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Sun,27 Jul 2003

He strayed from the path of ... 12. 正しかった行動

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 さっき俺達の行動が全部不正解と言ったろ。正解はな、俺達両人こそがバカップルを凌ぐ程、ド派手な行為をかまして世間の耳目を集め、きっちり土下座し、自分達こそが犠牲の子羊、悪者になることだった。
 こーんな時期にワビなきゃならねェことした悪者がそーんなにベッタベタくっついているのかよ、と俺達こそが言われていたら、梅の字はあんな、身を斬るような別れを自分からせずに済んだ。俺達だってやりたかったさ、ちゃんとはっきりゲロしてすっきりした上での開き直った濃厚お付き合い。これこそが全員にとってシアワセな大正解だったのにさ。
 それすら考えられない卑屈な俺はひたすらおベンキョよ。なにせ相手も相棒も同じ大学、これで落ちた滑った転んだじゃ、人生捨てるなんてレベルじゃねェべ。今から思えば落っこった方がよかったかも知らねえが、こっちも根性全開でな。ギリギリホケツで受かりました。

 一年経っても梅の字は斉を突き放し続けた。学校おえたからくっつきましょ、じゃあいかにもわざとらしいからな、すぐには斉だってかっ攫えなかった。それをやったら梅の字の一年間の努力がパー、水の泡。しばらくそっとしとくしかなかった。だが毎日だ、毎晩だ、それを未成年の女がだ。いっくらなんでもやり過ぎだ。だから斉は斉藤オヤジに逆襲を始めた。とはいえ斉も斉だからな、無言で脅しの応酬よ。
 これには、他人の俺達は絶対介入してはならなかった。あんたらだって忸怩たる思いだっただろうが知っての通り、取るべき道は非介入しかなかった。そうだよな。
「ああ」
「ええ」
「そうだね」

 そこで俺は自分に目を向けた。なんとか受かったホっとした、これで贖罪おわった過去も清算したァと思い上がって西園寺と静かなお付き合いを再開した。
 と行きたいトコロだが現実はまるで甘くねェ。まず俺ァドンケツ成績、これは四年間一度も変わらずだった。ずーーーーーーーーっとドンケツ、ブービー賞さえ無し。
 周囲からはアホだこいつ、なんでこの門くぐっているんだと卑下されまくり。親無し・田舎モン、散々言われた。全国放浪の旅していたから知り合いはいたけどな、あんな学校でオトモダチなんか出来ません。講義、試験、とにかくあの大学で習うコトみな初めて見る単語・文章・内容。なんっっっっっぼベンキョしても変わらなかった。レベルが高いとかそういう次元じゃ無かった。まーまー、最初の数時間で既にあの学校へ入ったことを後悔したさ。こりゃいつ中退になったっておかしかねェってな。やることといったらバイトにベンキョ、それしかねェ。他人がどうのなんざ余裕はねェ。遊ぶ? デート? ナニソレ状態。忙殺ってーなァああいうのを言うんだなァ、としみじみ思うヒマすら丸で無かった。受験より壮絶さ、あの門内はよ。
 俺が生涯の道と思っていた分野でも、あそこにいるやつァみーーーんな豪快にレベルが違った。俺とそれ以外のやつらの間はたっっっっっっっっぷり空いててさ。ぽっかーんと独り置いて行かれていた。焦燥なんてもんじゃなかった。
 片や西園寺はというと、下から二番目と言ってもいいくらいだった。とにかく下位、あれでもだぜ。だから、ツラで入学出来たのかとまで言われたんだ。更にはよっ美人だね、どこの男誑かすのかって久々に言われたのさ、しかも直攻撃よ。高校までなら格好の餌食たる梅の字にクソゲス話を振りゃよかったが、そんなもんはいなかった。大学に入って初めて成績で見下された、両人仲良くな。因果応報だ。

 助け手なんざどこにも無かった。
 いることはいたさ、成田斉志。だがこいつァ天辺の男だ、頂点驀進中だ。斉にゃ二番手以降のやつらさえうかつにゃ近寄れなかった。セーゼー講義終了後足引っ張るべく口八丁手八丁、女遊びに引き摺りこむしか打つ手がなくてさ。真性二番のやつでさえ、だぜ。そーんな中ドンケツ男とツラだけ女、……二番手連中にゃその程度としか思えなかったろうがよ、が近寄って、ボク相棒でーす、とか、アタシ昔このヒトとあーんな噂があったんでーす、なんて間違っても言えなかった。関わりがあると知られるだけでも顰蹙モンさ。ひたすら他人の目に脅えて勉学に励むしかなかった。なんの余裕もありゃしなかった。
 こんなふうに自分のことしか考えてなかったらオヤジが死んじまった。看取れもしなかった。イナカへ帰るヨユーもなかった。涙も涸れて出やしねェっていうのは、……ああいうこというんだな。
 斉にとっちゃ俺のオヤジは親代わりでもあったんで、電話で知らせた。すぐに出てくれたさ。喋ったのは二年振り、キンチョーしたな。……このケータイ持っていてよかったと、あの時初めて思ったよ。直接接触なんざ出来る身分じゃなかったもんでな。
 オヤジを見送る斉は抜け殻のようだった。あの時ァ多分、斉こそが自分にゃなにもねェとつくづく思ったかもしんねェな。とってもさ。……なにも言えなかった。
 別れて二年以上経っても梅の字はあーんなんでさ、アタマ来て喪服のままお電話してやったらうっせーバカ野郎こっちゃ毎晩汗水垂らして働いているんだ休みなんざねェクソッタレ、ヒマな学生たー違うんだボケとか、まー散々言われたさ。ヒマした憶えはまるでなかったが……こっちはオヤジの稼いだ金で学生よ、反論出来なかった、何一つな。
 それどころか、ここまではっきり叱られたことで思い出した。梅の字は中三から高校の最初まで、こういう思いしてたんだ、ってな。
 成績ドンケツ、友達無し、助け手はあるが関わっちゃいけねェ、周囲の目たるや壮絶で……その上大嘘の誹謗中傷をかっ喰らい、周囲は誰も助けず見捨てられ、人生の終わりを覚悟して加害者を引き連れて他校へ行き、被害者なのに独り処分、誰をも悪者と言えず泣き寝入り。
 ……やっと俺は、梅の字があの時どういう思いだったのかこの身で実感した、イヤになる程な。俺だって、あの大学へもう一回入り直せと言われたら死んでもするかって言い返す。絶対やらねェ、回避する為ならなんだってすらァ。ああ梅の字は、高二のおわりでさえこういう心境だったのかって……全ての実体験が梅の字に重なった。俺ァ男だから力負けはねえ、暴力喰らったってやりかえせる。だがあいつは女だ、その上ツラだウンドーシンケーだ殺されかかって入院だ、毎日毎晩クソゲス会社で働き詰めだ……よく生きている、よくあの体重を維持出来ている、しみじみそう思ったよ。あいつァなにで憂さを晴らしていたのかねェ……。

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