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 あまりに勝負がつかず、二人は遂に三回目の十八ホールへ突入した。

本日のお題「たまにはいいことを言いましょう。無論当人のいない所で」

「そんなにドジどじ言うならば」
「なんだ」
 決着がつかない場合を想定して、どこのゴルフ場でも最終ホールには個性的な仕掛けを施してある。ここはグリーン手前の大きな池がチャーム・ポイント。
「夫人が家宝を割ったとしたら? 先祖代々のだ。俺にはないが、お前の家にはゴロゴロあるんだろ。怒らないでいられるか? 一子相伝だの、そういうものを壊されたとしたら」
「構わん」
 池を楽々越えられるようには造らない。果敢に攻めてギリギリ、もしくは刻んで手堅く。どちらか一方、そういう選択を必ずさせる。プロとして、前者で褒められるか。後者で実を取るか。
 たった一打で数千万円の差が出る。僅かしかない時間の中で判断を下す。なによりも、ギャラリーはそこを観る。
「……随分即答してくれるな。だったら、例えばだぞ。俺がさぁやの大切にしているあのコップを割ったとする。
 ……まず数ヶ月は家に入れて貰えない……怖くなって来た……」
「自分で例えて自分でビビるな。俺は物には拘らん。そういう物は全くない」
 怪我をされる方が重大だ、とゴルフ相手は述べ、バフィーを選択した。
 ゆっくり振り上げゆっくり振りおろす。そのスピードは男子の方がやはり速い。女子と違い、見た目はゆっくりには思えないが、上げるもおろすも同じスピードでフルスイング。ただ前を見たその先の白球は、美しい緑の上を転々として止まった。
「いつもお前の言っていることは分からんが」
 二人とも、今度こそ勝負を決めるため、てくてく歩く。仕掛けが池ポチャである以上、グリーンでの仕掛けはほとんどない。せいぜいカップと池がきわめていやらしく近い程度だ。
「今日は特に分からん」
「なにがだ」
「今この瞬間に」
 暑さの過ぎた秋ゴルフは気持ちがいい。それと同時に、風はもうすぐやって来るシーズン終了を感じさせる。ゴルフ場が混み出すのはこれからだ。
「大災害が起きたとする。そんな時、生死以外を考えるか」
「……」
「お前とてそうだったんだろう」
「……そうだ」
 グリーンに到着。さっきと同じで、カップまでの距離は両者ともほぼ一緒。仕掛けは池ポチャ、だからあまり傾斜がない。グリーン奥にしかボールを置けない。いい天気、風も芝も乾いている。必然的に高速グリーンとなる。奥から打つ、下り。ただでさえそうなのに、力の伝え方を間違えればどこまで転がり落ちるか分からない。
「……だがな」
「なんだ」
 先に打つ。
「さぁやのコップを割ったら捨てられる……」
 相手は答えなかった。「そりゃそうだ」と思ったので。