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 今日もゴルフ談義に花が咲く。相手は誰でしょう。

「女性の長い買い物には辟易する。というのが、世の野郎の嘆きだが」
 グリーンを外してしまったのでリカバリーショットを。ラフを切るように肘を抜く。
「さぁやがより美しくなるんだぞ。時間を掛けるのがそんなに悪いことなのか?」
 ボールは予定通り、グリーンの少し盛り上がった所に当たり、予定通りのランが出てピンそばに。

本日のお題「愛しいあんちくしょうを男目線で語ろう。ただし当人のいない所で」

「男同士の付き合いもそこそこに、早々に帰宅を強いられる。会社の用で女性と会ったのに、逐一報告を強いられる」
 片やでかいグリーンの手前にボールが止まっている。今日のピンの位置は奥。距離は約十メートル。スリーパットは避けたい。
「こうしていることもそうだが」
 強めに打った。ピンを通り越す勢いで。
「野郎同士で付き合ってなにが楽しい。兄さんが定期的に回れと言い出さなきゃ、今頃俺は愛の巣でさぁやに脱がされてイかされているんだ。なにが悲しくてむさい野郎となど」
「男なら脱がせてイかせてだろうが」
「女性も美女も美人もさぁやのことだ。それ以外と会った憶えはない」
 聞いちゃいない。
「それについては珍しく同感だ」
「以前、最中にそれらしき話をしたら怒られた。以来俺は怯えている。もっとも連れ込んで以来、ビクビク怯えっぱなしだ」
 アプローチショットをした方が遠い位置だったので、先に。距離は約一メートル。外すと恥ずかしい。
「自慢気に言うな」
「気じゃなくて自慢だ。さぁやは怖いんだぞ。言い直せ」
 いい音がして、カップに吸い込まれた。続いての音も同じく。
「……ではお前は、細君が障りの期間中、エロサイトだの本だのなんだので」
「何故そんな地獄行きの愚かな行為を自らしなければならない。それともそっちはまさか、コソコソ見ては独り抜いたりするのか?」
「誰が」
 次のショートホールまで野郎二人、一見仲良く歩いて行く。
「風俗くらいには行っただろう」
「……いやな過去を思い出させるな。連れて行かれただけだ。それでもさぁやに言ったら捨てられた……」
「待て、まず言うな。それと、あの細君がお前を捨てるわけがなかろう。なにかっちゃ捨てられるだなお前は。どうせ相手にもされなくて、優しくコーヒーを淹れられたんだろう」
「……何故分かる。やはり盗撮していたのか」
「待て、やはりとはなんだ。誰がそんな犯罪行為をするか。人をなんだと思っている」
「クソ野郎」
 その野郎が今度は先に打った。五番アイアン。いい位置に付ける。こうなると、次に打つ者にとってはプレッシャーだ。
「……俺とて多少恩のある大先輩に一緒に回れなど言われなければ、こんな惚気など聞かず、今頃ま」
 聞いちゃいない。
「今日は俺のノロケを聞く約束だぞ。そっちこそなにかっちゃ夫人の話をしたがりやがって。今回は俺の番だ」
 つまりは前回、クソ野郎の夫人の話を散々聞かされ、曰くのところの“捨てられた”状態にされたらしい。
「……お前は珍しく勝つと意気揚々と次の予約を平日に入れるな……」
「待て、間違いが多々だ。珍しくじゃない、俺の方が多い。意気揚々とはなんだ、仕事の一環だ。大体平日以外に誰が働くか。もっともさぁやは仕事の出来る……」
 そこで言葉を濁した。
「細君は仕事の出来る美男子がお好みだったな。つまりは俺」
 聞かず五番アイアンを振り切った。ナイスショットは手応えというものがない。へたなショットはへたすりゃ手の皮が剥ける程手に衝撃が残る。
「俺に先に会っていたら」
「意味のない仮定だ。どうせ短期で飽きて捨てるんだろ。さぁやはな、そういう貴様みたいな男が大嫌いなんだ!」
 ぷんぷん怒ってゴルフバッグを担ぐ。
「大嫌いと散々言われたクチ、だったな」
 ピクンと反応した。
「お前こそが理想の男なんだろう? なのに何故だ?」
「……貴様こそ夫人から大嫌いと散々言われているそうじゃないか」
「単にスキンシップの一環だ。大好きと同意義だ、俺の家ではな。お前の所は違うようだが」
 急な坂をおりて、そこだけが平らなグリーンへ向かう。ボールの位置は二人ほぼ一緒。
「どうせあれだろう。“なんとなく”“勢いで”“これから先、これ以上の出会いがあるかどうか自信がなかった”」
「なんのことだ」
 L字のパターを取り出す。遠い方が先に打つ。
「夫人が貴様との結婚を決めた理由」
 クソ野郎の返答はなかった。
「図星だな。そうだと確信していたぞ。今でも世慣れなさそうだ、学校を出たてならさぞ……全く不幸だな。何度泣かせた?」
 ボールがカップに吸い込まれる。いい音がする。
「なにを自慢したいのか知らんが、結果今でも泣かせているだろう。……まあ、もっとも」
 どうしてここまで言っているのか。理由は、知らなかったかもしれない。
「俺もさぁやを泣かせた。散々責めて……もういいと何度言っても、初夜に詰問しちまったからな。もっと心の広い男になりたかった」
 相手もいい音をさせた。そして、ぽつりと言った。
「参考までに。何故責めた。そういう要素のある女性とは思えなかったが」
 また次のホールへと歩く。今度はパー4。
「大嫌いと言ってしまったこと」
「大好きの裏返しだ。とは思えなかったのか」
 詰問ではなかった。
「思おうとしたが、出来なかった。参考までに」
 少し風が出て来た。
「言われるまではそれもまたよしと平然としていられたが、実際は突き刺さった。無駄に歳を喰っていたので、腐る程あった経験値で表面上はやり過ごした。……他言しないでくれ」
「それからは?」
 こういうことは無言を通すとやりづらいので即座に返した。
「キスしてくれた。初めてだった。天にも昇る気持ちだった。初夜以上だった」
 ドライバーを手に。
「そっちだって尻に敷かれているじゃないか」
「それだけでは済まん。翻弄されている、も追加しろ」
「なにを自慢しているのか分かっているのかこの野郎は……」