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 八時過ぎに出社し、更衣室で着替えていると、周囲から遠慮がちに「具合、大丈夫?」と訊かれた。彼女達は一様に、腫れ物を触るかのように清子の様子を伺った。
「あ……っと。大丈夫です。ご心配をお掛けしました」
 とりあえず清子はそう言って頭を下げ、打刻面を読まれたら一発アウトな代物を気にしつつ急いで着替えた。
 女子社員達は、「出来たばかりの彼氏に振られたの?」と問おうとした。しかし、それにしてはあまりにも異質な風を、昨日の清子は纏い過ぎていた。女子社員達だって彼氏に振られた経験はある、泣いたしヤケ食いをしたし買い物三昧もした。でも誰も、あんなふうにはならなかった。それどころか、まるで相当の関係である人物に、目の前で死なれたかのような、そこまでの風を感じ取り、誰も清子にそれ以上を訊けなかった。胸元の、それまではなかった筈の存在を誰もが目敏く見つけたが、そんなふうに思ってしまったので、安直に「彼氏に貰った」とは誰もが考えなかった。
 自席に向かうと渡辺が既にいて、
「大丈夫っスか。なんなら今日こそ休んで下さい、オレがやりますから」
 と言ってくれた。素直に嬉しかった。
「ううん、もう大丈夫。この間ごろごろしたくて休んじゃったしね」
「……そうっスか」
 渡辺は不承不承。しかし、清子の状態は昨日だけがマイナス面ばかりの異質さなのであって、今日は通常に戻っている。半年隣で一緒に仕事をした、目敏い渡辺でもそう思えた。何故昨日ああだったのか訊きたいが、仕事に対する責任感のなんたるかを直接学んだ相手なのだ。大丈夫と断言されれば唯々諾々と従うしかない。
 それに、ついこの間完全な私用で休んだ、というのも今日休みづらい理由のひとつだった。通常、半年間継続勤務し全労働日の八割以上出勤すれば、十日間の有給休暇が与えられる。それはこの会社でもそうなのだが、とかくこの会社は有給休暇が取りづらいのだ。それが、清子が入社一年半、一年間に使える権利を全く行使しなかった理由の一つだった。
 どこの会社でも、上司ははっきり声に出して「有休休暇を取るな」とは言わない。だがどこの会社でも、上層部にとって有給休暇など恨めしいものだ。お上が決めたことだが、そのお上は有給休暇代の補填などをしてくれない。取らせなければその分会社にとっては益となる。残業代とて出さない会社だ、損となることをさせはしない。
 そんな雰囲気は社会人になれば敏感に感じ取れるもの。だから清子は取らなかった、取れなかった。これは、この会社に入ったほとんどの社員が経験すること。
 どう騙くらかしたかは知らないが、よく忠弘は同期ってだけの、課も違う他人の有給休暇を取ってくれたものだ。
 渡辺は目敏いので、まだ夏用である制服の、開襟ブラウスからチラと見える鎖の存在には気付いていた。しかし、覗き込むなどもろにセクハラ。しかも直接の教育係にそんなことなど出来はしない。さらには、男子更衣室では現場で実際の労働に従事する社員は着替えるが、スーツで出社する者は着替えないために、目敏い渡辺といえど忠弘と清子が揃いのタグの下がった鎖をしているということは分からなかった。
 昼となり、社食に行っていつものランチを頼んで食べていると、携帯電話が震えた。今度はきちんと読む。忠弘からのメールは、
“今日は朝イチで営業に出ている。今は出先からだが、お弁当は食べているよ。いつも、とても美味しい。好きだよ、さや”
 という内容だった。またあんなことをされては困るので、一応お返事。
“お疲れ様です。お帰りの時間は分かりますか”
 返事はすぐに返って来た。向こうも休憩中らしい。
“済まない、顧客次第なので分からない”
 営業ならではだ。
“十時頃までは起きていますので、帰宅したら電話を下さい、着信音で起きます。それ以降は先に休みます”
“分かった。なるべく早く帰るが、十時過ぎたら携帯電話を気にせずすぐに眠って。待たせて済まない。好きだよ、さや”
 それには返事をしなかった。いつまでもメール交換もなんだし、それは向こうも分かってくれるだろう。
 午後となり、誰もが睡魔を意識する。あと数時間すれば二日休める、一番月曜日朝を考えなくていい時間帯。誰もが五時をいつも以上にわくわくと意識しながら淡々と業務をこなして行った。
 午後三時となり、清子は化粧室へと失礼した。個室にこもってなになにをしていると、こんな声が聞こえて来た。
「もー。アタシー。アッタマ来てぇー」
 清子の属する総務は内勤が主。全社員の顔・声など把握していない。課内の者と同期ならまだ分かるが、それ以外の社員の声だけを聞いてそれが誰かなんて分からない。いずれトイレとは本音の出る場所だ。
「えぇー。だって相手、あの上場一部の大会社、うちの一番のお得意先でしょう? いいの?」
「だぁってぇー。そこのぉ、現場で一番の花形っていう営業課長さんがわざわざ来てくれるって言うから、ネイル気合いで塗ってたのにぃー。来たのその下の、課長補佐だったんだよぉー」
「それでもさあ。あんな会社って、課長になるのに有名大学卒でも二十年は掛かるんでしょう? その下だって悪くないんじゃない?」
「と思ったんだけどぉー。来たのオヤジでさぁー。つーい」
 清子はここで個室を出た。すれ違いざまチラと見ると、営業事務の女性達だった。清子は春先、営業課に何度もヘルプで呼ばれたので、それで顔を知っていた。お茶汲みなど女の仕事、と決め付けているこの会社で、女性が営業課に確かに存在し、席も外していないのに、それでも清子はお茶汲みさせられていた。何故彼女達に頼まないのだろうと、清子はずっと思っていた。
 彼女達はヤボな制服の平社員など見向きもせず、その後もダベっていたようだが、清子はそのまま化粧室を出た。
 二時間後、一般サラリーマンの大多数が待ち望む花の金曜日五時。脱力感と開放感で一杯になるこの瞬間。男はすぐに帰宅、女の下っ端だけが茶碗ポットその他の後片付けをする。
 バスを下車した清子はスーパーへ向かった。大根、卵、こんにゃくに出来合いのものを持てるだけ買う。
 そういえば土鍋が必要だったな。あのメールの内容ではすぐに帰宅は無理。待つのも面倒だ、これも買おうか。おなかも空いたし、久々に作るから味見が必要。先に食べているとは前言ってあるし、そうしよう。
 土鍋と大量の食材を両手一杯に持ち帰宅。化粧を落として楽な服装に着替え、さっそく調理開始。大根・こんにゃくを切って。煮えにくいものから順に煮て。
 出来上がりを食べると、なかなか上手く行った。これならよし。ついつい多めに食べようとしたが、大食漢のために残しておくか。
 風呂に入ってさっぱりすると、玄関が開いた。
「さぁや! どうして電話に出ない!!」
 家の主がお帰りだ。またビジネス鞄をぶん投げて。それは商売道具じゃないのか?
「済みません、今お風呂に入っておりまして」
 パジャマ姿を確認すると、忠弘は深く深く息を吐き出した。誰が見ても心底ほっとしたと分かる表情で、
「ああ……そうか、よかった。ただいまさぁや」
 重い足取りが近付いて来る。清子はその場にいて上げた。
 日を重ねるごとに熱く艶めく。男の色気も通り越し、欲求で満ち溢れながら、直近で。
「好きだよ」
 双眸は刻に、言霊よりも雄弁に語る。
「さぁや。好きだ……」
 逸らさずにいて上げた。
「ご飯の準備が出来ています。温めるだけですよ」
「うん。分かった」
 嬉々満面な大食漢はスーツ姿のままリビングのソファに腰を下ろした。
 土鍋を温めていると、後ろから声がした。
「さぁや。それは土鍋に見えるが」
 それくらいは知っているか。そりゃそうだ、友達と鍋をつつくくらいあるだろう。
「そうですよ」
 火を使っているので振り向かない。
「そんな重い物を一人で買ったのか。俺が持つと言ったのに」
「おでんは私も好きなので。一足先に食べたかったのです」
「……済まない」
「仕事ですからね、しょうがないです。我々は働いたサラリーで生かされておりますので」
「……それは、確かに」
 この時点で、化粧室で聞いたあの会話を忠弘に言っていればよかった。だが言葉が飛び飛びであったこと、全部聞かなかったこと、まさか一番の得意先になにかなんて出来るわけがないと思い込んだこと、帰宅して仕事を忘れたことなどが重なって、伝えるという意識がなかった。
 テーブルに鍋敷きを置き、おでんでいっぱいの土鍋を運ぶ。重い物という認識はありながら、より重くなった土鍋をコンロからリビングのテーブルに運んでやろうという発想も忠弘にはないらしい。清子はそれを窘めたり、運んでくれと頼む気もなかった。
 忠弘にかかればでかい土鍋も小さいもの。大して時間も掛からず予想通りすっからかん、まだまだ足りない模様。こりゃ土鍋三杯は食われるな。仕方がないからどんぶりでジャーのご飯を全部食わせることにした。
 いつものガツガツっぷりを見ながら、お代わりを盛りながら、明日はなににしようか考えた。……グラタンが食べたい。レンジもあるし。
「明日、グラタンなんていかがですか」
「美味しそうだ。山と作ってくれ」
 今日は少なめに出してしまったから、お望み通りそうするか。十皿は作ってやろう。
 忠弘からのリクエストは数えるほど。手料理を食べたことが久しくないのだから、リクエストを思い付かないのだろう。接待の時は高い店ならではの長ったらしい名の付いた品目ばかりを食べる筈。さぞ美味しいだろうに、調理実習で作るような単純な料理を欲する男。
 グラタンは夕ご飯だ。だとすると昼や、日曜日はなにを作ろうか。ネットで探すか。
 明日……そうだ、今度の週末は先週と違い、用事や出掛ける予定があるとは聞いていない。友達がたくさんいそうだから、その人達と遊ぶ予定があるならご飯を作る必要はない。その辺を先に訊いておこうか。
「週末、なにか予定はありますか」
「……いや」
「先週はいろいろありましたが」
「……あれで、大体済んだ」
 なるほど、そう言われれば。となればやはり家政婦は必要か。
「ではですね。明日は起こしませんから、のんびり眠って下さい」
 無視してしまった三日間はともかく、清子がいるに限ってはぐっすり眠ってくれている。あれさえなければ眠り癖が付いたな、と思えたのだが。
 起こす時は毎度申し訳なく思っていた。平日でなければ起こさなかった。あれほどの不眠症があれだけ気持ちよさそうに熟睡だ、起こしたくなかった。予定がないというのなら、たっぷり眠って自然に起きるあの爽快感を味わって欲しい。多分ずっと前から、その感覚さえ喪くしてしまったようだから。
「起こしてはくれないのか!?」
 飯粒を飛ばす勢いで言われた。
「えー? ……っとですね。お互い、自然に起きるまで眠りましょうよ。せっかくの休日なんですから。私も時間を忘れて、思う存分のんびり眠りたいのです」
「存分……のんびり……」
 言いたいことは伝わったのだろう。大食漢はこう言った。
「……分かった。確かにせっかくの休日だ。時間を気にしたくない、その通りだ。済まない、さぁやには苦労ばかりかけて」
「苦労って……そんなことはないですよ」
 多少というか多々、大量の食事作りは大変であるが。
 食後に風呂へ入る忠弘。その間清子は片付け、朝食の支度。昼食以降の食材はなにを作るか決めてから買おう。
 台所仕事が済んで、指輪周辺を丁寧に拭いてから寝室へ。明日はスーパーへ行くのだから、出社するような服を吊っておく。歯磨きセットを取り出し洗面所へ。
 歯を磨きながら週末のことを考える。寝室の掃除は家の主がやってくれた、すると休みの内やるべき家事は料理を除けば洗濯だけか。
 洗濯と言えば、干していた下着の類も見られてしまった。スッピンも見せているとはいえ、下着も買って貰ったとはいえ。はぁ……
 歯磨き後清子は、寝室に置くことにしたバッグから携帯電話を取り出した。案の定着信・メールどちらもいっぱい。今から帰るよ好きだよさや、返事してさや、どうしたのさや、答えてさや、さや、さや……
 本当に、境のない男だと想う。
 生者が行けるこの世の果てに、自分の意志ではなく立ち、そこから突き落とされた男。だから境がないのだ。
 教えるべき、……誰が……
 該当者は、……ひとりだけ。
 熱は多分、……

 翌朝、清子は起きた時、風を感じた。流れるじゃない、ひんやりとしたもの。
 眼鏡をせず遮光カーテンを開けた。ぼんやりとした景色の向こう、空は青かった。久々の晴天だった。異常気象だかなんだか知らないが、まだ夏といっていい時期なのに最近は曇りが続き、雨もぱらついて。
 今日は快晴だった。
 眼鏡を掛け、パジャマのまま寝室を出た。すぐ向かいの洗面所にいない。キッチンにも顔を出したがいない。眠っているか。
 もう一度寝室へ戻って携帯電話を見ると9:20。よく眠れたな。これぞ休日。
 ブラなしで歯を磨き顔を洗った。くしでよく髪を梳く。それから空き部屋へ行ってみた。そっと戸を開ける。
 家の主は仰向けですーすー眠っていた。完全無防備、間違いなく熟睡、顔色がいい。起こさなければこのまま十時を過ぎても眠っていそうだ。
 よく眠って欲しかった。それが、この家にいる存在理由なのだから。
 静かに、ふとん隣に正座する。
 昨日は、これがさいごかと想った。だから。
 でも……
 清子は眠る人物のくちびるに人差し指でちょこんと触れると、それで自分のに触れた。あとは、立ち上がって静かにそこを出た。
 寝室へ戻って着替える。それから朝食の支度を。みそ汁は鍋一杯作る。卵と焼き魚は一人分。
 食べおわり、片付けてテーブルを拭き、コーヒーを淹れた。
 清子は一人分だけ淹れる時、サーバーは使わない。直接カップに落とす。つまりは今、水量がカップのどの辺まで来ているかはその目で見えない。膨らむ豆にのの字で湯を注ぐ。これはと思うタイミングでカリタのドリッパーを上げた。
 うぅん、バッチリ!
 カップのふちまで1cm、我ながら見事な淹れっぷり、惚れ惚れしますよ清子さん!
 などと秋の朝から清子は自画自賛した。
 ソファに深く身を預けカップを傾ける。心地よい風。心地よい陽。心地よいのどごし、香り、味。
 いい休日だぁ……
「さぁや!!?」
 大声が突然だ。家の主が起きたらしい、心地よく浸っていたのに。頼むからあと十分待ってくれないかなあ。せっかく最高の気分だったのに……
 はいはい。
「いますよー。キッチンでーす」
 空き部屋に向かって言ったものの、カップは持ったまま、立ち上がりづらいソファに座ったまま、声も通常のもの。永遠に喪くしたものがあり過ぎる男には全く届いていなかった。
「さぁや!! さぁや、どこだ!! さぁや!!」
 探している。仕方がない。
 清子はカップをソーサーに置いて、よっこらせと立ち上がった。廊下に出て。
「はーい、ここですよー。キッチンです、起きてます、朝ご飯支度しますよー」
 やっと聞こえたらしい、忠弘はここで逢ったが百年目と言わんばかりに、
「さぁや! そこか!!」
 はいはいいますよここですよ。
 またも激しく音を立てて戸を開ける家の主。重い足音と共に現れたその姿は、
「服を着て下さい!!」
 即座にキッチンへ逆戻りした清子は、今の出来事はなかったことにした。前にもあったぞこんなこと。落ち着け。
 立ったままでコーヒーを飲み干し、カップを洗って磨き上げる。無心でやらなければ、高価なものほど曇ったまま。だからなにも考えず。
 今日の空のように。
 カップと指輪を拭いた清子は、目玉焼きと魚、サラダの準備をした。するとやって来る家の主。重い足音が近付く。直近まで迫って、右横から、ほっぺに触れるか触れないかのところで、
「おはようさぁや。好きだよ……」
 人の視界は180度もない。だがここまで近いならチラと見える。同じ鎖、タグ。上半身裸。頼むから下は穿いてくれ。いくらここの家の主だからって、現在はもう一人がお邪魔しているのだぞ。
「よく眠れましたか?」
「……寝起きが最悪だった。さぁや、お願いだ。起こしてくれ。さぁやがいない朝など地獄だ」
 ある程度生きた人間なら誰しも、地獄の縁にならば立ったことがあるだろう。人は、殺された時にしか傷つかない。誰かに体を殺された時。心を殺された時。
 この男は全て殺され、地獄の谷底に落とされたのだろう。
 極楽の蓮池の淵に立ち、一本の蜘蛛の糸を垂らしたのは御釈迦様。血の池に沈められていた男は、それに縋り、再び落ちた。御釈迦様でも見捨てたものを、美しい銀色の糸をかけた極楽の蜘蛛ならどうする?
 この男にとって、蜘蛛とは誰?
 ひとは誰でも、銀の糸を持っている。ただし、ひとりでは駄目。
 二人でなら。
 想い合った二人でなら……。
「……分かりました、起こします。ただし私が目覚ましなしで自然に目が覚めてから、となりますが」
「嬉しい」
 またも大の嬉々満面。
「さぁや、よく眠ってくれ。俺も眠る。さぁやが自然に起きるまでぐっすり」
「いいことです。じゃ朝ご飯の支度をしますので。洗面所にでも行ったらどうです」
「分かった」
 さっきからずっとずっとずーーーーっと、直近で。
「行って来るさぁや。好きだよ」
 重い足取りの主は、惚れた女に言われた通りキッチンを出て行った。
 いつもの朝食を作って並べおえた頃、忠弘が再登場。パジャマの下だけ穿いて上は真っ裸のまま。男がナマ肌にタグ付きネックレスだ。正直色気を超えている。
 忠弘は、普段ならメシを前にして嬉々満面となるのに、今朝は違った。
「俺の分だけ……さぁやの分は!? 俺はまたさぁやに!?」
「食べたんですよ先に」
 あの時だけだ、飯抜きなどするものか。
 すると忠弘は滂沱一歩手前、眉毛をハの字にして清子に詰め寄った。
「お願いださぁや、一緒に食べて……仕事があるから昼も夜も難しいが、だから朝だけは確実に一緒に食べられるんだ、家で独り食事などもうしたくない、させたくない、お願いだ、一緒に……」
 全開で縋り甘える、惚れた女の一挙手一投足で生身のまま地獄にも落ち天国へも昇れる男。
 清子はため息をついた。
「……分かりました。そういえばサラダを食べていないので、頂いていいですか」
「うん」
 途端に嬉々満面だ。感情を両極端にいつでも激しく振り切って。せっかくの休日なのに忙しい。
 いただきますと声を合わせ、忠弘はガツガツ、清子はサラダをちょっとつまむ。ご飯とみそ汁のお代わりを盛るためキッチンと往復しながら。
「いつも美味しいよさぁや。好きだよ」
 昼はなににしよう。ネットで探すんだったな。そうそう、洗濯をせねば。待てよ、家の主も洗濯をしたいかもしれない。風呂と同じだ、順番待ちがある。
 食べながら言った。
「ご飯を食べたら洗濯機をお借りしたいのですが」
「うん。使うよ忠弘、挿れて忠弘と言ってさぁや」
 先に借りることにした。
 食後、コーヒーを二人前淹れてゆっくり飲んだ後、忠弘が言って来た。
「さぁや。俺は掃除をする。それと、今日はいい天気だ、ふとんを干そう。寝室から廊下に出してくれ、後は俺がやる」
 なるほど、それはいい。
 やはり睡眠には細心の注意を払っている。それでも眠れず、一睡も出来なかった先日のような想いをしたのか、一週間も十日間も。ひょっとしたらそれ以前も。絶食にしたって先日の一回でもう充分だ。なのに一体どれだけ……
 清子は言われた通り、掛けぶとんと敷ぶとんを廊下まで出した。それから洗濯を。自動でぐるんぐるんと回る間、ネットで料理を探す。
 昼はざるソバなんていいな。となると天ぷらを付けねばなるまい。面倒だが、出来合いを買うのではなく衣から作ってやるか。待てよ、お金はあるのだから一番でかいエビを仕入れてやるか。いやさ自分が食べたい。ぶりぶりのエビを買ってやる。これについては多く食べるぞ、三本は頂こう。となると大食漢だって食べたい筈だ。何本を揚げりゃいいんだ?
 などなど、自分の好みと作れる範囲を考えながら週末のレシピを全て考えた清子は、メモにきちんと書いて食材内容を決定した。これでよし。
 既に乾いたものにアイロン掛けを。洗濯がおわった衣服を取り出して寝室に干す。乾燥機もあるが、休日だし、室内とはいえちゃんと干したい。
 やるべき家事を済ませると、時刻は正午前。朝ご飯を摂った時間からして十二時ぴったりに食べなくてもいいだろう。
 携帯電話を持って寝室を出る。すると、よく見える眼鏡でも、綺麗に掃除された後だということが分かった。ぴかぴかだ。
「さぁや」
 忠弘は物置部屋から出て来た。おそらく掃除機を仕舞ったのだろう。やっと着替えてくれた。黒っぽい七分袖ロングティーに胸筋が浮く。長い脚にグレーのデニムパンツ。正直、よく似合うと思う。
 忠弘のヘアスタイルは、撫で付けたオールバックなどではない。さっぱりと短髪だが、単純簡単には切られていない。結構凝っているというか、こだわりのありそうな髪型。きりりとした眉、ときにはガラス玉のように曇りのない真っ直ぐな瞳。すっと通った鼻筋、あのくちびる、無駄な贅肉のない全身。
 やはり下半身、脚も。傷だらけだった。
「えー。お疲れのところ済みません、スーパーに行きたいのですが。出来れば荷物持ちを」
「任せろ」
 スーパーには一人で行きたい。しかし、朝起こすのも朝飯でもあの騒ぎだ、絶対ついて来るに違いない。
 こんなにいい天気なのだから、どこかに出掛けて遊びたい。しかし、とにかくこの男がついて来る。左手薬指には気に入った指輪、首には揃いどころじゃないネックレス、手をつなぎたい気満々の自称未来の夫が直隣。まるで新婚デートではないか。よって出掛けるは却下。先週はあれこれをした、気を遣って来ている、今週はのんびり休みたい。土日と月曜日朝の分まで食材を一気に買って、後は昼寝とかゲームとかして過ごそう。
 二人で一緒にスーパーまで歩く。
 清子は車に関心も興味も全くないので分からなかった。こんなにいい天気で、助手席に専用で乗せる惚れた女がいて、オープンカーを持つドライブ好きな男がどこにも出掛けないという心理を。
 スーパーであれもこれも買う清子。レジを通して、買い物袋に食材を入れる時思った。忠弘は“初めてのお使い”もまだなのだと。レジ袋は四角にぴっと広げること。入れるには順番があり、生卵など割れやすそうなものを下にしないこと。どれも全く知らないようだった。
 二人で一緒に帰宅。忠弘はふとんをベランダからおろして、清子の分を寝室前の廊下に畳んで置き、自分の分を空き部屋へ運ぶ。清子は置かれたふとんを寝室に持って行ってベッドメイク。お日様のにおいがした。気持ちいい。
 それをおえると、ソバ作りに取りかかった。天ぷらの準備もする。いいエビだ、さぞぶりぶりだろう。
 キッチンに立つ清子の後ろには、忠弘がいた。
 抱き締めたい。
 惚れた女と同じ空間、こんな近くにいて触れない男はいない。温かかった。惚れた女のぬくもりを知ってしまった。二連休、時間は気にしなくていい、目の前には無防備な清子。
 抱き締めたい。
 結果、忠弘は両腕を清子の腰に回そうと想い始める。だが約束がある、また手酷く反撃されたら。そう想うと上げた腕が下がる。それでも抱き締めたい、だから腕が上がって。
 何度もそれを繰り返した。
 自分に性欲を向ける男と密室で二人っきりでいる、という認識が欠片もない清子は調理を順調に続けていた。ソバを茹でおえ水で冷まして水気を切る。衣を付けたエビを油に入れ、焦がさず生でもなく揚げる。ネギを切って刻む。大根をくり抜き唐辛子を入れそのままおろす。ソバ本体は秋新が出ていたので丁度いいと買った。せいろにソバを五つ山盛り、一つは普通に。エビは三本ずつ皿に。清子はつゆを一からなど作れない、出来合いのものを。
「うーん、まあこんなもんかなー」
 ソファに座っているだろう大食漢に、出来ましたよと言うため振り向いた。そしたらすぐ近くにいた。
 見上げて言う。
「? 出来ましたよ、座って下さい」
 忠弘はすぐに腕を下ろしたので、清子はまさか自分が一秒後には抱き締められる予定であったことなど分からなかった。
「……うん」
 忠弘は言われた通りソファへ向かった。清子は思う、食事をテーブルに並べようという習慣さえ、忠弘にはないのだと。
 目の前で、猛スピードで大盛りせいろをガツガツ空けるいつもの光景を見ながら、味わって食べた。実にいいエビだ、背わたを取るなど久々だったが上手く行った。よしよし。
 清子もせいろを一枚追加して食べる。エビは一ダース十二尾を揚げた。盛っていなかった残りのソバと共に予想通りすっからかん。この家で残飯が出ることはないだろう。いいことだ。
 食べおわって、食器を片付ける。せっせと洗って拭いて、指輪を拭いて、のんびり昼寝をしよう。
 その後ろには、忠弘がいた。
 目の前の、惚れた女は愛しげに、贈った指輪を丁寧に拭いている。それは結婚を約束するもの。それを愛しげに。大事そうに。
 気が付けば両腕を清子の腰に回していた。ゆっくり優しく。抱き寄せて、清子の髪を自分のほほで撫でた。
 驚かれなかった。拒否されなかった。だからこうした。髪にキスを。そういう身長差だから。
 止まらなかった。耳にキスを。髪をかき分け、舌を差し入れ。
「……ン」
 惚れた女のこんな声を聞いて止まる男はいない。完全に興奮して来た。息が荒くなる。耳元で、確実に聞こえただろうに清子は無抵抗。
 もう止まらなかった。ほっぺにキスを。すべすべだった。抵抗されない、今度は舌付き、ねっとりと。右側をやったので、次は左側。たまらなかった。清子のほっぺに手を添え、こっちに向かせてくちびるへキス。ゆっくりなど、優しくなど最初だけ。
「……ン」
 漏れるくぐもった声。気をよくして、幾度も角度を変える。上から、下から、横から。歯をなぞり、想いのままに舌を熱く搦め、唾液を飲ませて。
 清子ののどが鳴った。飲んでくれた……
 空いた手が無意識に清子の胸へ。揉むと、ブラをしているようだ。もどかしくて、服の上から強引にブラをずり上げる。揉んだが、服の上だ。もどかしくて、両手で触れたくて舌を一旦解き、上衣を下からめくってナマで触れた。
「あ……!」
 ゆっくり優しく、そう想ったのもこの声を聞くまで。興奮は止まらなかった。想いのままに激しく揉む。乳首を弄って。
「ん……あ、あ……」
 両手で乳房を揉みしだく。
「さぁや……」
 ハァ、ハァ……
「さぁや、さぁや、言って……好きって言って、想っていることをそのまま言って……」
 ハァ、ハァ……
 二人の荒い息が充満する。
「今、想っていること……されたいこと、そのまま言って……」
 この感触、もう喪いたくない。離したくない。
 清子の美乳をあらん限り揉みしだく。
「さぁや、……好きだ、さぁやもだろ……」
「ん……あ……」
「さぁや、好きだ、もう、俺……」
 止まらなかった。怒張したそれ、一瞬でも早く清子に挿れたい。だから名残惜しくも片手の乳房を離して、スカートをめくって片手をショーツの中に突っ込んだ。
「ア!」
 しげみの感触を確かめて、その奥に触れる。
 温かい……
「さぁや……濡れている……」
「ん……ぁ……あ……」
 忠弘は、言ってくれなきゃ挿れるわけにはいかないと想って、濡れる花びらと入り口あたりに指を往復させようと想った。
 ちゅく、ちゅく、水音がする。
「んッ、あ、あ、あ!!」
 清子の腰がひくつく。ココが感じるらしかった。クリを濡れた指ではさむ行為を繰り返すと、清子のあごが上がった。
「あ、あッあッあッあッ!」
 その喘ぎ声、イく寸前。ガタガタ、腰が妖しく蠢く。
「さぁや、凄い……イって、イって、いいよ……?」
 くちゅくちゅ、じゅぷじゅぷ。秘処を這う二本の指に搦みつく。増える一方の愛液。揉みしだかれる乳房、弄られる乳首。
「挿れたい、挿れたい、挿れたい、さぁや!!」
「ッッーーーーー!!!」
 激しい愛撫、指遣いに、清子はイった。
 ぐったりする惚れた女が身を預ける。止まる男はいない。衣服を扇情的に乱す清子。
 一旦指と手を離し、抱き締めて清子の足を浮かせた。まるで荷物を運ぶように。ロマンティックにお姫様抱っこで、なんて発想はなかった。ただ運びたかった、寝室へ。においがする、惚れた女と自分のそれ。お日様のにおい、地上のかおり。
 ベッドに横たえると、イって扇情的な清子の服を脱がせた。上衣をはぎ取るとずり上がったブラ、まだらな色の乳房、充血した乳首。仰向けなのに形がお椀型、最初に見た時から扇情的な美乳。
 たまらなくてスカートも脱がせた。ショーツが濡れていた。
 たまらなくてショーツも脱がせた。つがいの鎖とタグだけの、初めて見る白い裸体。喉が鳴る。
 忠弘も手早く脱いで、清子の脚を広げてそこに位置取った。
 熱く潤んでいるソコ。まじまじと視姦した。喉が鳴る。犯したい、たまらなく犯したい。
 清子が目を覚ました時、未来の夫にクンニされていた。
「ア、ッあ!!」
 これが快楽。された処から、もっと奥から体中を支配する熱。
 愛情、これがそう。
 二度の男性経験など、なにもかもが吹き飛んだ。これが快楽、本物の。
 前された時は、怒りの雄にただ犯されただけ。
 でも今は、……いとしい……
「さぁや、さぁや……言って、イって?」
 ぢゅぷん……ちゅぶっ……
「ンッッ・あっあっあっあっ!」
「好きなんだろ俺を……知っているからな……言って、その通り言って……」
 熱い舌が、でも中には挿って来ない。もどかしげに。清子の一番の手料理をただ舐める。ベロリ、……その度、ひと舐めごとに互い、快楽が脳天を突き抜ける。
「好きって……ただ言ってくれればいい、言ってくれれば……」
 甘い囁き。耳元でなく、快楽の根源からする。
「んッんッんッんッ……」
「そんな悩ましい声を出して……もっと啼いて、さぁや……」
 舌を一旦離し、さっきのように指を這わせた。じゅくじゅく、じゅくじゅく花びらを弄って。舌とくちびるはしげみを愛しげに。腹部をベロリ、乳房……乳首。吸って、甘く噛んで、両方、言ってイってと言いながら。外させないタグ、打刻面に満足して、鎖骨も首元もベロリ。あごからくちびるへ。
 一向に、ほんの刹那だけの距離も縮めてくれなかったソレ、自分から行く。元から境はない。
 啼きまくる女の上唇と下唇に、同じモノで触れて。
「言って……」
 言えば諸共、なにもかも奪って、モノにして手に入れる。
 舌を入れず、くちびるだけ合わせて。直近などとうにもどかし過ぎた。
「イって……さぁや……言って、好きって言って……」
 触れ合うソコから、欲した性の声が響く。喘いで蠢くソレに動きを合わせて。
「好きだ、さぁや、好きだよ……言って、さぁやもイって……」
 指はぐちゅぐちゅとあらん限り花びらとクリを。感じるソコ、触れられるだけでもう。
 くちびるを触れ合わせたまま、指と手が今度は乳房へ。熱い大きな手であらん限り揉みしだく。手のひらで乳首を弄る。揉む、乳首を指で愛しくつまんで。ぐちゅぐちゅに変形させる、どちらも両方。
「言って……」
 イってくれないなら飲み下す。貪欲に、なにもかも全て。そう言わんばかりに深く、猛々しく貪る。触れ合うだけのくちびるを激しく重ね、蠢く舌を突き挿れ、歯列も奥の舌も搦めとり、嬲り、吸い尽くす。
 互いに息も絶え絶えに。何分もそうして、音を聞こえるように立てて離すと、銀色の糸がダラリ、互いを繋いだ。
 くちびるを、舌を乳首に移す。唾液を途中に垂らし、舌でべっとり残しながら。ちゅく、ちゅっ。音も残して。よく聞こえるように。激しく鼓動する心臓ごと、くちびるを大きく開けてむしゃぶりつき、ゆっくり口をすぼめて乳首を攻める。両方、愛しげに、もどかしげに、熱く、猛々しく。
 何度イったか、清子にはもう分からない。数える意味もない。
 なのにその後も体位を変えられ、尻は突き上げさせられるは、その四つん這いの体勢で後ろから舐め上げられるわ、尻の割れ目まで、背中にもありったけ舌が這い、指も這い、乳房のように尻も揉まれ……
 気付くと、横向きになって寝ていた。
「……?」
 少なくとも寝室には、未来の夫がいなかった。
 自身を確認する。鎖の真っ裸全てに汗と唾液を纏って。頭にまで汗をかいている。喉が乾いた、シャワーを浴びたい……
 挿れられてはいないのに。叫びそうになった、挿れてと。体の奥がひくついていた、体が叫んでいる、挿れてと。奥まで突いてと。
 今忠弘がここにいたら、言ってしまったかもしれない。想ったことを、その通りに。
 裸のまま寝室を出ると、いなかった。あれだけ独りでいたくなさそうなのに。
 首をひねって風呂場へ。シャワーを浴びる。
 乳房を見ると、やはり残る愛撫の跡。それはそれは激しくて……
 熱い舌、大きな手、指の感触が全身に、殊に、ひくつくソコにありありと残っている。脚をあんな恥ずかしく開けられて。
 全部見られた……
 後はもう挿れられるだけ。なのに体が叫んでいる、挿れてと。突いてと。二度受け入れた経験があるが、ただ痛かっただけ。なのにもう、全てが違った。快楽だ、確実に。今以上の。
 なにもかも、触れられた箇所、持って行かれた箇所全てが疼く。
 風呂場を出ると、裸の忠弘がいた。
「……」
 その表情。いつもの直近、それよりも更に突き抜けて性欲に濡れていた。今すぐ犯す、そう顔に書いてある。
「挿れてって……顔に書いてあるよ。さぁや」
 その通り過ぎて。せめて口だけでも否定していればよかったのに。
「俺が好きだって……体中でイってるよ。さぁや」
「あ……の」
「初めて会話になったな。……どうした?」
 一見、優しげに……癖の、首を少しかしげて……
「そう……いえば……、おなか、空きました。ご飯、を……」
「ああ……」
 それでも、濡れた瞳は変わらなかった。
「やはり、時計を贈ろう……さぁや、どんなのがいい……?」
 清子は、裸のまま、もう濡れ伝うソコのまま廊下を歩いて、忠弘の脇を通過した。手首を掴まれる? 腰を抱き締められる?
「今まで、どんなのをしていた……?」
 背後の忠弘が言う。
 気を紛らわすため、この状況を理解したくなくて答えた。妙齢の男女が裸で、興奮したまま密室にいるなんて想いたくなくて。
「……昔、中学の頃、……買ったのですが、安物で……すぐに金属が剥げて色が変わって、革もくたびれて電池がなくなって……しなくなりました……」
「じゃあ……電波時計を贈ろう……革ではなく、塗装も剥げない、さぁやに似合う華奢な……」
「マカロニグラタンです、作るので……座って、待っていて下さい」
「そんな悩ましげな背中を俺に見せておいて……挿れるな、とでも?」
 言葉でまでもソコを突かれる。全身舐めるように視姦されている、ひしひしと感じる。
「……ご飯を作るんです。手料理を食べたいっていつも言っているじゃないですか」
「分かった……さぁやの一番の手料理、振る舞って貰おう」
 ソレが、もうふとももを伝っていた。
 今更服を着にも行けず、初めて全裸で調理するはめに。自分に性欲なんてないと、この間まで思っていたのに。
 今日はまだ土曜日だ。これから夜もあるのに。
 一体、どうなってしまうの?
 今更、指一本触れないって言ったじゃないかとも言えず。なぜ抱き締められた時言わなかったのか。あまりに優し過ぎて。寂しさが伝わり過ぎて。振りほどくにはあまりに情に絆されていて。同情していて、内情を聞き過ぎていて。
 自分に心底惚れているのだと、分からされ過ぎて。
 なにより、……もう、
「ァ、ァ、ァ、ァ!!」
 結局こうなってしまう。夕ご飯の後、ソファで襲われた。守る布切れはなにもない鎖だけの全裸、当然の結末。
 あられもない格好で。脚を広げさせられ、ひくつくソコに舌が這う。一番の手料理を堪能させてしまっている。
 あらん限り愛撫された。何度も、何度もイかされた。何度も、何度も言われた、好きと言って、忠弘と呼んで、愛していると言って、結婚すると言って。
 もう、応えてしまいたかった。
 翌日曜日はもっと激しくなった。興奮はお互い止めようもなく。
「さぁや……して」
 寝室で。汗ばむお互い、イかせイかされ尽くして。忠弘はベッドの上に座って脚を広げる。その中心に屹立するのが、清子の欲しがっている怒張。
 熱い大きな手が頭の後ろに。かき寄せられ、ソレを目の前にさせられた。
「もういい加減……俺の手で抜くのは飽きた。して、さぁや……」
 なにをしてなど、分からないイヴな女はいない。したことはないが、させられた。口に含んで。
「ン……いい……さぁや、歯を立てないで……扱いて、そう、両手で……」
 頭を掴まれ動かされ、前後に激しく含まされる。怒張したそれが、のどの奥まで達する。口がすぼまされていた。あごが外れるほど前後させられる。
「筋、裏、……タマ……も舐めて……」
 言われた、通りに……
「うん、そう、もう一度上から、かぷっと……美味いだろ……これが、俺の作れる唯一の手料理だ……飲んで……」
 言われた通り、ねばつくそれがのどの奥に直撃した。飲むしかなかった。
 午後三時を過ぎていたらしい時刻には、忠弘はもうタガが外れていたらしく、言われなきゃ挿れない、という自分に課した枷を外し始めた。指を突っ込んだのだ。
「!? ……ん・アぁああああッッッッ!!」
 あまりにいきなり過ぎて、舌より硬くて奥に届いて、いよいよ挿れられたのかと想った。強引さ、激しさに瞬間、イってしまう。
「まだだ……指だよさぁや」
 言うくちびるは触れ続けて。イってイってと、そして貪り尽くす。繋がる銀の糸、二人の手料理。
 忠弘は、初めての清子の中の感触を味わいたくて、届く限り、複雑な内部を抉りかき回す。中で、ぶじゅぶじゅっという水音がした。愛液がしぶきを上げて周囲に飛び散る。びちょびちょの内もも、割れ目、しげみ。
 清子の体は忠弘の指の動き通り激しく律動させられた。腰が、自分一人では絶対しない動きをし続ける。
「これがさぁやの膣……熱いよ、そう締め付けないで……」
 びくンびくン跳ねる清子の動きをくちびるで追い掛ける。可能な限り奥へと想って、激しく指を出し挿れする。奥へ達した指と手のひらで、中としげみを握りしめ押さえつける。痛いほどぎゅっと握る。毛がこすれた。
「ぁー、ぁー、ぁー!!」
 ただイかされるだけでは到底済まなかった。飲まされたソレと同じく意識は白濁、何度も飛び、なのにその度目覚めさせられ、与えられ続ける性の快楽。
「じゅっぶじゅぶに出てる、さぁやの手料理……もったいないな、手が邪魔だ、ちょっと抜くよ……」
 指を引っこ抜かれて舐め上げられる。代わりに、さっきまで貪られたくちびるが。唾液をべっとり残されて。
 挿れられてしまった、もう我慢出来ない。もっと、もっと奥に。突いて、突いて、壊して。
 二人の唾液まみれの口で叫びたい。
 愛液だらけの指、手が激しく乳房を。くちびるで、舌で貪る。甘く噛む。
「もっと奥に届く、硬くてでかいモノがある……欲しいだろ……さっきまで口に咥えていたやつだよ……欲しいだろ……」
 何度も、何度も頷きかけた。イかされた回数と同じ分。
 ハァ、ハア、ハア!
 再び指がソコに。もう一本追加されて。まるで本番に備えるかのように、中を広げられる。
 どうして一線を越えようとしなかったのか。それは分からない。毎日重ねるくちびるのように。
 もう、なにもかも、もう。
「言っておくが、ゴムなどしない……奥に生で射精す……」
 ハァ! ハア! ハア!
「さぁや、生理いつ……いくら俺でも……その日はしない、フェラはして……」
 ハァッ! ハアッ! ハアッ!
 風呂場でも指を突っ込まれた。前から後ろから同時に一本ずつ、容赦なく。あまりの突き上げる力に清子の足が浮いた。熱いシャワーを共に浴び、流すそばから汗が吹き出る。一番の手料理が湯と混ざって流れ落ちる。それと共に唾液を飲まされた。深く、猛々しくキスされ続け。
 汗か湯かも分からない、体にまとわりつく液体も拭かず、清子を寝室に戻す忠弘。ベッドに投げ出して、仰向けにして、ふとももの内側をがっしり抑えて脚を開かせ、濡れそぼる清子の中心にむしゃぶりついた。指を挿れたのだ、舌も当然と想って容赦なく突っ込む。ざらつく卑猥な動きのソレが、むずがゆさまで伴って侵入して来る。忠弘の濡れた髪を押さえつけるように両手で包む。
「さぁや……さぁや……どうして言ってくれない? 俺を好きなくせに……」
 清子の唾液と愛液で口の周りもべとべとにしながら囁く忠弘。
「でなきゃこんなに溢れないだろ……」
 舌をしげみとクリに移し、中指を突っ込む。いたずらにかき回して。
「イって……俺がどれだけ待ってるか、知ってるだろ……」
 ぷっくり膨らむクリをくちびるで挟んで。愛しげに、もどかしげに舐め上げ吸い尽くす。
「言わなきゃ……もっとひどくする……」
 喘ぎ声はずっと、ずっと脳天から出ていた。間断なく、激しい動き通りに。ずっと叫ばされた。
「分かっている。さぁやは力で行くと怒るもんな……機嫌、損ねたくない……」
 もう、こんなに腰をガクガク律動させられるのには疲れ果てた。今すぐ泥のように眠りたい。なにもしたくない。
 なのにどうして突っ込まれた奥から熱く溢れ出るのだろう、もっと突いてという想いが。
 もっとキスして、もっと揉んで、犯して、壊して、ぐちゃぐちゃにして……
「言って……イくみたいに、想った通りに……」
 ずっと背中が弓なりなど、体の負担にしかならないのに。止まらないこんな声を出し続けるなど、意識を失ったままでいたいとしか想えない筈なのに。
 もう駄目、もう駄目、もう……
「うん、そう、そのまま……」
 そのまま、朝まで……。