blog/106

Fri, 7 Apr 2006

5.生かすこと。殺すこと。

more...

 哲也は言った。同じ口調で。
 どんな罪でも、死ねば贖ったことになる。と開き直れる。罪を裁ける人間は知っての通り墓の下。代わって怨みを一身に集める自分へはどうせサシで攻撃などしない。関連する犠牲の子羊を目敏く見つけてそいつだけを翳でコソコソ何年も追い回すことだろう。
 第一印象は朗らか野郎だった。だから会ったその日に酒盛りをした。もし、本性がああだと知っていたなら酒を酌み交わすなどしなかった。その上呼び付けられ、あまつ個人情報を引き出された。逆襲には一年を要した。
 哲也をしてこうだった。俺は? 隣に体よく座らされ、せせら笑われる格好の餌食にさせられちまった。哲也の盾もあって撥ね退けたが、そういう立場にさせられたこと自体は変わらねえ。それに、俺にしたって第一印象は朗らか野郎だった。
「知治は、成とは中二で部活の、空手関連の話で、って言ったよな。部活関連ならそいつは成の近辺にいた筈だ。そっちとは話をしなかった?」
 なる程……アタマ熔け話にも程があるが……重要なことだ。
「いや、しなかった」
「相棒がいることは知っていた?」
「そんくらいは……」
「その時下世話な噂をした?」
「しなかった。空手だけで。あっちから、知っているぞ、同じ段だな、とか」
 アタマがいいことは知っていたが、成績自慢するヤツじゃねえしそういう話はしたかねえ。ただ、市も違う俺を知っているのには驚いた。そりゃあ、あの近辺であの段をあの歳に取れたヤツといえば、名前を出すのも懐かしいがイトコに俺、相棒二人だけだったが。
「相棒と最初に会話をしたのは?」
「高一の、体育とかで……ほんでもありゃホレ、F組はE組と断絶だっただろ」
 哲也もそれは知っている。あれは会話というより、いい加減な相槌程度だ。
「はっきりとは?」
「はっきりか。それなら高二、あの教室でだ。それも哲也聞いているんじゃねえのかな、よっ、サッカー部! って朗らかに……一見」
「それが第一印象?」
「ああ」
「本性を知ったのは?」
「……三対一が最初、……っつうか何となく。まさかそこまで、と思って……やることやっていると思ったし……」
「確信を持てたのは?」
「宿で……雪の日」
 ……何てこった! 十年掛かっている!!
「追い出せたから、呼べたんだ」
「!!」
 ちと待てよ、体よく利用したと言った公僕の部下、ハラを割った会話をしたのも……十年後!
「根性直してくれたら、別にカンケーなかったけど。ラストチャンスでもああだった。俺のシマに居座らせる気は毛頭なくなった」
 ……なんて、なんて……、
 哲也の役目は本来別人物が務めるものだと、管内の人間なら誰でも思った葬式にすら来なかった。
“坂崎が殺す──お前に手を出すのなら”
「言ってくれ哲也。必要だ。間違いなく引くだろうが必要だ、これからの為に。多分そいつは……哲也の並み居る敵に較べりゃチンケなもんなんだろ?」
「そ」
 本気だ。
「なら言ってくれ。哲也。
 ……遼太郎はどう死んだ?」
「見ていないんだ」

...next

Powered by Movable Type