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Sun,27 Jul 2003

He strayed from the path of ... 13. 意味

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 オヤジが死んで天涯孤独になって、怖くなった。稼いで稼いで稼ぎまくらにゃ生きて行けねェんだからな。だがこういう命懸けの覚悟を、あいつァ十七どころか十五、いや十四の時すでにしていたんだ、ハタチのこの俺が泣き寝入りは許されねェ。もうこの時から就職活動をしていたのよ。ただしこの地にいる気はサラサラ無かった。打ちのめされてたもんだからさ。別なトコ行こうって思ってよ。傍らには西園寺。
 京都にしよう、そう思った。
 修学旅行の時、まあ無言だったけどさ、あの地で和服、似合うじゃんとか、単純な理由で……西園寺って、一緒にいると気が休まんるだ。平穏でさ。料理上手ェし美人だし。この頃かな、ケッコンはっきり意識したの。ただし派手にゃやりたくなかった、もー他人にドーコー言われたくなかった。そっとしといてくれよ、そういうカンジだった。
 気が付けば、俺こそが故郷へ帰れなくなっていた。だから全部処分した。流れ者で、親父の代にフラリと居付いたってだけの斉んとこなんか関係なくな。

 成人式にやっと、バカ夫婦はくっついた。いっやー、よかったわ。単純にそう思ったね。あんたらもだろ?
「ああ」
「ええ」
「そうだね」
 あんっっっっなハデは、あんたらだってする気ァねェだろうけどな、勘弁よ。とにかく俺達ァひっそり披露宴にご参加さ。
 よかったよかった、じゃあ俺達もベンキョばっかじゃなくって青春の一つも謳歌しようかなあ、と、思っていたんだよ。赤門有名人連中が俺達の目の前を通り過ぎるまで。
 あれがどういう意味か、分かるか。
「……いや?」
 斉はお勉学で机に齧り付いてただけじゃなく、高校の時は出来なかった、というよりする気もなかった地球放浪の旅もやっていた。いろんなトコ飛び回って、いろんなやつらに出会って……そういう気持ちは俺だって分かるさ。大学出てからもアゴでコキ使う気でいた二番手連中達と結構一緒に周ってたんだ。独りで行った時もあったみたいだけどさ。
 といっても、あの連中は本業のお勉学ではとにかく斉にゃなーーーんにも敵わなかった。だからさ、弱点を探していたんだ、本人以外の。
 つまり梅の字だ。ありゃ知っての通り、上っ面のデータ上じゃなーんにもねェからな確かに。
 あの斉がなんであんなのを、と斉に関わる誰もがそう思うだろう。斉に関われるやつらったら相当の人間だけさ。すぐ梅の字を調べられる。すると必ずあの騒動が浮き上がる。
 俺はこれを、あの連中が成績は下な筈の坂崎にゃこれ見よがしに挨拶しといて、一応同門である俺達は知らねェよとばかりに素通りした時初めて気が付いた。
 どういう心境だったか、分かるか。
「いや……」
 あの二人の本当の馴れ初めは雪の日だが、実態は土曜の他校に西園寺が斉を呼びつけ試し、将来には梅の字ただ一人に実害が行く大嘘をこきましょうという会話内容。とても公言出来るもんじゃねェ。二人の公的な馴れ初めはあの騒動とするしかなかった。
 だが知っての通りあの騒動は事件だ。本来テレビニュースとして報じられてしかるべきものだ。処分者が被害者ただ一人なんざ異様も異様な結末を迎えた、未解決の事件だ。調べれば調べる程、梅の字ただ一人の功績であること、これだったらあの斉が惚れるのも当然だということ、合同という行事は無関係であること、そして真の加害者は未だに自首していないということが、よく分かるのさ。
 俺と西園寺の言動が、いかにトチ狂ったものであったかということがな。
 この事実は、斉が影響力を持てば持つ程、梅の字を伴侶に選んだことに興味を持たれれば持たれる程、未来永劫浮き上がって来るんだ。
 その事実に気付いて、……震えていたんだよ。

 騒動に至る一年間の連続暴行未発覚事件は、斉が大嘘こかしてあんな噂になって、しかも放っといたからだが、その責任は大宣言で取った。罪は三年弱で贖った。誰も、斉がどんな罪を犯していてももう糾弾なんざしねえ。出来ねえ。その気もねえ。本当に、斉は罪を贖った。あの場には、斉または梅の字に惚れていたやつ、嫉んでいたやつ、罪を暴きたいやつ、足を引っ張りたいやつが大勢いた。だがそいつらや俺、西園寺、仲を引き剥がした舅さえひっくるめた全員がくっついて良かったほっとしたと心底祝福した。そんなケッコン式なんて、……稀さ。
 それに較べて同罪の俺達は? 両人は大学受験を贖罪に見立てていたが、斉に関われるやつらから見りゃ、そンなもんヘでもねェ。俺達のしたことはセーゼー狭い管内やつら向きの筋違いの申し開きでしかなかった。そこから飛び出した、もっと広い世間ってやつに対しては、何一つしていないも同然だった。
 ここで初めて思ったんだよ、あの正解行動をな。翳でコソコソ贖罪なんかじゃなく、高校の内にちゃんとハデに土下座しとくべきだったんだ、梅の字がとても止められないような状況を作ってな! ……なにも考え付かなかった。
 アケや斉は当然のこと、坂崎や井上、当事者とほとんど会わない相馬に至ってはそのままズバリを言ってくれたのにだ!

 上手く行った二人に今更アタマを下げたところで今更さ、むしろメーワク。目出度い行事に水を差すだけ、なんの意味もねェ。そうだろ。
 梅の字は自らの意志で斉を突き放した。もし、あのまま管内を飛び出し、十八でケッコンしていたらどう言われたと思う? 未来永劫、斉を誑かした女って言われんのさ、管内でも広い世間でも。
 梅の字はな、離れた時、間違いなくこれを考えていた。くっついていた期間より長く離れ離れの時期を設ければ、もう誰からもそんな筋違いの嫉妬を未来永劫言われないとな。あいつはな、そうやって、墓に入った先までも見通していたんだ!

 梅の字は斉の、後顧の憂いをその身を以って全て削ぎ落とした。友人連中の強力な盾もあった、もう誰も、あの二人を引き裂けはしねェ。くっつくまでのありとあらゆる苦労を厭わず誰にも祝福されてケッコンして……。
 俺は? この通りさ、何一つ先を見通すことなんか出来なかった。
 俺と西園寺、両人はな。師匠と最初の親友とは名ばかりの、損させるタイプなんだよ。

 もう俺の出る幕と言やァ五月の件のカタを付けるってだけだった。またしても表沙汰にせず翳でコソコソ論法だったがこればっかりはしゃァねえべ、それで坂崎ちゃんを呼んだ。俺がこういう行動に出るとはどっちも分かっていた。縁切るのをこの件まで待って貰ったってそれだけさ、なにせこれが済めば後顧の憂いなんざねェからな。
「遼。解決したことを蒸し返すのもヤボだけどよ」
 ああ、いつ謎解きが終了したか、ってかァ?
「そうさ」
 ケッコン式が終わってからだ。
「……そんなに後か……」
 確証は、奴らがケッコン式に来なかったことでようやっと得た。奴らが来て、まだなにかほざくようだったら根底から揺らいだよ。俺ァどっちかというと奴らに怯えていた、同門なんざ全くノーマークだった。
「そうか」
 坂崎は西園寺をチラっと叱っていたが、もう俺に忠告する気ァねェだろうと思ってゲロ懺悔を二日目までに絞った。三日目までやっていたら話の中心はこの俺さ。そういう場じゃなかったんでな、そいつァいい。
 にしても坂崎ちゃんでさえ、行動理由、動機を思いつかなかったみてェだな。あの場の誰もが思っただろうが、紙一重だった。全員がもう少し、あと一歩踏み込んでりゃぁ早期解決出来たのに……。最悪なスレ違い、最悪の事態先送りだった。
「それについちゃあたしにも非はある。あたしがウメコに訊きゃよかったんだ。尋常じゃねえ事態が目の前に展開されたなら、その当事者が一番辛いんだ、周囲にいるヤツなんざ結局痛くも痒くもない。だからこそズケズケと踏み込むべきだとウメコに叩き込まれていながらあのザマだ」
 まァ済んだことさ、ようやっとだがな。とにかくバカ夫婦の危機と言ったらあの件だけだ。どういう話し合いしたか知らねェが、上手くは行ったらしい。あの後俺の誕生日に斉ちゃんからゲンコと共にご報告戴きました。その時斉藤家の実情もチラっと聞いた。俺はこの通りマジ蹴り喰らう行いなんざ腐る程あったからな、大の字全身打撲でご勘弁戴いた。ま・よかった、そう思ったさ。
 これで斉は蛇対策を大手を振って行えた。知っての通り、うち一匹はもう還って来ねェ。もう一匹はすぐにゃ殺されねェ、死ぬまで甚振られる。そういう意味でも、心底ほっとしたさ。
「ああ」
「ええ」
「そうだね」

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