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Fri, 7 Apr 2006

4.距離がなくなるまで。

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 この抱き方。
 はっきり想い出した、呼ばれた時、あの時と同じだ。どうしてもその必要があって抱き締めた時の、護るような抱擁。
 俺はその必要がある話まで、ゆうるりと思い出していた。知らず、もうカラダが止まっていた。
「どういうキッカケで誰がいつのことをどんだけ想い出すかは分かんない……」
「ああ」
「どういう外見、性別、年齢に生まれつくかも分かんない……」
「ああ」
 菩薩さんのような抱擁。こういう時は。
 よく聞け、これはアタマ熔け話だ。とても重要な。
「バレたらヤバいんだ……」
「ああ」
 よく、よく聞け。これは警鐘だ。あの時のような。
“三対一──”
「俺が前のような力を手にする為には、どんなに早くとも大学を出るまで掛かる……」
「分かった」
 それまで、どんなことがあったって。
 こりゃクラスが同じじゃねえ方がいい?
「俺の眸からは……知治が想い出してくれたかどうかは分かんなかった……そんでいい……知治、誰と会っても……想い出した、想い出していると悟られないで」
「分かった」
 命令でもない。お願いでもない。諌めでもない。忠告でもない。
 絶対の約束。
「ほんでも、思い出したヤツは分かるかも知んない……なにせ名前がこうだから」
「ああ、そうだ……」
 かなり劇的な、スッゲいい名前なんだが……そういうふうに考えりゃむしろ……ヤベえ名前だ。
「そういうヤツは……アタマが回るヤツこそ……自分も思い出しているとは悟らせない……だから誰にも気を許さないで」
「ああ」
 アキの言葉が甦る。油断し過ぎだよ……。
「これからも……前の時みたくな、永久保証なんてない……あの時のような感覚でいちゃ駄目……誰も護っていない、トモ、離れに住めるようになるまで油断しないで……」
「分かった。絶対そうする」
 嫌な、嫌な話の向きになっていた。最大値更新どころじゃねえ……。
「俺には敵が多かった……手を出されない程の力を持ててから、知治を毎週離れに呼べた……あの時の感覚じゃ駄目だ……」
 よく、よく頷いた。そう、俺にはその感覚が残っている。
「フツーのカオして近づいて来るヤツに油断しないで……」
「分かった。哲也、なあ、学校であんま、っつうか学校じゃずっと完全無視の方がいいのか」
「同じクラスである限り、ハッキリわざとは……」
「……だな。こりゃ二・三年は別な方がいいか……」
「同じ方がいい……」
「なんで」
「そういうヤツは……俺じゃなくて知治の方を陥れようとする……」
“三対一──”
「だから監視する……なるべく教室内にいて……ほんで俺を無視して……」
「分かった」
「検閲じゃないけど……話し掛けて来たヤツ、思わず話していた状況になっていて、結果探りを入れられていた、そんなヤツがいたら……教えて」
「分かった」
「……いた?」
「いや、いねえ。まだ」
 とはいえ、この内容じゃ疑えばキリがねえ……。
「この件についてだけでいい……疑心暗鬼になったら思う壺……」
「そうだな。……どういう奴の思う壺だ。誰を想定している……」
 敵にと。
「知治が知っている例では……」
 哲也だけの例ならとんでもねえ数、ってか。
「三対一で……リンチ掛けた奴」
 やっぱ、か……。

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