政人と麻衣子共通の友人が、亡くなったと知らせのあった日のこと。

Masato vs. Tatsuya

 胸ぐらを掴み合う。今村の男二人が睨み合う。殺気、いや殺意、それだけ。血を分けた二人。
 麻衣子はそんなもの、見るに耐えなかった。背を向け、身を丸め、ただ泣き続ける。
「……止めよう親父。お袋が泣いている」
 手を解いたのは竜也の方だった。
「言っただろう。お袋が哀しむ時だけ、どこにいようと分かる。心臓が痛いんだよ。どれだけ痛いと思っているんだ、出産並みだぞ。
 悪かったお袋。もう喧嘩はしない。親父、あとを頼む。じゃ」
 竜也は部屋を出て行った。
 政人は麻衣子に向かって、鍛え抜かれた足取りで向かう。
「……いや、いや、来ないで……」
 極上の和服を身に纏う麻衣子が体を震わせている。
「いや……」
 政人は麻衣子を抱き上げた。すぐに首に腕を回される。すぐにだいすきと……
「済まん、麻衣。もうしない」
「……だいっきらい、だいっきらい、だいっきらい……」
「聞きたくなくても聞け。俺達男には、闘争本能がある。
 憎くなくても戦える。戦うことに歓びを覚える。どちらが強いか、ただそれだけだ。それだけ鍛えられた、だから」
「ききたくない……」
「分かった。もうしない。済まん」
「たつやにあやまって……」
「分かった。後で頭を下げに行く」

 麻衣子に言われた通り、事前に行くと言っておいて政人は離れにやって来た。竜也は一人で待っていた。
「ちゃんと頭を下げろよな」
「誰が顔面べろちゅーまでしろと言った」
 竜也が吹き出した。
「……親父、そのキャラでべろちゅー言うなよ……」
 くっくっくと笑う竜也。
「にしてもバレたか。さすが」
「俺以外の体液が残っていた、当たり前だ」
「だから。俺とお袋は繋がっているんだ。血よりも濃く。セックスなんか目じゃないくらいひとつに」
 またしても政人は我が子を睨みつける。
「泣いたから抱き締めて、慰めてやった。それだけだよ。殺意剥き出して来るなよな、血が繋がっているのにさ」
 政人はあぐらで座った。
「息子でなければ殺している」
「俺自体はどうでもいい、殺してもいいが、そうすればお袋はまた腹を痛めなくてはならない。だから俺を殺せない」
「知った風なことを言うな」
「これ以上は、誰が死んだのは言わない方がいいぜ。その都度哀しむ。俺は心臓が痛い、毎度死にそうだ。もうそういう歳なんだ。寿命は長いようだから、後は俺に任せて、お袋のそばにいてやれよ。もう、名誉欲なんてないだろう?」
「ない」
「お袋このことだ、俺に会いたいと言っては来るだろうから、その時は応じる。それでいいだろう?」
 政人は言葉では応じなかった。さっさと部屋を出て行く。
「あちゃあ、頭を下げさせるの忘れた。
 まあ、いいか……」