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Fri, 7 Apr 2006

2.声まで同じ。嬉しい。

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 そいつはすぐに視線を外し、教室に二つある扉のうち、後ろの方から出て行った。追わなかった。四限目の授業は、上の空だった。
 脈動し続けるでけえ心音で他の音が掻き消されようと、先生が呼んだそいつの名と終業のベルだけは聞き逃さなかった。昼となって、すぐに教室を飛び出した。後ろ扉から。弁当他荷物は忘れねえ。なにせ実に慣れた行動、全くいつものことだ。走って部室へ向かう。野郎だらけの巣窟で、テキトーにメシをガツガツ食って、一番にグラウンドへ飛び出した。ボールに触れる一年坊主は俺だけだが、文句は誰も言わなかった。
 五限目もトーゼン上の空。元々授業を聴く気はなかった。今は特にそうだ。全ての決心がついたから。

 イロイロ考えた。どうやって連絡を取ろう。まさかあの080じゃあんめえ、今じゃ十一桁ですらもねえし。なんか突然タイムスリップした気分だぜ、世の中イロイロ変わったなあ。突然若返った奇妙な気分。スッゲーワクワクして、とても眠れやしねえだろう。こんなんで眠るなんか勿体ねえ。
 秘密の遊び場を作るのは本性みてえで、格好のシケ込み場所をまたしても確保している。しかも今度は誰にも教えていねえと来た。全く丁度いい。ほんでもなあ。シャワーがねえ。痛えの勘弁っつっていたが、フトンなんか一丁もねえ。あの長椅子しかねえか、ボロいんだコレが。
 あいつからの表立ってのコンタクト、派手な行動がねえっつーコトは、やっぱいやがるな現地妻。悪いがさっそくスッパリ別れて貰わにゃ、同じ轍は踏みやしねえ。
 テツ。……名前だけはおんなじなのな、オマケに名字……シャレみてえだ。なんで気付かなかったかな。いつもこうだ。いや、いつもこうだった。
 もう抑えねえ。もう抑えられねえ。

 連絡さえ取れりゃあなあ。下駄箱の靴に紙切れ置こうかな。ああ、ほんでも置くとこ見られたらマズいか。どうすんべ。うーん、うーん。
 そう想ってはいたものの、放課後まで何も出来なかった。あいつもあれ以外、俺へは何のリアクションもなかった。ほんでもあいつから来る。休憩時間全部教室を出ていたし、手癖の悪さも芸のうちだ。そう思っていたら、やっぱあった。下駄箱の革靴内に几帳面な字の小っけえメモ。
“say-tomo@”
 分かってら。
 メモを手に、靴を換える。あいつのところはまだ革靴だ。せいぜい頑張れや愁嘆場。同じクラスかなあ現地妻。それだと面倒だなあ。ほんでもまあ、なんとかなんだろ。
 部室で着替えて、あのアドレスにバンゴだけ返して、マジメに部活小僧を続行だ。なんにしたって一回戦だけは突破しちゃる。

 部活を終え、夜に帰宅。
 今度は、ってのもヘンだが。フツーの一般家庭は変わらず。場所は京じゃねえ、フツーのイナカ。サラリーマン家庭だ。ご時世はあの時みてえだが、ありがてえことにリストラはナシ。俺は一人っ子。家はマンションでもなきゃ一軒家でもねえ、アパートだ。そういやコレがちっと不満だったような気がしたが、こんで丁度いい。どうせ継ぎゃしねえ。
 ちゃんとフロへ入って、メシをガツガツ食って、ひとまず部屋へ。ケータイを開いた。スッゲー高性能なのヘーゼンと使っていた。時代の流れって早えなあ。さって反応は、と。
 向こうからも、バンゴだけだった。
 一瞬、ちっと肩すかし。ほんでも、どういう意味かなんてよく分かっている。
 でけえバッグに着替え、バスタオルを詰めるだけ。毛布を一丁、可能な限り小っこく畳んで家を出た。俺はよく、こうやって遊び部屋へ行って夜明かしをする。外でサッカー小僧もする。高校へ上がれもしたし、元々放任系の親からモンクは出ねえ、警察の世話にでもならねえ限り。
 ほどよい田舎道を一走り。持った荷物は一見夜逃げ道具一式だが、誰にも見咎められはしなかった。最短距離で目的地へ。ガタついた戸の鍵を開けながら通り抜け、遊び部屋へ辿り着く。俺はとにかく9Bが好みなようだ。意識せず、部屋の間取りを以前のようにしていた。ひょっとしたら、前の前もこんなことをしていたんじゃなかろうか。全く本性ってのは変え難い。ほんでありがたいコトに、髪質もそうだった。やっぱ野郎はココも気になる。
 不思議だった。名前も、ツラも性別も身長もお互い前の通りだったなんて。不思議で不思議でしょうがなかった。
 荷物からバスタオルを取り出して、長椅子の端っこへ掛ける。毛布と残りの荷物をその隣のボロい机へ。装備完了。
 きっと待っているだろう、首を長くして。部活なんてとっくに終わっている筈だ、もう家へ帰ってマッタリしている筈なのに、と。
 もう待たせやしねえ。
 一番上に登録した番号へ掛けた。コールなし、すぐに出た。
「哲也」
「遅いよ」

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