1

 ここは都内某ゴルフ場。その中の、会員専用更衣室で、忠弘はモソモソ着替えていた。
 室内にはもう一人いた。忠弘にとっては雲の上の更に上の上司にあたる。しかしながらこの二人、互いの肩書きを気にする発想は微塵もなく、無駄に張り合ってばかりいた。
 ともに自慢のスーツを脱ぐ。
「……おい」
「なんだ」
 さっさと毛糸のぱんつ一丁になる忠弘。
「さすがに言わせて貰う」
 この人物は即断実行が身上で、基本的には迷う、ということがない。
「なにをだ」
 要するに、忠弘のぱんつにあきれていた。

本日のお題「早く帰って逢いたい人物を男目線で語ろう。ただし当人のいない所で」

 お互い野郎なので、間違っても顔をじっと見つめて会話はしないし、まして下着など気にしないし見たくない。しかし視界には入る。これが大人しく普通のブリーフとかだったら認識もしないのに。
 忠弘はさっさとゴルフウェアに着替えた。落ち着いた色の、落ち着いたデザイン。
 男として、昔よくあった「接待でヘタクソなゴルフを披露し拍手を要求するエロ社長」風にだけは、決してなってはならない。かといって、かの王子が華麗に着こなす真っ赤やピンクのウェアはさすがに無理だ。所帯持ち、テレビに映るわけでなし、渋くキメた。
「さっさと着替えろ。なにが悲しくて野郎とツーサムで回らにゃならん」
 プロの試合では三人一組で回る。一般人の場合は四人一組で回る。二人一組で回るのがツーサム。
 ゴルフ場としては、一日により多くの客を入れれば、それだけ売り上げが上がる。だから、回転率を上げる為、前と後ろの組との間隔を、わずか七分しか取らない。
 ツーサムは、料金を割高にしたところで四人組の合計金額よりは少ないし、七分間隔でスタートするのは同じなので、ゴルフ場にとっては損だ。最低でも三人一組でなければ受け付けない所だってある。
「俺の台詞だ。なにが悲しくて得意先でもない野郎となど」
 同じ会社の者同士が、平日の真っ昼間から男二人でゴルフ。
「だから兄さんと回れと言ったんだ。会長同士だろ」
 ゴルフシューズを履き、二人は更衣室を出た。
「その会長から、弟と一緒に回らなければどうの、と脅迫されている。よくも愛しの弟夫婦を狭い共同マンションに監禁し続けて、だの、薄給で重労働させて、だの、いい加減父親の元に帰せだの散々だ。対処しろ」
「俺は単なる非公式の息子だ」
 クラブハウスを出る。日差しが眩しい。快晴だ。
 緑も眩しい。たとえそれが人工的に造られたものだとしても、都心に住んでいれば尚更、太陽とよく合う色だと再認識出来る。
 二人は一番ホールのティーグラウンド、フルバックに立った。男子プロツアー用に作られ、前述の社長などは絶対足を踏み入れない、目的地から最も遠く距離があるエリア。
 年下の忠弘が最初に打つ。ティーを刺し、ボールを置き、素振りを一回。構えて打つ。
 手応えの全くない快音が響き、ボールは高い弾道を描いた。
 忠弘は白球の行方を見定めてから、後ろに飛んだティーを拾ってすぐその場を退いた。相手も同様に打つ。
 ゴルフバッグを肩に、二人で三〇〇ヤードを歩く。
「ところでその、毛糸のぱんつはなんだ」
 カートもキャディーもなし。原始的にてくてく、高麗芝の上を行く。
「さぁやが俺に、心を込めて編んで贈ってくれた物だ。誕生日プレゼントだぞ。いいだろ」
「全てにツッコもう。細君からだとは分かっていた。心がこもっていたのも分かる。お前以外には贈らんだろう。だが誕生日? いい歳した大の男が毛糸か」
「歳がどうした。さぁやはな、妻が脱がせて上・げ・る、と言って穿かせてくれるんだぞ。俺は毎日毎晩さぁやに脱がされしゃぶられイかされるんだ。羨ましいだろ」
「真面目にゴルフでもするか……」
 でなきゃやってられん、と、相手は呟き七番アイアンを取り出した。