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Sun,27 Jul 2003

He strayed from the path of ... 4. 行かなかった理由

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 梅の字がスレスレな成績と知った斉は、斉藤家へ行ってベンキョを教えるのを断念した。何故かというとな、あんな成績の女の傍に斉がいてみろ。
 ……裏口入学させたな、斉が学校側に圧力掛けて無理矢理入学させたなって言われるんだよ、どれだけ当人が自力で努力しても未来永劫死ぬまでな。そしてこれは斉にとって、終生の弱点になっちまう。だから、自力で高校合格してほとぼりが醒めるまで斉は梅の字に接点を持っちゃいけなかった。
 この判断を雪の日邂逅した時点で下して告りもしなかったとすれば大した眼力だがな。斉が梅の字を一年間ほっといた理由はこの一点だ。成績がいいとはいえ全国レベルでもなんでもねえ西園寺が教えたから、まだこんな風に思われずに済んだのよ。
 俺がこれに気付いたのは、生涯唯一の弟子から成績表を手渡されたその時だ。そういや西園寺とべったりだった時ってコイツ、なんぼ自力で頑張っても西園寺のお陰で〜とか言われてたんだよなとチラっと考えた。ちょっと待てよ、そういや俺は? 誰もなにも言わなかった。だったら斉は? あんだけベタ惚れな斉が何故一年間も梅の字を放って置けた? あんだけとんでもねェスレスレ最低成績な人間を前にして、ベンキョ出来る惚れた人間なら手ェ貸そうとするだろ誰だって。それでもしなかった? あの時期は理性がどうのな話はまだ出なかった。斉はいつだって行けたんだ。なのになんで?
 あーあーそうかそうかこういう理由だったのか、行かなかった、んじゃなくて、絶対に行っちゃいけなかったのか、ってさ。

 西園寺は雪の日、斉が梅の字に惚れたとは分かっていなかった。これを考慮出来ていれば斉に言われた通りの大嘘なんざこかなかった。この点については全面的に斉が悪い。その場で今の話は無しにしろ、俺はあいつにひとめ惚れしたからあのオンナにゃ関わるなとか言えばよかった。
 だが西園寺にしたってケチは付く。足止めおデンワだ。全文正解ではあるものの、西園寺だって頭脳回転数はそれなりだ。噂が出たからこうして掛けたのよ、が抜けていた。あの噂を出始めの一度しか聞かず、その場で否定し後は一切聞かなかった。それで事態を軽視しちまって、斉におベンキョは任しとけって啖呵を切れた。
 ところが噂に対しちゃ最も不味い対処法だった。むしろ斉にはっきり言っときゃ良かった。酷ェ噂がある、五中全員と梅の字の見ている前で否定してェからこっち来やがれ、が大正解だったが、なにせ隣に並ぶだけで誰にでも似合いと思われる。その“一時的な誤解”を怖がっちまった、騒動が起きてすらな。なにせこの俺ですら絵になるなと思っちまっているフシがある。梅の字に至っちゃ今でもあの二人が隣に並ぶだけで半狂乱間違い無しだ。
 それだけじゃねえ、知っての通りあいつの場合はここまで考える。
“並んだ二人を見たみんなは次に自分を見るだろう。あの二人に較べりゃ自分はチンクシャ。そういう視線で見られるくらいなら逃げる離れる、絶対に二度と関わらない”
 ってな。あんたらにしたって、今だってそう思っているから、四者会合という最善の策を採れねえんだろ。
「ああ」
「ええ」
「そうだね」

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