを返すと思うわよ?」
「そう?」
「そうよ?」
 清子は、しおりが忠弘を“そんな男じゃない”と断言した時、正直かなり嫉妬した。木下との仲も、たった一回見ただけで一年間考えないようにするくらい嫉妬した。
 それでも、このしおりの断言には何故か妬かなかった。
「確かにあたし達は今、洗いざらい言わせている。けど、分別くらいはあるわよ。勿論、山本某に今日の会話は言わないし? だから洗いざらい喋りなさいよね」
「なんだか色々矛盾があるような気がするけど……」
 しおりは後を引く粘着質タイプではなさそう。
 とにかく、喋るのを続けた。ここまで言っては、途中で止めるなど出来ない。
「えっと。とにかくね、引っ越しちゃった。これってどう見ても同棲でしょう? 致しちゃっていいですよってOK出したってことでしょう? でもあの時の私は全然そんなこと考えてなかった。まだ忠弘は私を飽きて捨てる、眠り癖が付くまでしか一緒にいないなんて、呑気なこと考えてた」
 なんとのんきな、あれだけ言われておいてか。
 そういう二人の視線を受け流し、清子は続ける。
「土曜日、初めてお弁当じゃないお昼を作って上げた。どう聞いても、運動会で出るようなご飯も好きそうだったから、とりあえずサンドイッチを作って上げた。それはもう大量に。
 連れ込まれて作ったカレーの時からそうだったけど、手抜きしか作れない私にとって、大量の食事を三食全部作るってほんと大変だった。一生作るって覚悟決めた今でも、実はそうなの。
 それで食べさせたら、忠弘泣いちゃって……大の男が声も出さず、涙は静かに滝のようで……後から玲さんが、運動会に出したら死んだ目をしてすぐ逃げたって聞いて、ああこのことかって想った」
「そうよ。少年を救えるのはあなただけよ。死ぬほど分かっているだろうけど追い打ち掛けさせて。
 あなたは少年の妻になったのだから、終生彼のそばにいて上げなくては駄目よ。たとえ彼の壮絶な生き様の全てを知ったとしても、誰に聞かされたとしても、絶対に逃げず」
 清子もグラスを置き、鋭い視線を受け止める。
「忠弘に訊いた、五歳以降はって。
 応えて貰えなかった。結ばれたから忘れたって……」
 知って逃げない自信はない。今度捨てたら、もう。
「そう。言うか言わないかは半々だと思っていたわ。そちらを選択したのね少年は。
 死ぬほど分かっていると思うけど以下同文よ。彼の生き様は彼の根幹、人間の尊厳に関わることよ。あなたといえどそれを傷つけてはならない。彼がそう言うなら訊いてはならない、誰が言いそうになっても知ってはならない。このこと、よく心に刻み付けて置きなさい」
 清子は頷いた。とてもうんなんて言えなかった。
「さあ、続けて。ついしんみりしちゃったわ。出歯亀女二人はいつ本題が始まるのかって期待しているのだけど?」
「あの、出歯亀はないと……」
 営業畑の椎名、シビアな仕事の話と、それに無関係そうな気楽な世間話を言葉巧みに織り交ぜる。
「早く言いなさいよぉ、清子。待ってるんだから」
「ははは……」
 本題を言いたくなくて話を逸らそうとしているのだが、この二人には全く通じないようだ。
「えー。ごめんね、その場面はまだ後で」
 不満顔で抗議する二人をひとまず制して話を続ける。言わせて欲しい、頼むから。
「ドライブとか言われて、日曜日に車屋さんへ行ったの。アクセサリーと違って車なんて全然興味なくて、それでも忠弘は私に選べって。とっても適当に選んだ。助手席に座ったら体全部預けられるって感じで、すごく気持ちよかった。あの車ね、天井が開くんだよ。でも走ってる時車の中に風がびゅうびゅう巻き込んで来るとかそんなんじゃなくて、意外とふんわり感じて、これまた気持ちよかった。音楽聴きながら割とすぐに寝ちゃった。
 次の日の月曜日、出社したら忠弘が三日間、突然北海道に出張だって。それ聞いて、私がどう反応したか分かる?」
 清子はこれが訊きたかった。多分、この二人でも想像出来ないだろうと思って。
 まずは椎名。
「今となっては寂しい、でしょうけれど。当時は? ……まさかせいせいした、とでも?」
 次にしおり。
「まさか、大量の料理を作らなくていい、とでも? 北海道? まさかススキノに行けとか言わなかったでしょうね」
「あらー。どうしよう」
 ズバリだ。予想外。
『バカ!!!』
 出歯亀二人に声を揃えられ、清子はしゅんと小さくなった。
「ちょっと清子さん。一本取られたから黙っていようと思ったけど、いくらなんでも少年が可哀想よ。それでずっと言わなかったってどういうこと? 行為したくて休みの前に、は分かったわよもう充分。でもね、その前の時点で言ってしかるべきじゃなくて!?」
「はあ……」
 笑い転げたのはどこのどちらさんでしたっけ。
 とは、笑い殺した当人だけは言えない。
「はあじゃない! 山本某なんてあたしの嫌いな男の最たるヤツだけど、そのあたしでさえ同情するわよ! 酷過ぎるんじゃないの!?」
 なんとあのしおりまでが同情とは。
「……やっぱり。そっか……」
『やっぱりじゃない!!』
 清子はしばし、二人に言葉で折檻された。清子にだって、そうされて当然という自覚はちゃんとあったので、延々説教された。
「ふー……少しは気が晴れたわ。さ、続けて頂戴。いい加減こちらの望む内容を吐いてくれないかしら? さすがにキレそうよ」
 しおりも以下同文らしい。よかったね忠弘、報われたぞちょっとは。
「はあ。では、お待ちのシーンを申し上げましょう」
 喉を潤す為という理由一点で、清子はワイングラスを傾けた。
「やっと? ちゃんとどう喘いだかまで、鮮明に言うのよ」
「それはちょっと……」
 途端二人の目からアヤしげな怪光線が発せられる。誰を敵に回しても怯まない清子だが、あれだけの折檻の後ではさすがにたじろぎ観念した。
「済みません……覚えてる限り言います」
 しかしあれをどう言えと。しかも鮮明になんて。無理だと思って投げやりに、
「えー。三日間無視しちゃいまして。せいせいしてススキノへ行け、ばんざーいなんて言っちゃ……」
 二人の怪光線が更に増した。アブない不穏な光景にただ縮こまる清子。
「……済みません。洗いざらい吐くから許して下さい」
 人生に開き直りは必須だ、もうどうにでもなれだ。
「えー。忠弘様はご帰宅後。当然お怒りで。ええ、襲われました。はあ、大変情熱的にキスされて。ええもう、ねっとりと。お二人のご想像以上にかまされました。あはんうふんって喘ぎました。おっぱいなんてぎゅーぎゅー揉まれて、乳首なんて疼くほど弄られて吸われ放題。そりゃ濡れましたよ。私、情けない男性経験の時、相手ヘタクソで。相手のせいにしちゃけど、濡れるなんてことなかった。でも忠弘にされたら一発濡れた。なんで挿れて、今すぐセックスしてって言わなかったか今でも分からない。
 何故か忠弘は上半身だけで止まったの。多分当人にも分からないと思う。でも、すっっっっっごい低い声で、もの凄い怒声で静かに言われたの、
“飯”
 って。
 忠弘、私を落とすために凄く気を遣ってたのね。今じゃ考えられないけど、とっても丁寧な言葉を遣って。君、っていうのも丁寧語なら、手料理も実はそう。食べたいもそう。ご飯もそう。でも、あれが実体だった。食いたい、飯を作れ、がほんとなの。
 頼まれて連れ込まれたんだから、命令なんてされたらそりゃ怒るよ。だからそんな言い方絶対しなかった。したら捨てられるって分かってた筈なのに。
 もう、忠弘の命令通りするしかなかった。携帯を出せって、血の凍るような低い声で命令された。こっちは声なんて出せなかった。そしたら忠弘はすぐリビングを出て、携帯がどこにあるか寝室から物色して行った。姿が見えないから逆に荒々しい音がただ怖かった。隣の部屋も物色してた。どこからか見つけて持って来て、大量の未開封メールを見せられてこう命令された。
“必ず出ろ。必ず見ろ。すぐに返事を出せ。必ずだ”
 君が好きだ、って言われて嬉しかったあの時でも、こんなこと言われたらすぐ捨てた。そう分かってる筈なのに忠弘は命令した。どれだけ怒っていたか、死ぬほど分からされた。眠れる筈なかった。ああ忠弘はこういう想いをしてたんだって、一晩で死ぬほど分からされた。
 翌朝も犯された。怖くて喘げもしなかった。それでも上半身だけだった。なんでかって知りたいだろうけど、今でも怖くて訊けない。
 去年、忠弘が私に贈れなかったこのネックレスをして貰った。今でも思い出したくないくらい冷たい、奈落の底の表情で……目が死んでるってああいうことなんだって分からされた。多分あれが、五歳以降の日常……」
「そう……」
 一息ついたのを見計らって、しおりが三つのグラスを満たす。
「随分笑わされて、まさかと思ったけど……やはり、実際訊かなければ分からないものね、人って」
「続けなさいよ、清子」
 三人とも、めいめいのペースで注がれた赤を飲んだ。
「……うん。
 それで出社したけど。そりゃもう顔面真っ青。婚約指輪の次は揃いのネックレスだから、周りはさぞ私に彼氏が出来ただろうと冷やかしたかった、と思うのね今となっては分かるけど。でも、あの日は誰もそんなこと言わなかった。目敏い渡辺君だって私をひとめ見て言った、すぐ帰れって。そうしたかったけど、帰るといっても私のアパートはもう解約していて、逃げる先もなかった。お昼、命令通り携帯を開いたらメールが入ってあって、五時に直帰しろって。ああ犯される、最期まで、愛情もなく。でも受け止めなきゃって覚悟した。
 言われた通り帰ったら忠弘はもういた。営業で、五時に私より先に帰るなんて絶対出来ない筈なのに。覚悟して、されるがままだった。怖かったのに、愛情ないって想ってたのに……もう、愛情多過だった……どれだけ心も体も死んでいても、私だけは愛してくれる。それが分かって、もう溢れた。熱いんだね、濡れると溢れるじゃ違うんだね……
 それ舐めて吸われて、言えって。
“愛していると。忠弘と呼べ。結婚すると言え”
 言わなきゃこのまま犯してやる。さぁやの愛液が一番の手料理だ、美味いぞ。いやじゃなくてもっとだろ、挿れてだろ。俺がどれだけ眠れなかったと思っている。出張に出てから食ったのはさぁやの愛液と手料理だけだ。
 ……こんな時に“サーヤ”だよ。……五歳児だった……後はもう、ほとんどさぁや。
 私は天下ご免の向こう傷で、誰を敵に回してもいいなんて思ってて、いい加減命令も聞き飽きたからブチ切れて、怒ったの。出て行く、捨ててやる、あんたなんか大嫌いだって、忠弘にとっての禁句ワードオンパーレドを言ってやった。そしたら忠弘は激変した。許して行かないで怒らないで、俺を愛してって縋られた。私の髪の毛が濡れるまで泣かれたから、止まって上げた。そしたら、指一本触れないなんて出来もしないこと言ってた。それをころっと信じた、んだけど。
 ハーイここからがお待ちのシーンで御座います」
 待ち望んだ言葉が聞けた途端、出歯亀女二人の目の輝きは一瞬にして危険度満点のレッドゾーンに達した。
『やっと!? 前振りが長過ぎる!』
 哀れ忠弘、前振り扱い。
「はぁごめんなさい。実はもう一つ、前振りがあるんだけど」
『そんなのいいわよ!』
「いやあの……この時、一杯のお茶事件が勃発したのですが……」
 あれにだってちゃんと言いたいこと、吐き出したいことがあるのだが。
『そんなのいいわよ!!』
「そんなのって、あれがないとお二人と会話することもなかったんだけど……」
 つまりこの二人、自分達は前振り以前だと言っているようなものなのだが、そんなヘ理屈など通じないほど、目の前の女達は立派な出歯亀だった。
「はあ、観念しました。洗いざらい言いましょう……」
 清子は勿体をつけて、わざとらしくワインをあおった。
 グラスを静かに置いて。
「えー。この指輪を拭いてたら、それでOKって想われたんだろうなあ。襲われましたよ後ろから。そっと優しく抱き締められて。なにせ好きだったもので? 愛しちゃっていたもので? 指一本触れないなんて、こっちが言われたくなくて。ええ嬉しかったですよーだ。されるがままでした。耳に舌挿れられて、ほっぺ舐め上げられてどっちも両方。こっちからキスして欲しくて顔向けましたよ。忠弘はって? 舌をねっとり歯から奥まで根こそぎ搦めてですよ。あはんうふんって喘ぎましたよ濡れましたよ。なんで自分からお尻突き上げて、さあ犯ってって言わなかったのか今でも分かりませんよーだ。
 おっぱいモミモミされましたよ。私のムネ、美乳とか言って大のお気に入りみたいで。はあ、E65で結構自慢です、形も。昔の男二人は私のムネ目当てで近付きましたよ、ええ。掴まれたけどただ痛くてねえ。それが不満だったのか、突然挿れられてもう最悪、不愉快気分悪いも甚だしい、思い出したくもない。二人ともそれぞれ蹴っ飛ばしたらその場で切られましたけど。
 なのに。ええ忠弘は凄かったです。もっとも、中に挿れさせて上げたのはつい最近ですが。
 はあ。オーラルって言うんですってねえ、舌と指だけだと。はあ、それだけでもうイきましたよ、喘ぎましたよ。前の二人なんてもう思い出せないくらいかまされましたよ。信じられないほど強引で、無茶苦茶で、死ぬほど激しいですよ忠弘のセックスは。今までもそうだったのかなあ……多分違うと想うけど。
 で、死ぬほど言われました。好き好き、好きだろそうだと言え。本番したいだろそうだと言え。アレを私のアソコにぶち込みたい、そう想ってるだろそうだと言え。
 本番じゃないのに死ぬほどイかされて。死ぬほどクンニされましたよ。口も乳首も吸われ放題。体中隅から隅まで舐められて。疼いたなんてもんじゃない。なんで挿れて、奥まで突いてって言わなかったんだろ。今じゃ絶対無理、もう分かんなかったですよ自分が。
 ご飯根性で作りましたが真っ裸でねえ。食後押し倒されましたよ。はあ、強引滅茶苦茶死ぬほど激しい。イって波が引いてないのに構わず次々……挿れられない方が体力使ったなあ。
 で、フェラチオさせられました。はあ、その時まじまじ見せられましたが。
 ……そう目を爛々とさせないで下さいよ。訊きたいんでしょうアレがどうかって。はあ、言いますよ洗いざらい。
 えー。赤黒くて隆々。血管波打っててでかい太い堅い。どれくらいかって? 実は私もイヴ前の女なので。それなりーにすけべぇですよ。だから観たことありますよAV。ええ、和も洋もです。で。
 ええ巨根ですよほんとに。マジで。妻の贔屓目じゃなくて、洋のアレですよほんとに。極太で、両手で扱けるんですよ。アゴが外れるかと想うほど口開けなきゃ咥えられない。凶器だってあんなの。信じられなかった。ぜーーーったい、挿り切れないって想った。
 でえ。金曜の夜に本番を致した訳ですが。……なんとか無事に挿ったけど全部。よくまあ、って想った我ながら。満足させられなかったどうしよって本気で心配しましたよう。週末、何度もキツい、狭い、締めるななんて言われたけど、そっちがデカ過ぎるんだっつーの!
 ……だからそういう目で見ないで下さいよ。写真撮りますよ?
 生理の時はしないなんて、殊勝なこと言ってたけど。ぜーーーったい犯りますねあの男は。間違いない。生理の六日間は全開で痛がらなきゃやってられないって。でなきゃ明日から四ヶ月間毎日毎晩ご飯作ってる時もトイレの時に至るまでされそうですよ。二人っきりにして戴いて結構ですが、ありがたいというか死ぬ気でかからなきゃというか……
 でえ。オーラルだけに留めていただいたあの日の話に戻しますと。シメはシックスナインでしたよう。セーエキ死ぬほど飲みましたよう、不味いったらありゃしない。それを、俺の作れる唯一の手料理だ、美味いだろさぁや、だって。自分で飲んでみろっつーの……とは言えないけど。
 これでよくまともに出社出来たって思うでしょ? よく分かりませんがお得意先らしき所からお電話が入って助かりました。勘弁して下さいよここまでで……」
 勘弁しません不満です。洗いざらいもっと言え。
 という言葉が、アブない爛々な怪光線から聞こえて来るかのよう。
「はいはい、自供が足りないでしょう。分かってますよ言いますよ」
 清子は観念した。最近はこればっかだ。