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Sun,27 Jul 2003

He strayed from the path of … 15. 諦めろ

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 当人以外に喋っても事態解決にゃならねえさ。それでもまあ……聞いてくれてありがとよ。
「遼」
「なんだ」
「解決方法ならあるぜ」
「ほー。ご教示戴きましょうか」
「今すぐ成田家へ行って成田を殺せ。そしてウメコをかっ攫え」
「……」
「黙る程度なら諦めろ」
「……」
「他に方法は無い。いいか遼、加害者に罪を問えるのはあたしら他人じゃない、被害者だけだ。そして被害者のウメコはあんたらがハラに抱え込んでいるような、罪を背負わされたとは思っていない! あたしゃちったァ聞いているのさ、ウメコから中三時代をな。
ようやっと出来た友達と一緒にいて楽しかった、そいつのお陰だけで学校に受かった、なのに騒ぎを起こしまくって、挙句本来はそいつが聞くべき成田からの告白を間違って自分が聞いちまった、どうすんべ
 とな。入学式があった週末の話さ。
 あたしは当人直で聞いたぜ、中三時代のウメコは不幸なだけじゃなかったんだ! あんたに対してだってそうさ。
 遼。人生どうのされた相手を、誰が師匠なんざ呼ぶかよ。
 いいか。調べれば分かるってえことは、あんたと西園寺がウメコに、いかに尽力したかも分かるってことさ。ちゃんとやることやっただろうが! なにをそんなに怯えているんだい!? 遼、すっぱり諦めろ! たったそれだけでいい! 井上だってあの通りはっきり諦めたじゃないか!!
 ここまで喋らせて悪いけどな、とっくの昔に、惚れた瞬間から分かっていただろう、損するタイプのウメコがまたなにかしら抱え込むことなく事態解決出来る方法はこれだけなんだ!」
「……」
「なぜ諦めない!?」
「ハ・そんなのイチイチこの俺様に言わせちゃうの?」
「なにせあたしはあんたじゃないもんでね」
「惚れているからさ、ハラの底からな。諦める? なんじゃそりゃ」
「だったら成田を殺せ」
「……梅の字泣いちまうぜ?」
「泣くのはウメコだけか。西園寺まで不幸にしたいか」
「……」
「言う気はなかったがこうなったら徹底的な解決方法言ってやろう。西園寺と別れろ。そして独り身になれ。独りというのがどういうことか、その身でもう一度思い知れ。
 元々独りを貫く気だったんだろう。それに戻れ。
 女として言うぜ。それじゃ西園寺が不幸過ぎる」
「悪いが西園寺にもたっぷり惚れていてな、手放す気ァねェ」
「じゃあご両人仲良く不幸一直線だな」
「西園寺も俺に惚れているんだよ。向こうは俺がキッパリ諦めたと」
「思っていない、そうだな」
「……」
「別れろ遼。二股野郎はどうでもいい、西園寺が不幸だ」
「……西園寺はな」
「なんだ」
「ありゃ社交性がなくてな。自分からなにかリアクション起こしたのは常に梅の字に関することだけだった。まるで自信のねえ女なんだよ。持ちたいのはヤマヤマなんだが、俺を遥かにしのぐ努力をしているのに、運悪く近所に頂点驀進中な人間がいたからな。
 自分がなにかをすれば周囲にねめまわすように見られる。言われるのはヘでもねえが、そういう目で見られんのはもう勘弁なんだ。だから、西園寺は独りに戻りたくない。
 ありゃいくらでも手に職を持てるが、就職して周囲と仲良く、なんて性分じゃねえ。どうせ浮きまくる。オンナ共からは嫉まれ放題、野郎共からは真性セクハラされ放題な未来が待っているだけさ。美貌だからな、芸能界のお誘いもあったのよ当然。……人間関係泳がなくちゃとてもやっていけねぇ最たる世界に最も相応しくねえ性分だ、俺が全部ガードした。これからもその必要がある。庇護しなくちゃならねェのよ。
 もうすぐ籍を入れる。そしてこんなオノロケ人間の生息する地なんざオサラバよ。京都へ行って俺ァ稼ぐさ、ヨメさんは三食昼寝つき永久就職だ」
「じゃああんたが諦めりゃハッピーエンドだな。よかったじゃん遼」
「……」
「そんなに諦められないんだったらあたしが親友を塔の天辺から引き摺り出す。当事者たるあんたの為一点に、ウメコを呼んで解決してやろう」
「そこでナニを言えばいいのかなボク」
「実は最初から惚れていた。それだけ言え」
「……」
「ウメコのことだ、きっちり振ってやるさ。なにせあいつァ成田しか見えていない、その他なんざヘでもない。確かに成田は美貌の貴公子ちゃんだがその成田を凌ぐ男がいてもウメコは成田に惚れ続ける。理由はあんたも知っての通りだ!」
「……」
「あんたは期待しているんだよ。ウメコと成田が別れるのをな。一見、仲を保って見せながら。なにせ成田はゲス野郎だ、その隙なんざたっぷりある。
 あんたはこう思っている。ウメコに相応しいのは自分だとな。自分相手ならウメコはなんの遠慮もしない、心配もしない、安心してコロコロ太れる。ハラの底からガッハッハって豪快に笑って、ぶん殴れてイヤミぶっこけて、誰からも筋違いの嫉妬はなく、ホイホイそこら中飛び回って友達連中と付き合い三昧。
 そういう普通の夫婦が出来る、と」
「……」
「そうやって後釜に納まろう、納まる機会が必ず巡ってくると考えているのさ。美貌の西園寺なら相手はなんぼでも見つかる、二股なんてしないそいつに大切にして貰やあそれでいいと」
「……」
「あんたが犯している最大の罪がこれだ」
「……」
「いつまで黒子人生を続けるつもりだい!!」
「……」
「なにをどう聞いてもあんたは西園寺に惚れていない。好いた理由が別嬪だから、その一点だけだからだ。ハラ割って話し合わない両人が、二親から貰ったモン以外の、自分そのものを見出せている筈がない。あんたら二人は自分そのものの塊なウメコに縛られすぎている。囚われまくっている。
 あたしが連れて来るから遼、西園寺と雁首並べてウメコを捨てろ。前野夫妻、立ち会ってくれ。なんだったら坂崎も呼ぶ。遼、あんた自身が地獄を味わえ。西園寺もだ。ウメコはガキの時から知っている。あんたの歳はいくつだ」
「二十二」
「そうか、あたしもだ。……成田、久し振りだな、あたしだ。悪かったなしっぽり中邪魔してよ。ゲロ大会だ、今すぐ前野夫妻宅へ女房連れて来い」
「……、……」
「そうか。置いとく大親友とは名ばかり、ひとえにひたすらウメコのフォローをさせる為あたしを褒め殺して当事者もどきにした貸し、今こそ返して貰うぜ」
「……、……」
「貸しも借りも無しだァ? じゃあもう一声言ったらァ。よくも女にとっては殺人現場に夜の夜中に呼び付けてくれやがったな。これでも来ねえか? アア? そうだ知っての通り遼の件だよ、なにぃ、まだ言って欲しいのかこのあたしに! 誰がウメコを救ってやったと思っているんだ! そうやってしっぽり暮らせていられるのがあんたの独力だけだなんざまさか思っちゃいるまいな!! そうさフルメンバーだ、来やがれゲス野郎!!」
「……」
「遼、西園寺を呼べ!」
「……」
「よお坂崎、佐々木だ。悪いな、遼から勝手に番号訊いて掛けちまった。ナニィ乱交中だァ? 抜いて来い!! 前先宅、今すぐだ!! アァ!? 遼たァ縁切ったァ? もう一度切れ! 来いってんだよ!! ナニィ最低女にメーレーされる謂れは無い!? ンななァ骨の髄まで知ってら、メンツはさの付くやつ全部だ! そうだ旧姓込み! ホレ来たいだろーがとっとと来い!!」
「……梅の字は来ないぜ」
「なんだと?」
「あいつぁ、……西園寺を信頼しているからな。自分が出張る必要はねえ、全部あんたの力だけで出来るって知ってらって言ったんだってよ。そうだろ? 前野夫妻」
「……そうなのか」
「そうなんだよ。僕、これでもヘタな口八丁やってみたんだけど駄目だったんだ。成田の女房殿がね、本当にそう言ったんだ。誰と誰がどうなるかは当人次第だ、って」
「……ウメコ、知っているのか? 遼が自分にホレてるっての」
「なにせ俺は二年間、ホレてますオーラ全開だったからな。あいつぁ自分を誤解させる能力はこの星一番だと言ったろ? 後からじゃねえ、その時その時全てお見通しだっただろう。
 俺があの騒動の時見捨て見下していたとも。
 俺がなにを考えあいつにどう言ったのかも。
 斉が雪の日惚れていながら自分を一年間見捨てていたことも。
 西園寺が背負うべき業を自分が負わされていたとも。
 西園寺は自覚して自分にそれを背負わせていたことも。
 あんたらが生徒会室に自分を呼び付けたのは斉に聞けないからと言ってオモチャにしたからだとも。
 井上や坂崎だけじゃねえ、店に来た連中にも自分にホレていたやつがいたことも……。
 あいつはな、独りだったからコロコロ太れていた。聞けばあの一年間で10kg落ちたそうだ。入院でさらに10kg。どれだけデブだったのやら……。その時当人に直接逢って、本当に見捨て見下せば良かったんだ。……それでも、それでも惚れただろう、その本質に……もっと前から逢いたかった、生まれる処を間違えた、子供の頃からずっと一緒にいられたらどんなにか……。
 西園寺は呼ばん。斉も来ねえ、来たって拳交えて終わりだ。坂崎も来ねえさ。やつは本当の解決能力があるが、だからこそ他人が手を出せば事態はもっと面倒になると知っているからな」
「……」
「アケ。梅の字はテメェの言葉がどれだけ力を持っているか知っている女だと分かっているな?」
「? ああ」
「だったらあいつに中三時代を振り返らせて、実害があった、とんでもねえ地獄だった、なーーーんてその通りゲロさせちまったら……ずっと一緒にいた西園寺の立場がねえべよ」
「……」
 西園寺は人生初の我が世の春を謳歌していたんだぜ。なのにそいつとずっと二人っきりだった女が地獄の真っ最中? おかしいべよ。
 だからそれしか言えねえのさ。いいか、梅の字は“楽しかった”としか言わねえ。苦しかった、辛かった。それは受験生なら誰でも同じだろ。だが梅の字はそれすら言わん。受験勉強を教えて貰っていたからだ。
 楽しい? それだけかよ感想は。ニンゲンやってりゃそんなのは有り得んだろ。しかもあの中三時代を? そりゃ事実の一端だけを喋ったんじゃねェ、丸ごと大嘘ぶっこいたんだ。あいつはそうやって、西園寺を守り続けたのさ。
 俺は極めたその日、懺悔を聞き懺悔しながら、隣に俺のオンナがいたっていうのにアタマん中じゃずっと別人を考えてた。
 そういやあいつ、バカでブスでトロいクセに、辛かったとか苦しかったとか、こんな風に……本音を零したことねえなあ、って……。
 あんたらは? あるか?
 そォ。ダチも親友も師匠も名ばかりなのさ。高三で離れた時は婚約者すら含まれた。ついでにな、間違いなく両親もだ。あいつはそんなメンツが揃う場へは絶対に来ない。ケッコンしたんだ、もう御免だろう。他人の為に血を流し、大嘘を吐き続け、抱え込まされるのは。
 斉は梅の字が自分から離れる女だと終生脅え続けることだろう。そして誰かと手に手を取ってどこかへ行っちまうと思い続けることだろう。その相手を、取り敢えず近場の俺、と想定しているだけだ。有り得るワケねえだろ。俺はこの通りだ、かっ攫ったってせーぜーブクブク太れるってだけだ。すぐどこかへ行っちまうさ。
 行く先々であんな風に、大勢をテメェに惚れさせるだろう。たとえ最初は大誤解されていたとしても、周囲の全てが敵だらけだったとしても、実害をかっ喰らってさえいても。
 斉はずっと梅の字に浮気するなと言い続けていた。その対象者は俺でもなければ奴でもねえ、坂崎でもなければ井上でもねえ。梅の字が心底安心してハラ割れて、落ち着けてしまえるやつさ。
 誰かは知らんがひょっとしたらどこかにいる。梅の字がそいつに出逢っちまったら最期、なにを捨ててもそいつの元へ行くだろう。金もツラもアタマも身分も性の快楽さえも通じなかった。あの夫婦の仲が保っているのは梅の字の尽力ただ一点、あいつは暴力を永久に赦さん。斉は梅の字を引き止める力を何一つ持っちゃいない。

 俺のハラが鎮まるのは、斉が梅の字を見捨てるその時だけだ。
 そうしたらあいつはスパァと諦める。記憶にすら残さん。
 その後にもし、俺に振り向いたとして、それでもやっぱりどっかへ行くと分かっていても。俺にもその力はねェと分かっていても。
 解決策はそれしかねェのよ。振られた程度じゃ諦めねェが俺達なんだからさ……。

〔正しい道から外れる〕stray [deviate] from the right path 彼は成功への道を踏み外してしまった|He strayed [wandered] from the path of success.

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