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Sun,27 Jul 2003

He strayed from the path of ... 5. 怯えていた男

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 それは斉も西園寺もだ。だからあの二人を責められなかった。そうやって事態を先送りにしてあの通り。後悔なんてもんじゃなかった。
 いずれ雪の日速攻で調べた結果、梅の字はE高が妥当な成績だった。斉ちゃんはもうE高生気分さ。あそこァホレ、バカでもテンサイでも受け付るからな。あの時はまだ成績を抑えていたし、近場に行ってもおかしくねェ。通学も途中まで一緒になれるってむしろ喜んでいた。
 だったら梅の字んトコ行ってもいいんじゃねェのと思わんでもねえだろうが、斉はいずれ一番を奪る、スレスレに対しての影響力は最凶。よってさっきの理由で理性全開、慎重を期していたんだろう。

 足止めおデンワで梅の字はA高を目指すということが分かった。だったら誰かがスパルタかまさなきゃいけねェ。斉自身は当然除外。確かに西園寺が適任だった。曰く因縁ある人物ではあるものの野郎じゃなし、この辺を見渡せば成績は自分の次。そこまで言うならひとまず中三最初の模試結果を待ち、やっぱ駄目なら自分が乗り込むしかないと判断した。
 結果は極上。知らねェだろ、あいつ百番上げたんだぜ。
 もっとも斉は全国二ケタになっちまったけどな。とにかくこれで、西園寺のおデンワの内容が全て正解その通りであると誤解した。
 実際はもっと大変なことがあったのにな。それで一旦引き下がり、梅の字を預けた。
 その後もあいつセーセキを上げ続けてな。本来は無茶苦茶な右肩上がり、だったんだがなにせ俺の眼前にゃ将来的には一番男。そんな野郎に、ほら見ろ梅子また成績上げたぞ凄いだろ、なーーーんて言われたってなんとも思わなかった。
 俺は当時そういうおデンワがあったなんて知らなかった。さらに言い訳していいか? もしそういう要素があるなら成績落とすべ。なのに上げて来た、スレスレ人間にしちゃ劇的に。だから相棒二人揃って仲良くこんなバカなことを考えていた。受験生としては最善の環境にいる、とな。そんでノーテンキにも、単に成績を調べるだけで一年間全く非介入の放ったらかしだったんだ。……上げなきゃよかったんだよ梅の字のやつ。

 これは後から考えたんだが……あの一年間、斉はやっぱあらゆる意味で梅の字に介入しちゃいけなかった。なにせありゃ梅の字本人視界に入れるとまるで全く理性がねェ、あんな人生の岐路の時、ガキが色ボケかましてみろ。入院なんかじゃとても済まねェし取り返しもつかなかった。
 だが所詮こんなもの、第三者のノーテンキな後付け御意見よ。実際事実は知っての通り。ひとえに梅の字が全てを背負い込んだから表沙汰にならなかっただけだ。

 梅の字は一年間、ありとあらゆる地獄を見ていた。たった独りで。いつ自分がどうなっちまうか、まさに死と隣り合わせで。ひとつひとつを取り上げれば、おそらくそれぞれ立派な事件だった筈だ。その挙げ句があの大騒動に殴り込み。梅の字は間違いなく、事件の度に退学後の孤独な未来を思い描いただろう。そういう女だ。
 中三時代は梅の字の、後々に多々発揮される器を育んだ形成期だった。その師は西園寺。といっても、西園寺はマジ無自覚だった。周囲の勝手なことを言うやつらなんざ、せーぜー梅の字の珍妙な名前に反応してただ単にイジメていただけとしか認識が無くてな。その位完璧に、梅の字は西園寺をガードし切った。そォ、梅の字が西園寺を守っていたのさ、西園寺が梅の字を守っていたんじゃねェ。

 そこまでの地獄とはいえ抜け出るのは雑作も無かった。あいつァ桁違いの他人をそうと自覚させず動員出来るからな、五中の全員にこう言えばよかった。
“自分は西園寺から離れたい、だからあんたら協力してくれ。嫌だろうけど卒業するまで友達のフリをしてくれ、それで体よく縁を切るからさ”
 こう考え、実行出来る能力が高校へ入る前既にあった女だと、あんたらなら分かるよな。
「ああ」
「ええ」
「そうだね」
 ところがだ。そうしちまうと西園寺は独りに逆戻り。再び醜悪なお下劣攻撃をかまされちまう。それをよォーーーーーーく知っている梅の字は西園寺の盾となった、一年間ずーーーーっとな。この間、西園寺は一度も誹謗中傷攻撃を受けなかったそうだ。あの時期が西園寺にとっての、いわば楽園さ。

 そういうヨユーのある優しい西園寺になんぼおベンキョ教えてもらったって、所詮当人が努力しなけりゃランクを三つも四つも上げられるワケがねェ。しかもこんな環境でだ。受験日が近づく程梅の字は西園寺と距離を取って行った。なのに周囲の、学生からの実害だけじゃねェ、両親からすらもとてつもねェプレッシャーを喰らい続けて……
 それを俺は、聞きっ齧りの成績だけで判断し、こう言っていたんだ、斉にずっと、それがどうしたとな!

 そりゃ、……五中のデータを渡されなかったはおろか、五中方面にゃ死んでも行くなと、こんな人をコ馬鹿にした俺にすら釘刺して浮気疑惑を掛けやがる野郎に、俺ァ興味ねェ関係ねェ、ってポーズを取る為もあったけどよ。
 そんでも……ブスでバカなんざ……ハ、斉にゃ最も相応しくねえ女だって、思っていたんだよ。……心底、な。
 誰がそんなトコ行くかバーーカ、とか、つまんねェやつの話聞かせるんじゃねえよウゼェタコ、とか……は、は、は……。

 A高の合格圏内に入った女が何故受験の点数がスレスレ三百番台の成績だったか教えてやろう。西園寺も斉もA高へ行くと知られちまったからだ。あの時梅の字は西園寺ともう完全に離れていてな、クソ五中生から最後の大集中砲火をノーガードでかっ喰らってあの結果よ。
 もし、受ける前から三百番台な成績だったら五中の先生だって受けさせなかったろう、なんぼビンボな家ったってランクを下げただろう。もう大丈夫だと、教師役の西園寺、さらには過保護の斉すら安心出来る順位を取っていたからのマジ本式非介入だった。
 実を言うとな、よく受験会場へ辿り着けた、よくマークシートを塗り潰せた。そういう状況だった。受験日前三日間、梅の字は学校を欠席している。行ったら手足の一つも折られていただろう。心身共に疲労し切った梅の字は最後の庇護を求めた。ガンコオヤジに受験会場まで車で乗せて行ってくれ、途中で西園寺を拾って一緒に行かせてくれと懇願した。
 これがあのクソオヤジにどんっっだけ最低なおねだりと思われたかあんたらにゃ分からねェだろ。受験当日だから、その一点張りで梅の字はなんとか両親を説得し、西園寺を盾にギリギリで身を守り、奇跡的に着席出来たのさ。席の並びが一から六中の氏名五十音順でなきゃ、あの日こそ確実に新聞沙汰だった。

 俺があの噂を聞いたのは受験当日だ。テキトーにマークシートを塗り潰して、さあ帰んべなって一番駅方面へ歩いてったのよ。あーああ、通学の際はこんな道を毎日ちんたら歩かなくちゃいけないのかね、なーんて思っていたら声を掛けられた。五中のバスケ部のやつ、男。
 雪の日以降では、この日が梅の字と確定で再接近出来る絶好の機会だったんだがさっきの理由と理性で斉は一番先に帰って行った。
 俺一人だった。内容、
“こっちの学校であんたの相棒と大ビジンの仲を邪魔してるやつ、ここの学校を受けていたぜ”
 この口調で噂の出始めは最悪一年前だとすぐに分かった。すぐ言い返した。
“生憎俺の相棒は大の堅物硬派でな、そっちの大ビジンを気遣った憶えはあっても付き合ったことは無い。斉の邪魔? そんな大そうなことが出来る人間、俺以外にいるか。いい加減なことを言うな”
 邪魔モンというやつの名前を吐かせた後、そんなもんは嘘だと言い周っとけと言ってその場は収めた。そいつはすぐどっかへ消えた。俺と違って高校でもバスケをやっていたが騒動後退部、B高へご転校よ。六月にゃ更に管外の私立へ逃げた。

 こいつだけじゃない、他の五中のやつらも末路は哀れなもんだった。
 A高、斉に睨まれ大抵転校。その度胸すらねェやつったって、中坊の時ずっとやっていた梅の字通学時襲撃なんか出来やしねェ、全員早朝にご登校。無言で脅迫されていた1Cの五中出身者は第一回合同後即座に転校した。
 B高。格好の逃げ場所となった先にはマトモな連中が待っていた。五中生は全員転入時出身校と、何故近いA高からわざわざ電車くんだり使ってこんな時期に一番遠い学校へ転校して来やがったのかを詳細に述べさせられた。またも“あの”五中生だそうです、同じ出身校の方々共々みんなヨロシクねって教師学生全員丁重に扱ったそうだなァ女史よ。
「……さあ?」
 C高。野郎高校のワリに生徒会長は気弱が伝統な押忍押忍共は全員短気。殴り込みの原因である騒動の顛末を聞きつけられ次第に存在を無視されたが、C高生がどこかに転校するったってランクは上げられねェ。行き先ったってD高は絶対に無理だった。そーだろアケ、前先。
『当然』
 本来の殴り込み犯を出したD高の一年生は最終的に全員教室を飛び出したって言うからな、リッパに罪帳消し。それどころか梅の字を見直して全員改心した。ただしワビは誰一人として入れられず。なにか話によると、梅の字の通学時間のクセを知っているからその時に待ち構えていたやつがいたというが、残念ながらあの後二週間は問題に巻き込まれないよう配慮された結果の朝イチ登校、お帰りは不定期。両親がいる家に行ったら問題がでかくなるし、電話でワビもなんだし随分繋がりづらかったから、格好の機会な合同でと思ったら会合じゃ二回とも自分トコのボスが梅の字をフルガード。アケ、お前達三人衆もやってたってな、無言で脅し。
「あたしゃ脅す時は便所で恫喝って相場を決めていてな。ネチネチ系は藤谷あたりに任せていたさ」
 本番の第一回は当人欠席、バカップル誕生で怖じ気づき、第二回は近づくことすら叶わず、第三回に到ってはあの通り。結局梅の字の家まで行って懺悔した五中の人間はD高生だったそうだな。
「当然だね」
 残るは自由校、E。騒動の直接原因になったA高入学式夕方に店にいた女共や迫害されたB・C高生がここへ逃げた。といっても、なにせ自由とにかく自由、ランクを下げたとレッテル貼られるかと思ったが、転入してみりゃあまりの居心地よさに自分の罪を忘れそうになったがどっこいそうはいかなかった。
 迫害続行の同胞連中から揶揄攻撃が待っていたってワケさ。そしてやっぱり誰も、なんで同じ管内のこんな時期に転校して来たのかという質問には答えられなかった。
『当然』
 結局どこの学校へ行ったって、連中はずっと斉に脅え続けた。斉にゃ下級生は当然のこと、五中のやつらは特に絶対近寄らなかった。あいつ五中の人間と見るや必ず睨み下していたからな。電車通学時、斉の周りにゃ自然にぽっかり空間が出来ていたそうだぜ。
 そして誰よりも斉に怯えていたのは……俺だった。

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