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Sun,27 Jul 2003

He strayed from the path of ... 3. 西川遼太郎(挿話)独白/観客、少々

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 中二の初め、幼馴染が俺にちょいと気があるのを知って無理矢理犯した。初めてでもなんでもねェ、あんな血は見なかった。幼馴染なもんだから、生理の周期すら知っていた。安全日に生オンリー。俺ァ三股以上の一夜妻系遊び人だ、自分だけ見てくれと言うからすぐ捨てた。メンドかった。
「……」
 聡い男に会ったのはその頃だ。成績競争なんざお互いアホかと思っていたが、どうもマトモというか、尋常な男じゃねェという。まさかオトコが向こうから来るワケねェからな、暇つぶしにこっちから行った。
 感想、酒が底なし。別に尋常がどうのにゃ見えなかった。後で聞いたが坂崎はこの時期、完全に本性を抑え切っていたんだってな。
「そうだよ」
「近所だったな、前先」
「引っ越ししたての頃、哲也の口癖はこうだった。
“バッカじゃない。死ねば”
 成績に対してではなく、日常的ささいなことで失敗する、あの年代では誰でもそうなのに、そういう周囲に対して、誰に対しても普通にあんな口調で言っていた」
「……マジか」
「哲也の生まれは京都だ。小学校入学後に戻って来た。だから誰もが思っていた、環境が変わったからだと、周りの教育が悪いんだと、おかしな言葉を言わされているだけだと。少しずつ収まって行ったよ。実際は親御さんに相当な矯正をされていたというだけだった」
 らしいなァ。まるで見抜けなかった。セーゼーその、矯正していたという遊興オヤジについて行って、女遊びの遊興ツアーに廻っているってだけのボンボン、ってな。
「競争と言っていたな。その時あんた達の意識に西園寺環はいたのかい」
 斉、坂崎共に無し。俺ァメンドーだから近場で済ませていた。まだ遠出は考えちゃいなかった。

 とにかく、暇ついでに坂崎を三番駅の家へ連れて行き、オンナはともかくオトコはまだいいだろうと思って、珍しくいた斉に紹介した。あの二人が会ったのはここまで偶然気まぐれの延長でしかなかった。
 で、酒盛りだ。競争なんざしなかった。フツーに底無しに飲んだ。フツーにこんな狭いイナカとっとと出てやるって話になった。三人とも同意見だった。
 大学の話にもなった。やつはキョー大、これって九九憶えたてのガキが今すぐハーバード受けますと言ってるよーなモンだけどー、と言った。斉はすぐさまトー大と言った。
 俺はどことも言えなかった。
 ひとり蚊帳の外のような気分になった。三人で樽二つ開けてやつは帰って行った。疎外感にかられて、必死ぶっこいておベンキョした。なんとか競争は続行された。
 後で気付いたよ。
 斉は自分がどこの大学へ行くかを明言したことはなかった。言えばすぐ噂になって田舎中を賑わすからな。なのにそれを初対面の、自分より遥か劣る筈の男へ言った。
 後で気付いたよ。この時、あの二人は互いの本性を見切って認め合っていたことを。牙を持つ者同士だと、一瞬で看破し合っていたことを。
 これに気付いたのは斉と坂崎の二度目の御対面時。“当人直男”と異名を取ったあの騒動後だ。
「……」
 夏休みの初日、どこかへ行こうかなと思っていたら、幼馴染みが家に来た。シッシと言ったらたら妊娠したと。居間で話を耳にした親父に後頭部を一発強打され、その後三日意識が戻らない程折檻を喰らった。
 その間、幼馴染、つまり斉のそれでもある女を病院へ連れて行って胎ろさせた。この時斉はヤるのイロハをあらかた知った、知るハメになった。
 斉が女嫌いなのは、先天的なモンもあるが、母親が自分のせいで産褥死して、妻を失った父親に置いて行かれたと人づてに聞かされたからだ。父親は本当に斉を憎んでいた。生誕当日自分の息子がどれだけの才能を持っているか、どれだけの美男子になるかなんざ分かるわけが無い。知ってりゃ人生まるで違ったが、実際は斉だけが生き延びた。
 父親は血まみれの赤ん坊にゃ目もくれず、斉に殺された妻に関するものを出産の翌日に遺体と共に全て灼き、すぐに島国を出た、名さえ与えずに。
 斉志という名は斉の母親と親交のあったあった俺のお袋が生前聞き付けていたのを役所に届けただけだ。形見の品は斉の父親が遺して行ったんじゃない、親父が別件で貰った物だ。
 斉は女に関われば不幸にする、殺してしまうと思っていた。だったら最初から関わらないと思う前から下らん噂され放題。二重三重の堅物硬派になっちまっていた。それじゃ将来やべェだろ。だから親父は自分でも出来た俺の後始末を斉にさせた。その幼馴染は転校して行った、対外的にはな。実際は中退。これが借りだ。

 俺は自分に罰を下した。斉にも親父にも言わずにな。女にはもう二度と手を出さん、と。
 斉は俺がどんな罰を自分に下したのか、すぐ分かっていた。なにせ俺ァここまでの遊び人だった。ぱったり女遊びを止めた俺に、単に反省しているから、じゃあなくて、こりゃ死ぬまで独りぼっちを貫くな、と、もう分かっていたのさ。双子みてェだったからな俺達は。
 改造携帯は幼馴染と斉がサシで話す為に造った。キャッチも留守電も一切無え、震えれば必ず出る、だから自分を頼れ、と。だが幼馴染は斉の助力の申し出を全て断った。
 幼馴染の分の改造は俺が持った。その性能を調べてソラ恐ろしくなった。斉の才能、その全てに。当時はコレ一本で地球上全て、なんてブツ、民間人は持っちゃいなかった。改造改造と言っているが、実際はイチから造ったシロモンだ。俺の専門分野だったのに、それすら斉は俺を遥かに凌駕していた。天辺の男なんだよ斉は。

 学歴もその他もなにも持たない、最も立場の弱い女はその後自力で自分の立場を確立させている、というのを知る為に、長期休暇ごとに旅に出た。世間の荒波に飲まれようか、このままくたばっちまおうか、そう思いながら。
 同じ立場になってやろう、ってさ。
 そしたら斉が惚れた女を見つけて来た。喜んださ。必ず仲上手く行かせたろうと意気込んだ。それでもよ、相棒の俺にだぞ、さっぱ当人のひととなりを教えちゃくれねェ。名前と出身中学だけ言われたって困るべよ。したらさ、かなりのアホだっていうんだ。実にトロいらしいんだ。それで友達ようやっと一人。クソ田舎の高校へ入るのすら危ういと。これを聞いて、顔写真も見せてくれねェのは、ははァ実はブスだなこりゃと憶測した。
 でェー。俺はこうも思った。カッコよく一瞬で惚れたはいいものの後で調べりゃ実態はあ〜んなの。あ、斉ちゃん後悔してんな? ってさ。俺に惚れた女が出来ましたと言った以上、ホレ・プライド高いじゃん? 引き下がれなくなっているだけだ。なーんだ、大したことねえじゃんかと、思っていたんだよ。高校に入ってから一日と数時間まで。

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